1148.狙われた、迷宮。

 俺は、『セイチョウ迷宮』の迷宮管理システムであることが分かったイチョウちゃんと共に、悪魔の襲撃に対処するため『セイチョウ迷宮』に転移で移動した。


 『セイチョウ迷宮』は、『マシマグナ第四帝国』が造った本格稼働迷宮の第二世代型と言われている迷宮だ。


 このことは、一般には知られていない。

 現代では、天然の迷宮だと思われているのである。


 これは、元『癒しの勇者』で、吸血鬼の始祖でもあるヒナさんから教えてもらった情報だ。


 彼女の家となっている『希望迷宮』は『マシマグナ第四帝国』が造った本格稼働迷宮の『第一世代型』一号迷宮である。

 現代では誰も知るものがおらず、忘れ去られた迷宮となっている。


 『勇者団』が活躍していた三千年前当時でも、人造迷宮である『錬金迷宮アルケミイダンジョン』の情報は、秘匿事項とされていたようだ。

 だが、三つだけオープンになっていた迷宮があったそうだ。


 それは、本格稼働迷宮の第一号迷宮である『希望迷宮』と、本格稼働迷宮『第二世代型』の中の二号迷宮と三号迷宮だったとのことだ。

 『第二世代型』の二号迷宮は、現在の『アルテミナ公国』にあり、三号迷宮は『アポロニア公国』にあると教えてもらっていたのだ。


 だからこの『セイチョウ迷宮』は、『第二世代型』の中の二号迷宮ということなのだろう。


 『第二世代型』の人造迷宮は、天然の迷宮に偽装しやすいように、階層構造ではなく、アリの巣形状になっているらしい。


 イチョウちゃんによれば、『セイチョウ迷宮』はアリの巣状にフロアがさまざまに分岐しているが、最終的には一カ所に集まる構造になっているのだそうだ。


 そこが、一般には最終到達フロアと思われていて、通常であればダンジョンマスター戦が行われる場所と認識される場所になっているとのことだ。


 だが『セイチョウ迷宮』は、そこまで到達してもダンジョンマスターが現れない特異な迷宮と認知されているらしい。

 前にギルド長も、ちらっとそんな話をしていた。


 今回の悪魔による襲撃は、その最終到達フロアとされている場所の床を、無理矢理破壊して進んで来ているらしい。


 実はその下には、大きなフロアが縦に三つ連続していて、四つ目にダンジョンマスタールームがある最下層フロアがあるとのことだ。


 今俺がいるのが、その最下層フロアなのである。


 アバターボディーは、ダンジョンマスタールームに帰還転移できる魔法装置が、埋め込まれているらしい。


 このダンジョンマスタールームがある最終フロアは、他の人造迷宮と同様に、近未来的な感じの作りになっている。


 現在、悪魔は一般的に最下層とされているフロア床を壊し、次の層に到達しているようだ。

 そしてさらにその床を、破壊中だ。


 あと三つ破壊されれば、ここまで到達してしまうということだ。


 そういえば……


「イチョウちゃん、ここにはダンジョンマスターはいないの?」


「ダンジョンマスターは、おりません」


 おお、突然ホログラム映像が現れた。


 大人の女性の姿をしている。


 イチョウちゃんは、椅子に座って動かなくなっている。


 どうやら迷宮管理システムが、アバターボディーからホログラム映像に切り替わったらしい。


 イチョウちゃんを、大人にしたような感じの青髪の美人さんだ。

 ライトブルーのワンピースを着て、髪色もライトブルーで、瞳も青みを帯びている。

 完全にアバターボディーの特徴と一緒だ。


 俺がダンジョンマスターをしているテスト用迷宮の迷宮管理システムは、日本人のような顔立ちだが、この迷宮管理システムは違う。

 本格稼働迷宮第一号迷宮である『希望迷宮』の迷宮管理システムと同様に、西洋人顔だ。


 ただ、人相は違うけどね。

『第二世代型』だし、モデルとなっている人が違うのだろう。


「ダンジョンマスターがいないのに、迷宮として通常活動してるの?」


 俺は、不思議に思って尋ねた。


「はい、『第二世代型』の特徴の一つで、ダンジョンマスターが不要な運営システムとなっているのです。

 最終のダンジョンマスターが設定した運営条件の下、迷宮管理システムが管理運営することができるのです」


 迷宮管理システムが、答えてくれた。

 今までのイチョウちゃんと違って、完全に大人の受け答えになっている。

 こっちが本来の応答機能なのだろう。


「なるほど……前にダンジョンマスターはいたけど、今はいないし、必ずしもいる必要がない。その人が決めた運営条件を守って、迷宮を維持し運営する事は可能と言うことか……」


 ダンジョンマスターの確保は大変だろうし、何かの事情で命を落としてしまう可能性だってある。

 迷宮を運営する上で、ダンジョンマスターの存在は核になるものだが、逆に言えば、それがネックになっている。

 そこを合理化したということか。


「はい、ただし適任者と認められる者が現れれば、ダンジョンマスターに就任していただくことが可能です」


「なるほど、迷宮管理システムの判断で、新しいダンジョンマスターを迎えることができるわけだね」


「はい、グリムお兄ちゃんは、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮のダンジョンマスターですね? 

 波動情報の刻印を確認しています。

 数日、行動を観察し、心身ともにマスターの条件を満たしていることも確認いたしました。

 『セイチョウ迷宮』のダンジョンマスターに就任できます。就任いたしますか?」


「就任してもいいけど……必要ないんだったら、俺が就任する必要はないんじゃないかな。

 それに、今そんなことしてる場合じゃないよね? 

 悪魔をなんとかしなきゃ」


「はい、そうですが……ダンジョンマスターに就任していただければ、この迷宮内で様々な支援をすることが可能です!」


 大きい姿のイチョウちゃんは、伏し目がちに悲しい顔をした後に、俺を祈るような目で見た。

 相変わらず感情表現が豊かだ……。


 アバターボディーのイチョウちゃんはそうでもないが、ホログラム映像は凄い。

 まぁ今はそんな事はどうでもいいが。


「支援って?」


「迷宮の全ての機能を発動する権限を持ちますので、それを利用した様々な支援が可能です。

 生産権限で、様々なアイテムを生産できます。

 迷宮内の魔物のコピー生産も可能です。

 迷宮内の任意の場所に転移することができます。

 フロアの封鎖も可能です。

 迷宮内に保管されている宝物や武器を自由に使うことができます」


「なるほど……これからの悪魔との戦いでは、必ずしもなくてもいい気がするけど。ちなみに武器って……凄く強い武器があったりするの?」


「はい、宝物庫に様々な武器が保管されていますが、『階級』が一番高いのは『究極級アルティメット』の武器です。これは、勇者が使っていた特別な武器とされています」


 おおっと……聞き捨てならないワードが……勇者が使っていた武器!?


 これは逃すわけにはいかないな……。


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