1176.一家全員、賛助会員。
「襲撃事件のせいで、ゆっくり見れてないが……素晴らしいところだな。この『ツリーハウスクラン』は」
ムーンリバー伯爵がそう言って、『ツリーハウスクラン』について切り出した。
どうも気になっていたようだ。
「いやぁ……ここ数日、ルージュだけでなくベニーやムーランまでもが力説する始末だ。ここが素晴らしいから、賛助会員になれと言って、うるさいのだよ」
そんなこと俺に言われても……苦笑いで返すしかないけど。
「まぁクランだから、いくら目立っても、冒険者活動の延長ということにはなるだろうが……」
少し呆れたような顔で俺を見ているけど……やはり苦笑いで返すしかないんですけど。
「だが……この迷宮都市で、寄る辺もないみなしごたちを全て保護してくれたこと……行政を預かる者として、感謝するとともに詫びたい。
私の行き届かなかったところを、助けてもらったかたちになった。本当に感謝する。そしてすまない」
「いえいえ、たまたま関わった子たちがいまして……。
みんなで助け合って、人拐いから隠れて林で生きていたんです。ほっとくわけにはいきませんでした」
「そうか、貴公らしいのう。
クランは、ギルド長の入れ知恵だろうが、いいアイデアだ。
子供たちをクランメンバーにしたのは、正解だな。
行政の方からは、よほどのことがない限り、口出しできん」
伯爵はそう言って、ギルド長に視線を送った。
ギルド長は、ニヤッとした。
伯爵もそれを見て、ニヤリとして頷いた。
「子供たちを保護したいという趣旨だったものですから、図らずも大人数のクランになってしまいました」
「そうじゃな。冒険者もかなり入ったらしいから……はっきり言って、この『ツリーハウスクラン』は迷宮都市で一大勢力になっておる。
もう笑うしかないがな。
新人冒険者を育成するというのも素晴らしい目的だ。
その趣旨があればこそ、人数が多いことも説明がつく。
そして、レベルが高い冒険者ばかりが集まっているわけではないから、国に変に警戒される可能性も低いだろう。
まったく……長いこと太守をしているが、貴公のような者とは会ったことがない。ほんとに面白い男だな、ワッハッハ」
伯爵は、愉快そうに豪快に笑った。
「恐縮です……」
「そこでじゃぁ……我らも賛助会員にならせてもらう。ここにいる者皆入らせてもらう」
伯爵が、ニヤリとして言った。
「ありがとうございます。でも太守のお立場的に問題にはならないのですか?」
「うむ、心配無用だ。個人としての行いだし……いわば、孤児たちを育てている孤児院類似の存在への寄付だ。問題ない。
これが問題だと言うならば、伯爵家の私財から既存の孤児院に寄付しているのも、全て問題ということになる。
そんなことを言う者はいないだろうし、いても逆にやり込めてやるわい。ワッハッハ」
伯爵はそう言うと、また豪快に笑った。
「ほほう、伯爵にしては珍しい大胆な判断じゃのう。ワシですら、ギルド長という立場を考えて、賛助会員になるのを控えておるというのに」
ギルド長が、伯爵に悪戯っぽい顔を向ける。
「まぁギルド長の場合は、冒険者を管轄している機関の長だからしょうがないだろうよ。
太守は、冒険者とは直接は関係しておらんからのう、ワッハッハ」
「ふん、そんなこと言っても、どうせこのクランで出る美味い料理が目当てなんじゃろ?」
「何を言っておる、……まぁ否定はせんがのう、ワッハッハ」
伯爵は、ギルド長の悪戯な笑みに、同様の顔で返し豪快に笑った。
と言うことで……ムーンリバー伯爵、長男のムーディーさん、次男ムーニーさんの嫁のミッティさんの三人が、新たに賛助会員になってくれた。
全員十口なので、毎月三万ゴルの会費となる。
先に会員になってくれているムーディーさんの奥さんのベニーさんと、次男のムーニーさん、長女のムーランさんを入れると……六人なので、全員合わせると、毎月十八万ゴルになる。
ありがたいことだ。
賛助会員になってくれたお礼をしつつ、感謝の気持ちも込めて、本日解禁したばかりの新メニュー『ハンバーグ』をご馳走することにした。
まだお昼までには少しあるが、味見程度なら食べられるだろう。
『クラン本館』の応接室を出て、その前にあるツリーハウスに案内する。
ツリーハウスといっても、枝の上にある本当のツリーハウスではなく、二本の木の後ろにあるコの字型の建物だ。
二本の木に乗っているわけではないが、二本の木と接続する形で密着しているので、これもツリーハウスというわけである。
この建物と二本の木の前に広がる庭スペースを『ラウンジ館』と呼んでいる。
庭のスペースには、テーブルと椅子が置いてあって、お茶を楽しんだり、食事ができるようになっているのだ。
コの字型の建物全体も、ラウンジということで、食事やお茶ができるスペースになっている。
炊事チームに手伝ってもらって、早速『ハンバーグ』を作る。
念のため、『ハンバーガー』も食べれるようにセットする。
子供たちと遊んでいたルージュちゃんも呼んでもらったが、子供たちがみんなついてきてしまった。
『ハンバーグ』を作っているのを見て……みんなよだれを垂らしそうになっている。
朝たっぷり食べたと思うんだが……。
本当にこの子たち……かなりの確率で、フードファイターに仕上がってしまいそうだ。
こうなったらしょうがないから、早めのお昼ご飯にすることにしよう。
二食連続で、『ハンバーグ』と『ハンバーガー』となってしまうがいいだろう。
子供たちが嬉しそうだし。
『ハンバーグ』の数量を大幅に増やし、付け合わせで『ポテトサラダ』と『ポテトチップス』も用意した。
ムーンリバー伯爵とギルド長も、待ちきれない感じで、そわそわしている。
少し挙動不審だ。
この都市の有力者二人も、美味しい食べ物の前では、子供のようになってしまうみたいだ。
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