1140.悪いお客さんが、来てる……?

 『ツリーハウス屋敷』に戻って来た俺たちは、晩ごはんをみんなで食べた後、早めに寝ることにした。

 今日こそは、睡眠時間をたっぷり取るのだ!


 と思ったのだが……四歳のイチョウちゃんが、突然俺の部屋にやって来た。


 イチョウちゃんは、アホ貴族ボコイの暴走戦車に轢かれそうになっていたところを、助けた子だ。


 『養育館』で、他の子供たちと一緒に眠っていたはずなのだが……。


「イチョウちゃん、どうした?」


「うんとねぇ……悪いお客さんが来てる……」


 イチョウちゃんは、たどたどしく呟くように言った。


 悪いお客さん……?


 ん……そういえば、この気配……


「何か嫌な気配がするなの〜」


「どこなのだ?」


 眠い目をこすりながら、チャッピーとリリイも入ってきた。


 これは……迷惑なお客さんが来てしまったみたいだ。


 ——バゴンッ

 ——バンッ、バンッ、バンッ


 もうお出ましか!


 俺は、イチョウちゃんを抱きかかえ、そのまま外に出た。


 リリイとチャッピーもついて来ている。


 ニアも、異変に気づいて飛んで来た。


「敵襲なの!?」


「あぁ、そうみたいだ」


「まったく、人の安眠を妨害するなんて、許さないんだから!」


 ニアさんが、早速おかんむりだ。


 襲撃者の運命は、決まったなぁ……。


 げ、ゴーレム!?


 二メートル以上の大きさの、土質というかレンガのような質感の素材でできたゴーレムが、十体以上入って来ている。


 破壊された門から、どんどん入ってくる。

 数はもっといそうだ。


 巡回警備用の『ボタニカルゴーレム』の『竹取じいさん一号』と『パンダさん一号』が応戦しているが、まともに対処できていない。


 いくら戦闘用ではないとは言え、俺が発動させているボタニカルゴーレムが歯が立たないなんて……あのゴーレム、かなり強いみたいだ。


「襲撃ですか?」

「これは?」

「ゴーレム?」

「なにこれ?」


 『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさん、『ホムンクルス』のニコちゃん、『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神のエメラルディアさん、『雷使い』の虎耳幼女ラムルちゃんも起きてきた。


 ちょうどよかった。


「敵襲です。フミナさんたちは、『養育館』の子供たちの保護をお願いします。建物が崩れると危険なので、むしろ外に出した方がいいかもしれません」


「分りました。子供たちの事は、任せてください! 必ず守ります!」


 力強く宣言してくれたフミナさんに、抱きかかえていたイチョウちゃんを預け、すぐに向かってもらった。


 今日新たに多くの冒険者を加えた『ツリーハウスクラン』だが、今日中に引っ越しを終えた冒険者はまだいない。


 今ここにいる冒険者は、俺たちを除けば、元々『ツリーハウスクラン』のメンバーだった、ニャンムスンさんたち『美火美びびび』のメンバーだけだ。


 だから、本来あるはずの冒険者の戦力はない。


 もちろん、俺たちだけで対処できるが、頭数がいたほうがいい場合もあるからね。

 まぁ現有戦力で対応するしかない。

 仮に状況が悪くなれば、いつでも『救国の英雄』としての『職業固有スキル』の『集いし力』で、『絆』メンバーを転移で呼び寄せることができるから、問題ない。


美火美びびび』のメンバーは、既に『冒険者館』から出てきて、ゴーレムたちと戦ってくれている。


 彼女たちは、いずれもレベル30以上の中堅冒険者だが、ゴーレムたちを一蹴できていない。

 むしろ押され気味だ。


 このゴーレム……おそらくレベル40とか50相当の力があるようだ。


 見た目は、乾いた粘土というか、素焼きされたような材質だ。

 ある程度頑丈そうではあるが、魔法による一時的なゴーレムだと思う。


 魔法AIを組み込まれている高度なゴーレムとは思えない。

 もし魔法AIを組み込むなら、土素材じゃなくて、もっと強固な素材を選ぶと思うんだよね。


 このゴーレムを倒す事は、俺たちにとっては容易たやすいことだが……万が一、また迷宮都市全域で同時多発的な襲撃が起こると面倒だ。


 一応、それに対する備えもしておくか。


「ニア、『飛猿』たちを呼んで、都市近郊を上空から警戒させて欲しいんだ」


「オッケー、わかった!」


 ニアはそう言うと、傍に控えていた『飛猿』のヤシチに指示を出した。

 ヤシチは、すぐに飛膜を広げて飛び立った。


 ニアは、近くの山に生息している他の『飛猿』たちにも念話を入れて、指示を出してくれたようだ。


 『飛猿』たちには、迷宮都市の上空ではなく、近郊の広いエリアの上空を監視してもらう。


 前回のように魔物の『連鎖暴走スタンピード』が発生しても、すぐに気づけるようにだ。


 そして迷宮都市内の警戒監視は、百七体のスライムたちに担当してもらう。


 子供たちと一緒に『養育館』にいたスライムたちに念話で指示を出し、すぐに出動してもらった。


 これで、迷宮都市全域の警戒は大丈夫だろう。


 『クラン農場』にいる鶏、ヤギ、馬、伝書鳩たちについては、その場で警戒して待機するように念話で指示した。


 この子たちは、特別訓練をしているわけではなく、レベルも通常レベルなので、今襲ってきてるゴーレムを倒すのは難しいと判断した。

 もちろん『共有スキル』があるから、簡単にやられはしないし、倒すことも可能かもしれないけどね。


 ちなみに『白金牛』のモバスチャンは、今日は『ヘスティア王国』の第三王女ファーネシーさんたちと一緒に、彼女の屋敷に行っている。


 さて、段取りも済んだところで、本格的に迷惑なお客さんのお相手をさせてもらいますか!


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