1141.土素材ゴーレムVS、植物由来ゴーレム。

 今日こそしっかり寝ようと思っていた矢先、突然の襲撃にあった俺だが、迷宮都市全土への警戒体制を整え、これから本格的に迷惑なお客様をお迎えするところだ。


 そう思っていたら、俺より先に無双しはじめた者たちがいる。


 それは、『魔法の貯金箱 ワンコインパラダイス』の付喪神『付喪神 スピリット・ピギーバンク・姉弟シィブリング』のセントンちゃんたちだ。

 弟のドウトン、ギントン、キントンと四体で、口から銭貨を発射して攻撃を加えている。


 これはおそらく、彼らの『種族固有スキル』の『ピギーバンク』による攻撃だろう。


 『出金業務』という技コマンドを使って、銭貨を射出しているのだ。


 ドウトンが銅貨、ギントンが銀貨、キントンが金貨を射出するのかと思ったが、全員銭貨が射出できるようだ。

 選んで射出できるということなのかな……?

 銭貨は角張っているから、破壊力はおそらく一番あるんだよね。


 実際、銭貨の直撃で、ゴーレムの腕や顔などが吹っ飛んでいる。


 すごい破壊力だ!


 それにしても、銭貨の射出が口からで良かった。


 魔法の貯金箱の機能だと、背中からコインを入れて、尻尾を触るとお尻から出るようになっていたから、攻撃もお尻から出たらどうしようと密かに不安だったんだよね。

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 この付喪神たち……レベルが55だけあって、強い!


 口からの銭貨の射出は、投げ銭という感覚ではなく、もはや弾丸だ。

 射出速度が速く、実体弾の強力な攻撃という感じで、まるで銃撃である。


 今の威力のまま人に発射したら、死んでしまう可能性が高い。

 相手のレベルにもよるだろうけどね。


 次々にゴーレムの手や足や頭を吹き飛ばしてくれているお陰で、一つわかったことがある。


 このゴーレムは、なぜかすぐに再生するということだ。


 吹き飛んだ部分が、引き寄せるられるように戻ってきて、再生してしまうのだ。


 魔法で一時的に稼働させるゴーレムに、こんな機能ってあるのだろうか……?

 俺の『ボタニカルゴーレム』には、そんな機能は無いのだが……?


 この再生力は、かなり厄介だ。


 まぁちょうどいい機会だ。

 俺の戦闘用の『ボタニカルゴーレム』も、実戦投入しよう!


 庭の巡回警備用として作った『竹取じいさん一号』と『パンダさん一号』は、襲ってきたゴーレムたちを倒せていないが、迷宮での戦闘を前提として作ったゴーレムなら倒せるのではないだろうか。

 まだ実戦でのテストをしていなかったので、テストの機会にさせてもらおう。


 竹筒に着物の女の子の人形が入った造形の『かぐや一号』は、竹筒部分で敵の攻撃を防ぎ、中の人形が竹棒で打撃を加えるという戦闘スタイルだ。

 守り重視の『タンク』的なゴーレムである。


 中型犬位のサイズのウサギ人形に、着物の女の子が騎乗した造形の人形は、『かぐやライダー一号』だ。


 女の子の人形が丸太を担いでいて、その丸太で敵を撲殺するという攻撃スタイルだ。


 機動力と破壊力がある『アタッカー』タイプのゴーレムである。


 俺は、『波動収納』からこの二体の人形を出して、『植物魔法——植物由来の人形ボタニカルゴーレム』を発動した。


「あの土のゴーレムを破壊しろ!」


 俺が指示を出すと、『かぐや一号』と『かぐやライダー一号』が、ゴーレムに向かって突進した。


 『かぐや一号』は、竹筒の下の部分に左右に三本ずつ合計六本の足がついている。

 虫のように移動できるのだ。


 素早く前進し、ゴーレムに突き上げるようにぶちかました。


 ゴーレムは、二メートルを超えているので『かぐや一号』よりも少し大きいのだが、衝突の衝撃でノックバックした。


 さらに向かってくるゴーレムを、竹筒の中のかぐや姫人形が竹の棒で殴る。

 破壊力は十分で、ゴーレムの頭を潰した。


 一方ウサギ人形に騎乗している『かぐやライダー一号』は、撹乱するような動きで、ゴーレムたちの後ろに回り込んだ。

 そして騎乗しているかぐや姫人形が、担いでいる丸太を横薙ぎに叩きつけ、二体のゴーレムの足をまとめて粉砕した。


 うん、十分戦えている。

 互角以上の戦いだ。


 向こうのゴーレムからも攻撃されているが、当たっても今のところ破壊されていない。

 『魔竹』は簡単には破壊されないと思うし、『ワイルド樫』もかなり固いからね。


 ——バゴンッ

 ——バンッ、バンッ、バンッ


 ん! 新手か!? 


 北側の『養育館』の方の壁が崩れて、そこからもゴーレムが侵入して来た!


 ちょうどフミナさん達が、子供たちを外に連れて出したところだ。


 彼女たちがいるから、大丈夫だとは思うが……。


 お、遅れて『養育館』から出て来たのは、ツリッシュちゃんたち育成冒険者第一号の『希望の枝ブランチオブホープ』のメンバーだ。


 俺が与えた装備を装着している。


 戦う気のようだ。


 だが彼女たちのレベルでは、このゴーレムには勝てない。


 と思ったのだが……ツリッシュちゃんが勇敢に斬り込んでしまって、ゴーレムの腕を落とした。


 ……あのゴーレムは、あまり強くないようだ。


 見た目も、こっちに現れたゴーレムと違う。

 いかにも即席でできたという感じの土人形の風貌をしている。


 最初に来たゴーレムたちは、土質素材であらかじめ造形された人形を、動かしているのだと思う。

 感覚的には、俺のボタニカルゴーレムの土質版といった感じだ。


 だが『養育館』に現れたゴーレムは、土を集めて急造した泥人形という雰囲気なのだ。


 ツリッシュちゃんが、切り落とした腕は、再生する気配がない。


 やはり、最初のゴーレムよりも弱い急造ゴーレムのようだ。


 エメラルディアさんも、『レイピアガン』の一撃で粉砕している。


 フミナさんは守りに徹する構えで、冷静に全体の戦況を確認している。

 そういう役割を担うつもりなのだろう。


 そして『ホムンクルス』のニコちゃんも、守りを担当するようで、警戒態勢でいる。


 ニコちゃんの武器は、パートナーである『闇の石杖』の闇さんだが、今はいないので使うことができない。


 もう一つの武器は、秘密兵器とも言えるもので、『マシマグナ第四帝国』の遺跡である『勇者力研究所』で発見した『パペットベレット』という指人形なのだ。


 だが、『パペットバレット』は特別な武器なので、緊急事態以外は使わないように言っている。


 そこでニコちゃんは、エメラルディアさんと同じ『レイピアガン』を取り出して、構えている。


 まだ幼いニコちゃんには、『レイピアガン』はかなり長いのだが、ライフルを持つような感じで構えている。


 今までの訓練で、練習していたから問題なく使えるだろう。


 攻撃はエメラルディアさんと、狼亜人セレンちゃん、その父親のベオさんが担当するようだ。


 このメンバーは、今までの訓練で、レベルがある程度上がっているから、このゴーレム相手には十分戦えるだろう。


 フミナさんは、セレンちゃん以外の『希望の枝ブランチオブホープ』のメンバーには、前に出ないで防御行動に徹するように指示を出している。


 血気にはやるというか……自分の大事な仲間である子供たちを守ろうと必死なツリッシュちゃんには、最年少のイチョウちゃんを任せたようだ。


 フミナさんのナイスな判断だ。

 これならツリッシュちゃんも、血気にはやって前に出すぎる事はないだろう。


 うまく戦場のコントロールが、できているようだ。

 俺が急いで救援に向かう必要は、なさそうだ。



 それにしても……二種類のゴーレムを投入して、夜襲をかけてくるとは。


 ゴーレムである以上……操っている術者が、近くにいるはずだ。


 元から断たないとダメだなぁ……。


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