1151.おしゃべりな、悪魔。

 悪魔たちの前に姿を現した俺は、早速、勇者が使っていたという武具『魔手甲 ゴールドフィンガー』を装着し、起動させる。


 既に、『鞭の上級悪魔』が無数の鞭を連続で放ってきている。


 奴の両腕が、無数の鞭に変形し、触手のように襲ってくるのだ。


 奇しくも、この『ゴールドフィンガー』と同じような形態だ。

 触手同士の戦いという感じになりそうだ。

 奴の鞭は、俺の十本の指よりはるかに多いけどね。


 ただ、数的に不利でも、負けるつもりはない。


 俺は、『ゴールドフィンガー』の指先を伸ばし、意識を集中し……迫ってくる鞭を全て叩き落とす。


 叩き落とした鞭は、半数以上がちぎれている。


 だが『上級悪魔』だけあって、凄まじい再生能力だ。

 ちぎられても、すぐに再生している。

 ちょっと面倒くさい。


 その間に『緑の中級悪魔』三体が、俺のほうに突進してくる。


 厄介な。


 俺は、左手に自動防御を命じ、打ち込んでくる『鞭の悪魔』の鞭を防御させる。


 そして、右手に意識を集中する。


 ……発動真言コマンドワードが思い浮かんだ!


「ゴールドフィンガァァァスピアッ!」


 発動真言コマンドワードと共に、右手の五つの指が槍の穂先のように硬く尖り、『緑の中級悪魔』一体の体を刺し貫いた!


 体に五本の槍を刺された状態となった『緑の中級悪魔』は、靄となって消えている。


 すごい攻撃力だ。


 どうやら鞭のように使うだけじゃなくて、指先がそのまま槍になるみたいだ。


 ん、また新たな発動真言コマンドワードが!


「ゴールドフィンガァァァソォォォドッ!」


 今度は、伸びていた指が合わさり、一つの幅広の剣になった!

 まるで手刀がそのまま長く伸びたような感じだ。


 俺はその状態を確認するとともに、横薙ぎに払った。


 これでもう一体の『緑の中級悪魔』を、斬り裂いたのだ。

 靄となって消えている。


 その間に、もう一体が近づいて来たので、『鞭の悪魔』の攻撃を避けつつ、うまく回り込んで『緑の中級悪魔』のパンチを左手で受け止めた。

 あえて受け止めたのだ。


 軽く体に振動が伝わるが、それによって、この攻撃の衝撃を吸収したのがわかる。


 そして今度は、右手の掌を奴に向ける。


「ゴールドフィンガァァァウェーブッ!」


 頭に浮かんだ発動真言コマンドワードを唱えると同時に、


 『緑の中級悪魔』に衝撃波が放たれた!


 奴の攻撃を吸収し、衝撃波として打ち返したのだ。


 奴は、『鞭の上級悪魔』のほうに大きく吹っ飛んだ。

 盾代りにしたので、鞭が体に当たりボロボロになっている。


 だがまだ生きているので、俺は、すぐに後追いパンチをぶちこむ!


 ——バンッ


 『緑の中級悪魔』の頭が吹っ飛んだ。


 最初に『霊域』で悪魔に遭遇した時は、訳も分からずワンパンで倒してしまったが、このワンパンで倒すのが、一番気持ちいいかもしれない。


 今度悪魔を倒す時は、余裕があればワンパンの連続でいいかな……。

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 さてと……残りは『上級悪魔』、どうするか……。


「貴様、何者だ!? 勇者なのか?」


 『鞭の上級悪魔』が、一旦攻撃を止めて、誰何してきた。

 中級悪魔を瞬殺で屠ったから、少し驚いているようだ。


 一つ分かったのは、グリムだということが、バレてないみたいだ。

 ラッキーだ!


 そして、『隠密のローブ』の波動情報の阻害効果は、何とか生きているようだ。

 俺を、鑑定できていない。


 まぁ『上級悪魔』だからといって、必ずしも鑑定的なスキルを持っているとは限らないけどね。


「お前らに、名乗る名前などない!」


 もちろん声色を変えている。

 そして『闇の掃除人』のキャラ設定通り、偉そうな感じで話す。


「なんだと!」


「なぜ、この迷宮を狙う?」


「なにを! ……ははぁ……お前は、この迷宮のダンジョンマスターなのか!?」


「ふん、そんなわけあるか! ただの通りすがりだ。だが悪魔は嫌いなんでね……」


「何を!」


「何か……この迷宮に、掘り出し物でもあるのか? あるなら俺がいただく」


「ヒャ、ヒャ、ヒャ、馬鹿なことを。この迷宮が、どれほどのものか、確かめに来ただけだ。

 お前がダンジョンマスターなのだろう? 

 わかっているぞ! ここは、天然の迷宮ではないな! 

 天然の迷宮でなければ、我らで制圧できる。

 お前はもうおしまいだ! そしてここは、我らの第二の根城として利用してやる!」


 おお、なんかいろいろ情報が……。


 この『鞭の悪魔』は、馬鹿なのか……?


 勝手に勘違いして、すごい情報を教えてくれちゃってるけど。

 まぁダンジョンマスターというのは……勘違いではないけどね。


 だが、俺の本来のステータスは偽装しているし、そもそも波動情報が阻害されていて、確認できていないはずだ。


 完全に当てずっぽうで、言っているだけだな。


「何故、天然の迷宮を狙わない?」


「ヒャ、ヒャ、ヒャ、かかったな! バカめ! やはりここは、天然の迷宮ではないのだな。

 ヒャ、ヒャ、ヒャ、お前のバカさ加減に免じて教えてやろう。

 ……通常、……そう通常は、天然の迷宮の最深部には、悪魔は入り込めない。

 特別な結界が施されているからな。

 だが人造迷宮なら関係ない。

 ここはいただくぞ! ヒャ、ヒャ、ヒャ」


 『鞭の悪魔』は、俺が誘導尋問に引っかかったと思い、バカにしたような感じで、笑みを浮かべている。


 だが、情報を引き出されてるのは、お前の方なんだよ! バカめ!


 重要な情報が得れた。

 天然の迷宮の最深部には、悪魔は入れないのだ。

 だから悪魔が、迷宮を支配する事は、なかったわけだ。


 だが、人造迷宮なら支配できてしまう。

 そんなこともあり、大森林の『テスター迷宮』が悪魔に狙われたのかもしれない。


 人造迷宮と言っても、ほぼ天然の迷宮と同じような機能がある。

 悪魔が制圧してしまえば、迷宮内の魔物を利用することができるし、奴らの根城として活用することもできるわけだ。


 だが……なんで今更……?


 この迷宮は、何千年も稼働してるんだから、今までに制圧していてもおかしくないと思うのだが……。


 たまたま最近になって、人造迷宮であることがわかったのか……?

 それとも、今までは制圧する必要性がなかったのか……?

 それとも別の何かがあるのか……?


 まぁ今考えてもわからないから、考えるだけ無駄だな。


「なんだ、悪魔ともあろうものが、家を探してるのか? 今の家は狭いのか?」


 俺は、小馬鹿にするような言い回しで、尋ねてみた。

 何とか今の根城の情報を、引き出したい。


「ヒャ、ヒャ、ヒャ、バカを言うな! 我らの根城はな」

「“鞭の”よ、やめておけ。お前は、おしゃべりが過ぎるぞ」


 くそ!

 もうちょっとで、何か言いそうだったのに、『人形の悪魔』が止めた。


「良いではないか、こやつは、どうせここで死ぬ」


 鞭の悪魔は、俺を見て嗜虐の笑みを浮かべている。


「それはどうかな?」


 俺は、指を曲げて挑発する。


「ヒャ、ヒャ、ヒャ、バカめ、死ね!」


 『鞭の悪魔』は、再び無数の鞭を放ってきた。


 第二ラウンド開始といったところか。


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