1135.カラフルな、おかっぱ頭たち。

 俺は、ニアとハートリエルさんとともに、『ドクロベルクラン』にやって来た。


 このクランのメンバーにされ、搾取されている冒険者たちも一緒だ。


 『ドクロベルクラン』の本部となっている場所は、南区の『東ブロック』の『上級エリア』にある


 迷宮がある『西ブロック』ではないが、中央の大通りに近い『上級エリア』なので、迷宮に行くにもそれほど遠くない場所だ。


 ちなみにさっきオーツさん達と話していた宿屋は、『東ブロック』の『下級エリア』にある。

 迷宮に行くには、少し遠い場所だ。

 そんなこともあり、女将さんには申し訳ないが安宿である。

 冒険者のみんなにご馳走したついでに、俺も味見をさせてもらったが、結構いい味だった。

 お金のない新人冒険者にとっては、懐にもお腹にも優しいありがたい場所だと思う。


 この『ドクロベルクラン』の屋敷は、まるで貴族や豪商の屋敷だ。

 かなり広い。


 それなのに、ここに住んでいるのは、クランの搾取する側だけだ。

 搾取の対象になっているパーティーは、皆安宿に住んでいるのだ。


 同じクランの仲間なのに、ここまであからさまに待遇が違うと、ほんとに許せなかったことだろう。


 安宿に住みながら、命をかけて迷宮に挑んで……でもその成果は、ほとんどクランの連中に吸い上げられる。

 改めて考えても、反吐が出る。


 このクラン……やっぱりやっちゃおう。

 まぁ今日は頑張って、我慢するけどね。



 俺たちは、門を開け入っていく。


 門をくぐって少ししたところに、テーブルがあり一組の冒険者と思われる男たちが、たむろしている。

 酒を飲んでいる。


 そしてなぜか、こいつら全員おかっぱ頭だ……。

 てか、さっきニアにのされたカッパードがいる。

 そしてなに!? このおかっぱ集団!?


 おそらく奴のパーティーなんだろう。

 それにしてもカラフルなおかっぱ頭が、風になびいて揺れている姿は……面白すぎる!

 カッパードの紫を始め、黄色、黄緑色、ピンク、青色、銀色と色とりどりだ。


 吹き出さないようにこらえるのが大変だ。


 俺たちに、おかっぱ頭達が気づいたようだ。

 カッパードも気づいて、ゆっくりと後ろを向いた。


「ちょっと! おかっぱ頭! 何なのよ! このおかっぱだらけの集団は!」


 ニアさんが、理不尽な怒り方をしている。


 そして……そんな怒り方をするから、吹き出しちゃったじゃないか!

 おかっぱというスタイル自体には、罪はないと思うんだが……ダメだ、笑いが止まらない。


「なんだと! 喧嘩売ってんのか! ここは『ドクロベルクラン』だぞ! げ、狂気のハートリエル!」


 カッパードは、顔を後ろに向けたまま固まっているが、ピンクのおかっぱ頭が怒鳴ってきた。

 途中でハートリエルさんの存在に気づいて、黙ってしまったけどね。


 そして残りのおかっぱ頭たちが、一斉に椅子から飛び退いた。

 臨戦態勢を取ったのだ。


 何かハートリエルさんと、因縁があるのだろうか……?


「お前たち、あれほど悪さをするんじゃないって、言っただろ!」


 ハートリエルさんが、蔑むような目で見ながら、言い放った。


「う、うるせー! も、もうやられねーぞ!」

「そうだ! 俺たち『刈髪怒奇頭カッパドキア』を舐めんなよー!」


 黄色と黄緑色のおかっぱが、虚勢を張っている。

 明らかにビビってる感じなんですけど……。


 てか、カッパドキアって……吹き出しちゃったんですけど!

 誰が考えたパーティー名なんだよ!

 ツッコまずにいられないわ!

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 どうやらこいつらは、何回かハートリエルさんにボコられているらしい。

 威勢とは反対に、徐々に後ろに下がっていっている。


「なんだい、なんだい、うるさいねーお前たち! 

 なんか大勢来てるじゃないか。

 ……おやおや、うちのメンバーたちだね。

 ん、新しい顔がいる。そうかい、新入りを連れてきたのかい?」


 そう言って現れたのは……ド派手な衣装を着た濃艶の女性だ。


 おそらくこの人が、クランマスターのポロンジョだろう。


 それにしても……すごい服を着ている。


 黒いボンテージのような衣装を着ているのだが、胸のところにへそまで続くカットが入っている。

 胸の谷間がガッツリ見える。

 というか……多分見せつけているのだ。

 ポロリしてしまわないかと、心配になるくらい開いている。


 黒革のミニスカートを履いているが、スリットが両側に入っていて、太ももが丸見えだ。


 黒のロングブーツは、ヒールが立っている。

 ハイヒールとまではいかないが、あれで男を踏んづけていそうな雰囲気だ。


 全体にSMの女王様みたいな雰囲気だ。


 黒いマントをつけて、手には鞭を持っているので、なおさらだ。


 もしかして……ここの男たちは調教されているのか……?


 それにしても、顔もド派手だ。


 明らかな厚化粧なのだ。

 青いアイラインが入って、唇は真っ赤だ。


 この世界に来て、これほどの厚化粧は見たことがない。


 この世界では、あまり化粧品はあまり普及していない。


 今まで知り合ってきた女性は、貴族令嬢も含めて、大体素顔美人な感じだった。

 口紅なんかは、もちろんあるみたいだけどね。



 少し遅れて、おじさんが二人が走ってくる。


「ポロンジョ様、何かありました?」


「大丈夫でヤンスか?」


 スレンダーな長身男と小柄の筋肉男が、心配そうに声をかけた。


「トヤッキー、ボンズラー、こいつらが新入りを連れて来たみたいだよ」


「そうですか。これまた儲かりますね〜、ポロンジョ様」


「良かったでヤンス!」


 こいつら何か勘違いをしているが……。


「我々は、こちらのクランに入りに来たのではありません。この人たちの借金の精算に来たんです」


 俺がそう言うと、一瞬、ポロンジョが殺気を放った。

 だがすぐに、冷静さを取り戻したようだ。


「なんだい、借金を払ってくれるっていうのかい? こいつらの分を全部あんたが払うのかい?」


「私がお貸しして、各自に精算してもらいます」


「あんた誰だい? いや……答えなくていいよ。『キング殺し』だろ? 羽妖精もいるしね」


「グリムと申します」


「なんだってあんたが、でしゃばるんだ? クラン内のことに外野が関わるんじゃないよ!」


「もちろん、関わるつもりはありません。ですが、クランのメンバーであるこの方たちが、借金を返す事は何の問題もないですよね?」


「そうだ。私は、その精算の立会人として来た」


 ハートリエルさんが、一本前に進み出た。


「ハートリエル……ギルドが、でしゃばるんじゃねーよ!」


「ポロンジョ、ギルドがでしゃばっているわけではない。立会人を頼まれたので、来ただけだ。冒険者同士の問題を、冒険者同士が解決する。ただそれをギルドとして、見守るだけだ」


「ハートリエル、あんた迷宮の中で『連鎖暴走スタンピード』から生き延びたうちのクランのメンバーを、拘束したそうじゃないか。おまけに、奴隷まで奪ってくれたそうだね!」


「パーティーメンバーを見捨てて逃げた非道な冒険者を、現行犯で捕まえただけだ。逃げた時点で、奴隷を引き継ぐ権利は失っている。その件について争う気なら……ギルドとして徹底的に対処する。その覚悟があるなら、いくらでも異議を申し立てなさい!」


 ハートリエルさんが、威圧するように凄んだ。


「……ふん! 狂気のハートリエルともあろう者が、すっかりギルドの犬じゃねーか!」


「なんとでも言いなさい」


 ハートリエルさんが、睨みをきかせている。


「……ふん、まぁいいさ。奴隷は死んだと思って、諦めてやるよ。捕まった奴らも……いらない。もう好きにしな!」


 ポロンジョは、吐き捨てるように言った。


 ほんとに人を使い捨ての駒としか思ってない。

 なんてやつだ。

 こいつの厚化粧の顔に、泥を塗ってやりたい気分だ。


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