1139.おばあちゃんの、懐かしいおやつメニュー

 俺は、『ミトー孤児院』に援助を申し出て、快く了承してもらった。


 実際見て、この孤児院が善良な孤児院であることは確信した。

 他の孤児院について、何か情報がないかも確認したい。


 そこで院長先生に、他の孤児院の評判や何か気になることがないか、尋ねてみた。


 だが他の孤児院については、よくわからないそうだ。


 自分たちの孤児院の運営で精一杯で、他の孤児院と関わったりする余裕などはなかったとのことだ。


 ただ、以前子供を奴隷として売らないかと言ってきた奴隷商人がいたそうだ。


 院長先生は怒って、追い返したらしい。


 やはり孤児院の子供を狙って、奴隷として買おうとしている奴が、現実にいたようだ。


 ここ最近は、来ていないそうだ。


 その奴隷商人は、もしかしたらセイバーン公爵領で捕まった奴かもしれないし、この前俺が『闇の掃除人』として捕まえたあの奴隷商人かもしれない。

 もちろん、全く別の奴かもしれないけどね。



 俺は話が一段落したところで、子供たちを集めて、この前あげた『ドロップ』をさらにもう一箱ずつ配った。


 子供たちが飛び跳ねて喜んでいる。

 いい笑顔だ。


 前にゴヤくん経由であげたドロップも、みんな宝物を持ち歩くように大事に握り締めてくれていて、かなり嬉しい。



 そんな子供たちに、もう一つのプレゼントしようと思う。


 それは……『ポテトチップス』だ。


 折箱に詰めた『ポテトチップス』がまだ五つ残っているので、それをプレゼントした。


 あちこちから、パリッっていう音が聞こえ、子供たちの叫ぶような感動の声が広がる。


 この瞬間は、何度味わっても良い。


 院長先生は、子供たちが嬉しそうにしている姿を見ているだけで、自分は食べようとしない。


 この感じだと、自分が食べずに全部子供たちに食べさせてしまいそうだ。


 俺は、また持ってくるので遠慮せずに食べてほしいと言って、手渡しして食べてもらった。


「まぁ、美味しい! こんな美味しいもの、生まれて初めて食べました。ありがとうございます」


「これは『三日月バナナ』の実で作ったんですよ」


 俺がそんな話をすると……予想通りの反応が。


「『三日月バナナ』! 懐かしい……」


 やはりこの年代の人にとっては、超懐かしい物らしい。


「そうなんです、ニアが採ってきてくれまして」


「まぁニア様が……さすがですね。ほんと懐かしいわ……」


「ねぇねぇ、おばあちゃん、みたい『三日月バナナ』?」


 ニアがイタズラな笑顔で、院長先生を煽る。


 てか、おばあちゃんって言っちゃってるし。

 まぁその気持ちはわかるけどね。

 そう呼びたくなるような優しい雰囲気なんだよね。

 俺も密かに、心の中では、おばあちゃんと呼びたい感じだもんね。


「ええ、みたいです」


「わかった。ちょっと待って」


 ——ドスンッ


 ニアが、ドヤ顔で巨大バナナを取り出した。


 突然現れた巨大バナナに、子供たちは驚いて、一瞬固まっていた。


「まぁ懐かしいわぁ……ほんとに懐かしい」


 院長先生が、しみじみと呟いた。

 感動しているようだ。


 子供たちは初めて見るから、ただ驚いているだけだ。


 俺は、いつものように反りの内側の一枚を剥がした。


 そして、バナナの実は、この孤児院で食べて欲しいとお願いした。


 院長先生は、もちろん調理方法を知っているので、問題ないはずだ。


 院長先生は、懐かしいものが食べれて、嬉しいと喜んでくれた。

 最初は恐縮していたけどね。


 そして嬉しいことに、新たな調理法を教えてもらえた。


 昔よく『三日月バナナ』が採れていたときは、『バナナ餅』というのを作って、食べていたのだそうだ。


 実を小さく切って、煮たり蒸したりした後に、すりつぶす。

 それに砂糖を混ぜて、薄くのばして焼くと、甘くて美味しいおやつになるのだそうだ。


 牛やヤギのミルクがあるときは、ミルクを混ぜるとより美味しいらしい。


 良い情報を聞いた!

 今度やってみよう!


 実を取ったバナナ本体の皮は、子供たちの遊び道具にしてほしいと伝えた。


 さすがに、ここにボタニカルゴーレムを稼働させておくわけにはいかないので、普通に遊んでもらおうと思う。


 一応バナナの先端に、ロープを付けてあげた。


 これで、小さい子供たちをバナナボートに乗せ、年上の子供たちが引っ張ってあげるという遊び方ができるだろう。

 庭で引きずって遊んであげるだけでも、喜ぶと思うんだよね。


 それから一枚めくった皮は、この場で加工して、前に作ったのと同じ練習用の盾と木剣を作った。

 プレゼントすると、何人かの男の子が大喜びだった。


 ここの孤児院は、本の読み書きが好きな子が多く、例えて言うなら文系みたいな感じなのだが、一部の子は剣術とかも習いたいようだ。

 ここには教えてくれる人がいないから、訓練ができる環境ではなかったんだよね。


 他の子も、護身術程度は身に付けたほうがいいと思うので、院長先生と相談して、そんな支援もさせてもらおうと思っている。


 話を終えた俺は、引き上げさせてもらうことにした。


 一旦の運営資金として、五十万ゴル渡した。

 院長先生は恐縮していたが、ゴヤくんの情報で稼げたお金の一部だからと言って、受け取ってもらった。


 今後も定期的に支援しようと思うが、あまり大きなお金を渡すと恐縮されるから……子供たちの衣類や食料というかたちで、支援してもいいかもしれない。


 そして肉も、プレゼントした。


 迷宮都市で食べられている四大肉である猪魔物、バッファロー魔物、鶏魔物、ワニ魔物の肉の塊を渡した。


 どう考えても、腐らせずに食べきれる量ではないと思ったのだが……院長先生が干し肉にすると言ってくれたので、そのまま置いてきた。


「また遊びに来るよ」

「みんな、また来るわね! それまで元気に楽しく過ごすのよ!」


 俺とニアは、子供たちに声をかけ、手を振って歩き出した。


 子供たちが、みんな名残り惜しそうに、全力で手を振ってくれている。

 本当に愛らしい子供たち……。


「グリムさん、またオススメのクエストを教えてあげるからね!」


 ゴヤくんが、追いかけてきて、そう伝えてくれた。


「わかった、楽しみにしてるよ!」


 俺はそう答え、ゴヤくんと固い握手をして別れた。


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