1133.援助の、申し出。
俺は、『ドクロベルクラン』から助けてほしいと面接に来た女性冒険者がいる宿屋にやって来た。
ニアと副ギルド長のハートリエルさんも一緒だ。
その女性冒険者は、十六歳と若く、幼なじみの女性と二人でパーティーを組んでいるとの事だった。
『アルテミナ公国』の東隣にある『デメテル王国』の出身で、二人とも魔法スキルに恵まれたために、冒険者になろうと迷宮都市までやって来たと話していたそうだ。
相談に来た女性は火魔法が使えて、パートナーは土魔法が使えるのだそうだ。
Eランクに上がった時に、『ドクロベルクラン』に入らないかと強く勧誘されたらしいが、魔法スキルが使えることを知られて、ターゲットにされた可能性もある。
相談に来た女性は、オーツさんという名前だ。
宿屋に入ると、一階が食事処になっている。
「こちらの宿に、オーツさんが泊まっていると思いますが、今、いらっしゃいますか?」
宿の女将さんに尋ねた。
「あぁ、はいはい、いますよ。オーツちゃん、お客さんだよー」
「はーい!」
すぐに返事が聞こえ、ドタバタと階段を降りて来た。
赤髪をボブカットにした女の子だ。
「私がオーツですが……あ、もしかして……」
「面接に来ていただいた『ツリーハウスクラン』のマスターをしているグリムと申します」
「私は、ニア、よろしくね」
「はじめまして、オーツと申します」
「私は、『冒険者ギルド』の副ギルド長のハートリエルです」
「え、副ギルド長!?」
「あの、すみません! 私、とんでもないお願いをしに行ってしまって。どうかしてたんです。忘れてください。もうお願いしないので、どうか処罰はお見逃し下さい!」
オーツちゃんは、ひどく取り乱した様子で、深く頭を下げた。
何か注意されると勘違いしたようだ。
副ギルド長がいきなり来たから、そう思ったのかもしれない。
「オーツさん、落ち着いてください。私たちは、あなたを助けに来たんですよ」
「え、……?」
事態が飲み込めない彼女は、固まっている。
「あなたに頼まれた通り、お金を貸します。だから『ドクロベルクラン』に借金を払って、抜けましょう」
「え、……いいんですか?」
「はい。そのために、訪ねて来たんですから」
「あ、ありがとうございます! お金は必ず、必ず返します!」
「それはゆっくり、少しずつで構いませんから。それより少し話をしませんか?」
「はい、わかりました」
俺たちはこのまま一階の食事処に座って、話をすることにした。
「あの……パートナーを連れてくるので、ちょっと待っててください」
そう言うとオーツさんは、二階へ駆け上がり、パートナーを連れて来た。
茶髪を、三つ編みに束ねて胸のところに下げている。
「ライと申します。いただいた回復薬のおかげで、すっかり良くなりました。ありがとうございました。お金までいただいて、本当にありがとうございました。必ず返します」
「いいんですよ。気にしないでください。あなたたちの話は、面接を担当したサーヤから聞いています。ただ改めて借金の額などを確認させてもらってもいいですか?」
「はい、もちろんです。サーヤさんには、話を聞いていただいて、良くしていただきました。本当に感謝しています」
オーツさんは、再度頭を下げた後、話を聞かせてくれた。
サーヤから報告を受けている通り、完全に搾取されている状態で、がんじがらめにされているようだ。
借金の額は、聞いている通り百万ゴルで間違いないようだ。
ただ無茶苦茶な理屈で百万になっている。
三ヶ月分の上納金が未納なので、本当は六十万ゴルのはずだが、利子がついて百万ゴルと言われているのである。
法外な要求であって、百万ゴル支払うのは業腹だが、今回はクランから抜けることを最優先にしたいので、相手の要求する通りに払ってもらうつもりだ。
まぁそもそも上納金を要求され、それが払えないと借金になること自体が法外と言える。
俺の本心としては、一ゴルも払う必要はないと思っているが……そこは我慢することにした。
まずは今被害に遭っている冒険者たちを、無事に抜けさせてから、今後の事は考えるつもりだ。
ただ、放置しておくつもりは、さらさらない。
このクランを放置しておいたんじゃ、また新たな被害者が出るからね。
俺は、改めて説明をしてくれたオーツさんに礼を言って、これから精算しに行こうと提案した。
そして奴らがまともに精算に応じるかわからないし、精算に応じたとしても、俺のクランに入った後に文句を言ってくる可能性もある。
そこで、初めから俺も同行して話をつける。
それにあたっては、第三者として『冒険者ギルド』の副ギルド長ハートリエルさんに立ち会ってもらう。
というプランを説明した。
「あの……私たちを、グリムさんのクランに入れていただけるんですか?」
「はい。もちろん希望なさればの話ですけどね。お金を借りたからといって、入らなければならないと考える必要はありません。自由を取り戻すために抜けるのですから、無理に私たちのクランに入る必要も無いですよ」
「「いえ、入ります!」」
二人は、息の合った双子のように、ハモって宣言した。
「ほんとにいいんですか? クランに騙された嫌な思い出があると思いますし……」
「いえ、大丈夫です。サーヤさんが親身になって話を聞いてくれた時に、素晴らしいクランだと思いました。それに……もう一度、ちゃんと冒険者として頑張りたいんです。だから……お願いします! 入れてください!」
「分りました」
「「ありがとうございます!」」
二人は、飛び跳ねて抱きついていた。
喜んでもらえて何よりだ。
「じゃあ、これから『ドクロベルクラン』に行きましょうか?」
「はい、あの……こんなこと言いづらいんですけど……私たちと同じように、搾取されてるパーティーがあるんですけど、助けてもらえないでしょうか?」
オーツさんが、言いづらそうにしつつも、訴えるような目で俺を見た。
てか、逆にいいことを言ってくれた。
忘れるところだった。
他の搾取されているパーティーについても、気になっていたんだよね。
「もちろん、そのつもりです。事情を聞いて、可能なら助けてあげたいと思っています」
「「ほんとですか!?」」
なんか二人が、目をうるうるさせて、手を胸の前で組んでいる。
神様に祈るようなポーズなんですけど。
ニアに、そのポーズをやってるのは、よく見るけど……俺に対してやられる事は、ほとんどない。
崇拝されているようで微妙な気持ちだが……こんな目を向けられたら、助けないわけにはいかない。
「『ドクロベルクラン』に気づかれないように、ここに連れてくることはできますか?」
「はい、大丈夫だと思います。宿屋は分かっていますので、すぐに連れて来ます。多分迷宮にも入っていないと思いますので」
そう言うと、二人は急いで呼びに行った。
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