1150.二つの、作戦。
迷宮に侵攻してきた悪魔は、上級が二体、中級が三体だ。
倒すだけなら、多分問題は無い。
問題は、どうやって捕まえるかだ。
白衣の男が隠れていた迷宮遺跡での轍は踏みたくない。
俺は、『隠密のローブ』の機能を発動させているので、姿も気配も消えているし、波動情報も阻害した状態になっている。
いまだに悪魔たちは、俺の存在に気づいていない。
『上級悪魔』には、『状態異常付与』スキルが通用しないことはわかっている。
おそらく、『中級悪魔』にも効かない可能性が高い。
物理的に拘束するしかないが、この前の『赤の上級悪魔』は、口をわらずに自爆してしまった。
その轍は踏めない。
だが、はっきり言って、拘束して情報を引き出すための良策は、まだ思いついていないのだ。
そんな俺だが、情報を引き出す事は無理でも、欲しい情報を掴むための対策は、二つだけ考えている。
それを試すしかない。
一つは、『プリズンキューブ』に閉じ込めることだ。
これは『正義の爪痕』が使っていたもので、魔物や人などロックオンした対象を特別な亜空間に引き込んで、閉じ込めることができるのだ。
だが、『上級悪魔』は、転移で逃げる可能性がある。
ダメ元の作戦だ。
そして、もし捕まえることができたとしても、そこから先はまだ未定だ。
一度『プリズンキューブ』から出して、物理的に拘束して情報を聞き出すとしても、その時点で前回みたいに自爆される可能性がある。
ただ、もし閉じ込めることができれば、時間を稼げるので、その間に何か有効な手段を見つけられるかもしれない。
まぁ拘束できるかどうかやってみて、うまくいったら次の段階を考えるという程度の作戦である。
あと、『中級悪魔』なら普通は転移を使えないみたいだから、捕まえておくことができる可能性が高い。
重要な情報はムリでも、少なくとも根城の情報ぐらいは引き出せるかもしれない。
最優先は『上級悪魔』だが、余裕があれば『中級悪魔』も捕まえておきたいところだ。
もう一つの作戦は…… 二体の上級悪魔に、マーカーを取り付けておく作戦だ。
これはあえて、取り逃すことを前提にした作戦だ。
無理矢理情報を引き出すことができないのであれば、あえて逃して、それを追跡できるようにする作戦である。
俺が『波動検知』で探せる可能性にかけるのだ。
『波動検知』の効果範囲は、まだ定かではない。
かなり遠くにいかれると検知できない。
それでも、悪魔たちの根城がここ『アルテミナ公国』にあるのは確かだと思うので、マーカーを取り付けることができれば、探し出せる可能性がある。
公国全土を隈なく探し歩けば、見つけられるはずだ。
今は、その可能性に賭けてみるしかない。
マーカーに利用するのは、『魔鋼繊維』だ。
『マシマグナ第四帝国』時代には使われていた素材だが、今は『魔鋼』はあっても『魔鋼繊維』はない。
失われた技術となっているのだ。
それゆえに、普通には存在していない素材なのである。
マーカーとして、機能するはずである。
これを密かに、悪魔のマントにでも取り付けようと思っている。
最初に二体の『上級悪魔』に、マーカーをつける。
そのうちの一体を『プリズンキューブ』に引きずり込む。
それが成功し、余裕があれば『中級悪魔』も『プリズンキューブ』に引き込む。
そんな流れの作戦だ。
俺は、『隠密のローブ』で姿を消したまま悪魔たちに近づく——
『上級悪魔』二体に、マーカーをつける。
……完了。
ここまでは、予定通りだ。
問題はここからだ。
確実に、俺の存在が露見するからね。
俺は『プリズンキューブ』を取り出し、密かに
『ロックオン』でターゲットを固定し、『ゲット』で取り込む。
よし、取り込んだ!
レベルの低い方の『鞭の上級悪魔』を取り込んだ。
だがこれで、悪魔たちに俺の存在がバレる。
悪魔たちは、一気に臨戦態勢を取った。
周囲を警戒している。
だが、俺は姿を消したままなので、すぐには見つけられないだろう。
俺は、一縷の望みを託し『プリズンキューブ』をそのまま『波動収納』に回収……と思ったのだが、一縷の望みは絶たれてしまった。
すごい速さで、『鞭の悪魔』が戻って来た。
亜空間に閉じ込めたはずなのに……。
やはり『上級悪魔』は、転移系のスキルが使えて、亜空間からでも戻って来れるようだ。
そして何故か『鞭の悪魔』は、俺の場所がわかったようで、俺に鞭を当ててきた。
もちろんガードしたのでノーダメージだが、『隠密のローブ』がダメージを受けて、隠密機能が解除されてしまった。
『上級悪魔』だけあって、凄まじい数の鞭を打ち出していたのだ。
一種の範囲攻撃だった。
俺の居場所がわかったというよりは、怪しいところ全体に打ち込んだだけだったのかもしれない。
まぁいい。
こうなったら、正攻法で倒すだけだ。
『上級悪魔』の捕獲は無理だったので、もう一つの作戦で行く。
最終的に、わざと逃す作戦だ。
俺の今の装備は、『闇の掃除人』仕様なので、仮面をつけている。
偽装ステータスも、それ用のものを貼り付けてある。
グリムであることは、一応隠したほうがいいと思ったのだ。
俺の存在は、悪魔たちに認識されているはずだし、既に警戒されている可能性が高いが、この戦いは、仮面をつけて正体不明の状態で挑もうと思っている。
今までの悪魔は、基本的にその場で倒していたから、俺の戦い方の情報は持って帰られていないはずだ。
だが、今回は敢えて逃す予定だから、情報も持って帰られてしまう。
そういう意味でも、今手に入れたばかりの勇者武具を使う意味は大きい。
俺の個性を、消すことができるからだ。
セイバーン公爵領の『コロシアム村』での『正義の爪痕』との戦いを、悪魔が見ていたとしたら、その時の俺の武装や戦い方は知られているだろう。
その時の武装を使わなければ、今の俺を別人と認識してくれる可能性も、わずかだがある。
まぁ同一人物と分かったら分かったで、しょうがないけどね。
既に俺は、悪魔に狙われている感じだからね。
『ドクロベルクラン』による襲撃の裏に、悪魔の存在があるとしたら、尚更そうなるし。
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