1134.悪事の、片鱗。

 宿屋の食事処で少し待っていると、援助してあげることにした二人の冒険者オーツさんとライさんが、彼女たち同様搾取されている他の冒険者たちを連れて来てくれた。


 かなりの大人数だ。

 二十人以上いる。


 『ドクロベルクラン』に搾取されているパーティーは、Dランクが二組、Eランクが三組と言っていたから、人数から考えると、みんな来ているのではないだろうか。


 この宿屋の食事処が、もう満杯状態だ。

 お客さんがいない時間帯だったから、よかったけど……。


 俺は、女将さんに料理をお任せで頼んだ。


 ご馳走することにしたのだ。


 みんなそれだけで、喜んでいた。


 そして話を聞いたのだが、やはり同じような手口で搾取され、借金を負わされ、抜けられない状態になっていた。


 過去には、急にいなくなったパーティーもいたようで、多分奴隷として売られたのではないかとのことだ。


 そんな話を聞いてる途中で、宿屋に他のお客さんが入って来た。


「ごめんなさい、今貸切なんですよー」


 女将さんがそう言って断ってくれたのだが、構わず中に入って来た。


「いえ、こちらの方に用があって来たんです」


 そう言いながら、俺に近づいて来たのは……見覚えのある顔だ。


「あなたは……」


「はい、実は、グリムさんに報告があって来たんです」


 俺が、以前セイバーン公爵領『セイセイの街』で『マットウ商会』に奴隷として売られていたところを、助けてあげた人だ。


 ニャンムスンさん達『美火美びびび』のメンバーと同じく悪徳奴隷商人に騙されて、無理矢理奴隷にさせられ、売られていた人たちの一人である。


 ニャンムスンさんたちを除いて、十五人助けたが、そのうち九人が冒険者だった。

 その中で、リーダー格だった人だ。


 ちなみに行商団の護衛をしていたという残りの六人は、『ヨカイ商会』に就職してくれている。


 この人の名前は、確か……ハッパさんだ。


「ハッパさん、私への報告と言うのは……?」


「はい、実は……私たち九人で話し合って、冒険者稼業を再開する前に、私たちに起きたことを調査していたんです。

 奴隷にされたときの手口は、多少違うんですが……みんな意識の混濁した状態で、無理矢理奴隷契約を結ばされたのです。

 その調査をしていて、どうも『ドクロベルクラン』が絡んでいることを突き止めたのです」


「『ドクロベルグラン』が!? あなたたちを奴隷にした奴隷商人は、セイバーン公爵領で捕まっていますが……『ドクロベルクラン』と関わりがあったということですか?」


「はい、そのようです。その情報を集めるために、この中にいる冒険者に話を聞いていました。

 その時、そちらの娘さんが来て、話しているのを聞いてしまったんです。

 グリムさんの話だったので……密かについて来てしまいました」


「そうだったんですか……。よく『ドクロベルクラン』が絡んでいるとわかりましたね?」


「はい、私たち九人は、二つの冒険者パーティーの集まりなんですが、そのうち一つは、前に『ドクロベルクラン』に誘われていたのです。

 それを断った腹いせに、何か仕掛けられたのかもしれないと疑い、調べてみたら、朧げながら奴隷商人との繋がりが見えてきたのです」


「……今も奴隷商人と組んで、冒険者を無理矢理奴隷として売ったりしてるんでしょうか?」


「それは調査中です。ただあの奴隷商人が捕まって帰って来ませんから、前ほどの動きはしていないようです」


「他の皆さんも、情報を集めているんですか?」


「ええ、残りの八人も、それぞれに情報を拾ってくれています。

 聞き込みをしていると、『ドクロベルクラン』の名前が出てくるので、広範囲に悪いことをしてると思うんですけど……決定的な情報が出ないんです。

 それもあって、クランの構成メンバーに接触したんですけどね」


「そうなんですね」


「グリムさんは、これから、どうなさるんですか?」


「この人たちの借金を肩代わりして、まずはクランから抜けてもらいます。

 『ドクロベルクラン』の人を見逃すつもりはありませんが、表立って争うわけにはいかないので、情報を集めたいと思っていたところです。

 もしよかったら、ハッパさん達が集めた情報を共有させてもらうと助かります」


「ええ、もちろんです。何か決定的な悪事の証拠を、掴みたいと思っています。掴んだら必ずお伝えします」


「助かります。ただくれぐれも、気をつけてくださいね」


「ねぇねぇ、あなたたちさぁ、どうせならうちのクラン入ればいいじゃない?」


 ニアが、そんな話をしたが……確かにそうだな。


「ニア様、よろしいのですか!? 

 実は……入れていただきたいと思っていたんです。

 ただ我々は、新人冒険者というわけではありませんし……冒険者として復帰する前に、自分たちが奴隷にされた真相を突き止めておきたかったのです。

 それで、連絡もせずにいました。

 実は、ニャンムスンさん達からも、誘われてはいたのです」


「そう。じゃぁスッキリしてから入るでもいいし、別にクランに入って冒険者稼業しないで、悪事の調査やってもいいのよ。

 あなたたちなら、人間性もわかってるし、縁もあったわけだから、クランに入れてあげるわよ。ねぇグリム?」


 ニアは、いつものお気楽な感じでそんな話をして、俺を見た。


 確かに彼らは中堅冒険者で、新人を育成するというクランの目的にマッチするわけではないが、縁もある人だから問題ないだろう。

 それに、そもそも中堅の冒険者も、トップランカーでさえもクランに入れているしね。


「ええ、皆さんさえ良ければ、ぜひ入ってください」


 俺がそう答えると、ハッパさんは、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。ぜひお世話にならせてください。他の八人も、全く異存はないと思います」


 俺は、ハッパさんと改めて握手をした。


 ちなみに、この人たちを売りさばいた悪徳奴隷商人は、セイバーン公爵領で犯罪奴隷となっている。

 因果応報というやつだ。


 そうだ! あの奴隷商人に、迷宮都市での繋がりを吐かせればいい!


 『ドクロベルクラン』を潰せるような証言も取れるかもしれない。


 まぁ奴の証言を有効に使うのは、二つの国をまたぐことになるから、面倒くさいことになりそうだけどね。


 ただ奴から有効な情報が得られれば、証人として引っ張り出さなくても、こっちで決定的な証拠を掴むことができるだろう。


 第一王女のクリスティアさんに頼んで、情報を聞き出してもらおう。


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