1149.勇者が使っていた、うごめく武器。

「まさか『勇者武具シリーズ』?」


 俺は、『セイチョウ迷宮』の宝物庫に勇者が使っていた特別な武器があると教えてくれたイチョウちゃんに、尋ねた。


「『勇者武具シリーズ』かどうかは分かりませんが、かなり特殊な機能の武器のようです」


 仮に『勇者武具シリーズ』でなかったとしても……これを手に入れないわけにはいかないな。


 正直、ダンジョンマスターがシステム的に必ずしも必要でないなら、就任するのはやめておこうと思っていた。

 だが、その武器を手に入れたいので、ここは就任するしかない。

 物欲のために就任するようで、少し後ろめたいが……まぁいいだろう。


 冷静に考えても、今回悪魔を撃退したとして、ここを狙う理由があるはずだから、悪魔の手に渡さないためにもダンジョンマスターに就任しておいたほうが良さそうだ。


「わかった。ダンジョンマスターになるけど、手続きはすぐに済むよね?」


「はい。大丈夫です」


「じゃあ頼む」


 俺がそう言うと、またどこからともなく俺の体に光が当てられ、サーチされているような状態になった。


「ダンジョンマスター登録が完了いたしました。宝物庫を開放いたします。先程の武器は、第三宝物庫です」


 イチョウちゃんがそう言うと同時に、一つの部屋の扉が開いた。


 あそこが第三宝物庫だろう。


 早速中に入ると……様々な武具が置いてある。


「こちらの手甲が、その武器となります」


 ホログラム映像のイチョウちゃんが指さした先には、グローブのようなものが置いてある。


 手の甲に板のようなものが付いているが、見た目は五本指のグローブに見える。グレー色だ。


 早速、『波動鑑定』すると……『名称』が『魔手甲 ゴールドフィンガー』と表示された。


 『階級』は、確かに『究極級アルティメット』だ。


 詳細表示を確認すると……装着し発動させると、指先が鞭のように伸びて防御と攻撃ができると説明されている。

 指示を出して、左手に防御させ、右手に攻撃させるという使い方もできるらしい。

 また、左手で吸収した攻撃の衝撃を、右手から衝撃波として発射することができるとも書いてある。


 結構使えそうだ!


 俺は、グローブを手に取って、魔力を流す。


 この感じ……途中から魔力が吸い上げられていく。


 しかもすごい量だ。


 これは、今までの『勇者武具シリーズ』を起動させた時と同じ感じだ。


 おそらく『勇者武具シリーズ』の一つに違いない。


 少しして……魔力の吸い上げスピードが遅くなった。

 大体いいだろう。


 そして、グレーだった手甲が、黄金色に変わった。


うなれ! ゴールドフィンガー!」


 頭に浮かんだ発動真言コマンドワードを唱えると、すべての指先が軽く震える。

 うごめいている感じだ。


「右、伸びろ!」


 そう指示を出すと……右手の五本の指先が、五十センチくらい伸びて、うねり出した。

 攻撃の指示を出していないので、伸びた指が触手のようにうねっている状態だ。


 我ながら、ちょっと気持ち悪い。

 そしてなぜか……エロい感じだ。

 そんな事はどうでもいいが。


 近距離から中距離の物理攻撃メインの武器だと思うが、手数が多いだろうから、かなり使えそうだ。


 うごめく指先は、指示を与えて自動で攻撃したり防御させたりできるが、イメージして思うように動かすこともできる。

 敵を、拘束したりすることもできそうだ。


 早速、悪魔に使ってみるか!


「イチョウちゃん、準備オッケーだ! 早速これを使うよ! 悪魔のとこに転送して!」


「はい。現在は、シークレットフロア第一層の床が破壊され、敵は第二層に到達しました。第二層の床も破壊中です。最終フロアの一つ前の第三層が戦場になるのは、リスクがあるので、何とかこの第二層で迎撃をお願いします」


 おっと、もう第一層の床を破壊してしまったらしい。

 急がないと!


「わかった。じゃあ頼む」



 俺がそう言った次の瞬間には、視界が揺れ、転移していた。


 もちろん奇襲をかけるために、『隠密のローブ』を纏っている。


 これは『隠れ蓑のローブ』の上位版で、姿と気配を消せるだけでなく、波動情報も誤魔化せるのだ。


 悪魔が……五体。

 思ったよりもいるな。


 しかも二体は、『上級悪魔』だ。

 角が三本生えている。


 残りの三体は、角が二本なので『中級悪魔』だ。


 念のため『波動鑑定』をかける……


 『上級悪魔』は、『人形の悪魔』レベル85と『鞭の悪魔』レベル75だ。


 『人形の悪魔』のレベル85は……今までの敵の最高レベルを更新している。

 今までの最高レベルは、伝説と魔物とされていた巨大クラゲ魔物のレベル80だからね。

 そして『人形の悪魔』というのは、初遭遇だ。

 いったい悪魔には、いくつ種類があるんだ……?


 『鞭の悪魔』は、中級の『鞭の悪魔』と『マグネの街』で戦ったことがある。

 それの上位種だ。


 『中級悪魔』は、三体とも『緑の悪魔』で、レベル58だ。


 『緑の悪魔』は、筋肉お化けみたいな奴で、筋肉を活かした物理攻撃と腕の高速回転で風を巻き起こす攻撃をしていたはずだ。

 『マグネの街』で、ニアが戦っている。


 さて……問題は、どうやって捕まえるかだな……。


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