1169.木に、魂が宿る。

 みんなでの楽しいハンバーグ朝食が終わり、俺はもう一つ気になっていることを処理しようと思っている。


 それは、昨夜の襲撃の時に、この『ツリーハウス屋敷』に生えている木が動いたことの調査だ。


 木が動いたと言っても、歩いたわけではない。

 四本生えているうちの一番左の一本……『養育館』の前に生えている木の枝が動いたのだ。


 ポロンジョが『魔物人まものびと』になって、子供たちに襲いかかろうとしたときに、守るように枝が動いて、ラリアットをかましたのだ。


 明らかに木の枝が、すごい範囲を動いたんだよね。


 だが今は全く普通の木だし、『波動鑑定』をしても『ワイルドカジュマル』と表示されるだけである。


 ただあの不可思議な現象は、ただならぬものだと思う。


 そこで俺は、木の専門家を呼ぶことにした。


 『ワンダートレント』のレントンだ。


 俺は、人目につかないように建物の中に入り、『救国の英雄』の『職業固有スキル』の『集いし力』を使って、レントンを転移で呼び寄せた。


 そして、早速レントンを連れて、庭に行く。


 『トレント』は、かなり珍しい存在なので、子供たちが皆興味津々で遠巻きに見ている。


 俺は子供たちに、レントンを紹介し、怖くないことを伝えた。


 レントンの優しい話し方を聞いて、安心したのか子供たちがすぐに寄って来た。


 子供たちも、この木が動いたのは見ていたので、子供たちに隠すことなく見てもらうことにした。


「この状態で枝が動いたなんて、信じられないのだ。

 けど……もしかしたら、この子は、魂を宿そうとしているのかも……」


 レントンが、木に触れながら呟くように言った。


「普通の木が魂を宿す事もあるの?」


「うん、可能性はあるのだ。

 例えると……物が付喪神化する感じに似てるかも。

 植物は、一種の生命ではあるけど、魂を宿しているわけじゃないのだ。

 ある意味、一番精霊に近い存在かもしれないのだ。

 生命ではあるけど魂を宿していない特別な存在とも言えるのだ。

 そんな植物が、ごく稀に魂を宿すことがある。

 それが『デミトレント』として、覚醒した場合なのだ」


「『デミトレント』……?」


「うん。『トレント』は、あくまで最初から『トレント』として生まれ落ちるんだけど、植物に魂が宿って、『トレント』みたいになった状態を『デミトレント』って言うのだ」


「『トレント』に近い生物になったってこと?」


「うん。ただ、『トレント』みたいに、動くことはできないのだ。

 そのままそこに生えていて、意識だけを持った状態って感じなのだ」


「なるほど……それでこの木は今、そうなりつつあるってこと?」


「そう思う。

 ただ……まだ『デミトレント』になっていないのに、枝が動くっていうのは、おかしいのだ。

 多分だけど……この木を構成している精霊たちが、子供たちを救いたいと強く思ったんじゃないかな。

 それに周りの精霊たちが力を貸して、一時的に『デミトレント』化した状態になったのかも」


「そういう可能性があるわけか……。

 それで、もうすぐ『デミトレント』になるのかな?」


「多分なると思うんだけど……いつなるかは、わかんない。後押しすれば、すぐなるんじゃないかと思うけど」


「後押しって?」


「エネルギーを、送ってあげることかな……」


「レントンできるの?」


「うーん、ぼくやったことがないから、わかんないけど……『ドライアド』のフラニーや、『植物使い』のデイジーちゃんや、その『使い魔ファミリア』の花の聖獣『アルラウネ』のソラちゃんを呼んで、みんなでエネルギーを送ったら、覚醒してくれるかも」


「なるほど。みんなにお願いしてみるか……。

 そうだ、俺の『固有スキル』の『波動』に、付喪神化を促進できる『生命力強化』という技コマンドがあるんだけど、この木に効果ないかな?」


「あ、それいいよ! マスターのエネルギーは凄いから、覚醒するかも!」


「そうか、じゃぁまずは、それを試してみよう。ダメだったら、フラニーたちに集まってもらって、みんなで一緒にやるか」


「うん、それがいいと思う」


 俺は木にそっと触れて、『生命力強化』コマンドを発動し、俺の生命エネルギーを流し込むイメージを強く持つ。

 そして……祈る。

 ……目覚めてくれ!

 ……昨日助けてくれて、ありがとう!

 感謝の気持ちも込める。


 レントンも一緒になって、木に触れてエネルギーを流してくれている。


 ……ん、なんだか、木全体が微振動している感じだ。


 そして、木全体が暖かい光に包まれていく……


 なんとなく……付喪神化するときの感じに似ている。


 ……そして光が消えた。


 なんとなく……うまくいったのはわかる。


 『波動鑑定』すると、生物のステータス画面に変わっている。

 『種族』が『デミトレント(霊木ワイルドカジュマル)』と表示された。


 『デミトレント』として、覚醒してくれたようだ。


「あゝ……ぼくは……意識を持ったみたいだ。

 ……わかる。

 ……子供たちを感じる。

 そして見える……」


 『デミトレント』は、言葉を発した。


 無邪気な感じもありつつ、大人っぽい感じもある不思議な話し方だ。


 そして……目もないし口もないんだけど、木全体から声が響いてくる感じだ。


「やぁ、俺はグリム、よく目覚めてくれたね。君が生えているこの場所に住んでいるんだ。よろしく」


「あぁ、わかります! マスターですね、わかります! 今意識を持ちましたが、過去のこともわかります!

 寂しかった僕に、暖かさをくれた強き王。

 この暖かい場所を守りたい……僕の中の精霊がそう思って、昨日動けた。

 そして今、覚醒できた。

 マスターのおかげです。ありがとう」


「こちらこそ、子供たちを助けてくれて、ありがとう」


「この場所は、必ず守ります。マスターの眷属として」


「眷属……?」


「はい。マスターの眷属です」


 さっきはよく見なかったが、改めて『波動鑑定』する。


 確かに『状態』表示が、『グリムの眷属』となっている。


 ちなみに、レベルは1だ。


 ふと思ったが……この子の場合、ここから動けないから、どうやってレベルをあげればいいんだろう……?


 訓練することも難しい気がする。


 ここに魔物を連れて来て、戦わせるしかないような……。


 まぁ後でゆっくり考えよう。


「ほんとだね。眷属になってくれたんだね。ありがとう。改めてよろしく」


「はい、これからが楽しみです。

 それから、レントン、助けてくれてありがとう。

 これからよろしくお願いします」


「うん、『デミトレント』になってくれて、嬉しいのだ。よろしく」


 レントンも、嬉しそうだ。


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