1138.孤児院を、訪ねて。

 『冒険者ギルド』を出た俺とニアは、ギルドの近くの孤児院にやって来た。


 『ミトー孤児院』という私立の孤児院だ。


 迷宮入口にあるギルド受付にいた、ゴヤ少年のいる孤児院である。

 彼は、おすすめクエストとして『迷宮人参』と『貝殻チョウチンアンコウ』のクエストを教えてくれた優秀な掲示板読み上げ係なのである。


 そのとき彼は、子供たちは十七人いると言っていたので、規模として小さめの孤児院になるだろう。


 『冒険者ギルド』の近くと言うだけあって、ギルドと同じ『西ブロック』の『上級エリア』にある。


 『上級エリア』なんて……孤児院を作るには、大変じゃないかと思ったが、院長がもともと持っていた土地で孤児院を開いたという事情のようだ。

 ギルド長は、三十年以上続いてる孤児院だと言っていた。


 大きな門が構えてあって、中は思ったよりも広いようだ。


 前にメーダマンさんの自宅を訪れたが、それと同じくらいな感じだ。


 『ツリーハウス屋敷』の半分弱くらいの敷地だと思うが、十七人が暮らす孤児院としては、十分広いのではないだろうか。


 運営は、院長のおばあさんとスタッフの女性の二人で行っているそうだ。

 時々卒院生が手伝いに来るようだが、運営自体は大変みたいだ。



「すみませーん、お邪魔しまーす」


 声をかけながら、入っていく。


 すると何人かの子供が、走って来た。


「あ、お兄さん……グリムさん!」


 俺を見て声を上げたのは、ゴヤくんだ。


 名前を覚えていてくれたようだ。


「やぁ、ゴヤくんだったね?」


「うん、覚えててくれたの?」


 ゴヤくんは、嬉しそうにニマッとした。


「あぁ、覚えてるよ。君にオススメしてもらったクエスト、良かったよ! 今日は、そのお礼がしたいと思って来たんだ」


「そうなの! 嬉しいなぁ、いっぱい稼げた?」


「ああ、おかげさまでね」


「あの……いらっしゃいませ」


 声をかけながらゆっくり歩いてきたのは、院長先生だろう。


 七十代くらいのおばあさんだ。


「こんにちは。突然お邪魔してすみません。私は冒険者のグリムといいます。ギルド長に教えていただいて、訪ねてきました」


「まぁまぁ、そうですか。いらっしゃいませ。それで、ご用件は?」


「はい、実はこの前迷宮に入った時に、こちらのゴヤくんにオススメのクエストを教えていただきました。

 そのお陰で稼げましたので、そのお礼です。

 あと……ご迷惑でなければ、こちらの支援をさせていただけないかと思って、お邪魔しました」


「そうですか。ご丁寧にありがとうございます。支援までしていただけるのですか?」


「ばあちゃん、あのドロップをくれたのが、このお兄さんだよ」


「あぁ、あのおいしい飴を……。これは、お礼を言わずに失礼をいたしました。たくさんいただきまして、ありがとうございました」


「いえいえ、ゴヤくんの仕事ぶりが素晴らしかったので、ついあげたくなってしまっただけなんです」


 そんな話をしていると、他の子供たちがみんな集まって来た。

 ドロップの箱を手にして、俺に見せながら頭を下げた。


 なんて愛らしい子供たちなんだ……。

 こういう仕草を見るだけで、愛情をもって育てられているのがすごくよくわかる。


 大人の女性も出てきた。

 俺は軽く会釈をした。


「実は、クランという組織を作って、迷宮都市のみなしごを集めてメンバーにしているんです」


 院長さんに、俺のクランについても、少し話すことにした。


「まぁそうですか。とても素晴らしいことをしていただいてるんですね。頭が下がります。私たちも気になってはいましたが、どうすることも出来ませんでした……」


「子供が好きなものですから、不幸な子供がいると私が悲しいのです。

 それで、冒険者としての稼ぎを、この都市の子供たちに還元したいと考えているんです。

 私のクランの子供たちだけでなく、他の子供たちにも、必要なら支援したいと考えています。

 もしご迷惑でなければ、こちらにも何かしらの支援をさせていただけないですか?」


「それは……本当ですか? 

 ありがたいお話です。

 恥ずかしながらここの運営も、十分な体制とは言えません。

 子供たちにも、いろいろ我慢をさせています。

 ギルド長のご好意とは言え、迷宮で仕事までさせている始末ですから……」


「ばあちゃん、そんなことないよ、俺たちはやりたくてやってるんだよ!」


 すまなそうに話した院長を見て、ゴヤくんが否定した。

 この子たちは、働かされているなんて思っていないようだ。

 孤児院の役に立ちたいという思いが強いだろうし、自分の仕事にも誇りを持ってやっているのだろう。


「失礼でなければ……当面の運営費を寄付させていただきたいのと、食料を寄付させてください」


「それはそれは、……ありがとうございます。ご好意を遠慮なく、受け取らせていただきます。子供たちの為にもなりますから」


「ありがとうございます!」


「まぁまぁ、なぜグリムさんがお礼を言うんですか? お礼を言うのは、私たちですよ。面白い方ですね。ふふふ」


 院長さんが、優しく笑った。


 俺は、ここの運営や子供たちについても、少しだけ話を聞いた。


 この孤児院では、院長さんが中心となって、子供たちに読み書きを教えているので、全員読み書きができるそうだ。


 三十年以上孤児院を続けてきた中で、少しずつ買い足してきた本が三十冊以上あり、子供たちはほとんどが読書好きとのことだ。


 孤児院の敷地は、院長さんのもので、家賃がかかるわけではない。

 基本的な収入はなく、国からの支援金と寄付で運営しているとのことだ。

 ゴヤくんたちがギルドの仕事でもらう給金も、当然大きい金額ではない。


 ギリギリで運営しているようだ。


 話を聞く限り、『コウリュウド王国』の一般的な孤児院と同じような感じだ。


 やはり孤児院独自の安定収入があるのが、一番なんだけどね。


 俺が、ピグシード辺境伯領で作った養護院では、果樹園を作って、その下で鶏を飼うといったスタイルを導入しているのだが、そういう多少なりとも収入が稼げる仕組みが欲しいところだ。


 この孤児院は、子供の人数の割に敷地が広いのだが、かなりの面積が畑になっている。


 野菜だけなら、自給自足はできていそうだ。


 だが、その分ここで鶏を飼育するとかは、スペース的に難しそうだ。

 もちろん、子供たちが食べる分だけ卵を採れれば良いという程度の飼育数なら可能だと思うが。


 何か考えてあげたいんだけどねぇ……。


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