1128.ツンデレが、ボディーブローのように効いてきた……。

「賛助会員というのは、よく考えたのう」


 ギルド長が、頷きながら感心してくれている。


 すでに賛助会員の仕組みまで、把握しているようだ。

 まだリホリンちゃんやナナヨさんにも、詳しく説明していないと思うんだけど……。


 よく知ってますね。


「私たちが掲示板を見に行った時に書いてあったので、フミナさんという方に、詳しくお伺いしたんです」


 リホリンちゃんが、俺の疑問を解消してくれた。

 なるほど、それで知っていたのか。


「聞いた話じゃが、面接に落ちても賛助会員になれる者は、みんな喜んでいるようじゃぞ」


「そうなんですか。それはよかったです」


「ワシも本当は賛助会員になりたいのじゃが、ギルド長という立場があるから、しばらく様子を見てからにするわい。万が一、この仕組みを他のクランも取り入れたときに、すべてのクランの賛助会員にならないと不平等になる可能性があるからのう……」


 ギルド長が、少し残念そうに声のトーンを落とした。

 きっと賛助会員になりたいと本気で思ってくれているのだろう。


 だが、さすがの判断だ。

 他のところが真似する可能性は、確かにあるよね。


「確かにもし真似されたら……ギルド長のお立場だと、すべてのクランの賛助会員にならないと、不満を持たれますよね。私はお気持ちだけで充分嬉しいですから、どうぞお気になさらないでください」


「すまんのう。孤児院に寄付するのと同じことじゃから、本来気にする必要はないのじゃがの。まぁしばらく様子を見て、問題なさそうなら入会させてもらうよ」


「私も副ギルド長という立場がありますので、ギルド長同様しばらくは控えようと思います」


 ハートリエルさんも、ツンと澄ました感じで言った。


 でも、なぜか密かに念話を入れてきて……(あ、あなたのクランに入るつもりは、もちろんあります。でも副ギルド長という立場がありますから……。状況が許せば、必ず入ります。既にもう家族である『絆』メンバーですし……あ、あなた)……と、デレっとした感じで伝えてきた。


 協力的でありがたいんだけど……なんとなく、仲間になってツンデレが覚醒して以降、『あなた』という言葉の意味が違ってきてる気がするのだが……気のせいだろうか……?


「はい、お気持ちはわかってますから、お気になさらないでください」


 俺は、そうハートリエルさんに答えた。


 普通の答えだと思うのだが、なぜか彼女は急に下を向いて、デレっとした感じになった。


 そしてそれを、必死で隠そうとしている感じだ。


 いやぁ……完全なツンデレ状態だなぁ。


 隠そうとしてる感じが、可愛いというか……ちょっと愛おしくさえ感じてしまう。


 この人、意外と攻撃力あるな。


 まぁそんな事を思っていると、ニアの『頭ポカポカ攻撃』が発動してしまうけどね。

 って……発動しちゃったよ。

 今、絶賛ポカポカされ中です。


「でもグリムさん、私とナナヨさんと買取センターのドンベンさんは、入りますから!」


 リホリンちゃんが、満面の笑みを浮かべながら手を上げた。

 隣のナナヨさんも、色っぽい笑みを浮かべて、頷いた。


 買取センターのドンベンさんは、ニアの『残念親衛隊』の隊長とも言える人だから、まぁ当然入るだろうね。


「皆さんは、賛助会員になっても大丈夫なんですか?」


「はい、一般職員ですから。ね、ギルド長?」


 リホリンちゃんは、嬉しそうにギルド長に承認を求めた。


「そうじゃ。一般職員は問題ないじゃろ」


「そうですか。ありがとうございます」


 俺はお礼を言い、改めて賛助会員について説明をした。


「いつでも遊びに行っていいんですね! うれしいです!」

「月に一度程度の食事会を考えているなんて、とっても素敵だと思います……うふ」

「なんと、食事会があるなら、ワシも早く賛助会員になりたいのう」

「私は賛助会員にはなっていなくても……副ギルド長として、有望な冒険者の近況の確認に行く事は、結構あるでしょう……」


 リホリンちゃん、ナナヨさん、ギルド長、ハートリエルさんが、そんな感想を漏らした。


 ハートリエルさんは、完全にツンとした感じで、ぶっきらぼうに言っているが……なんか、すごく可愛く感じてきてしまった。

 ハートリエルさん……恐るべし。


 リホリンちゃん、ナナヨさん、ドンベンさんは、三口づつ会費を払ってくれるとの事だ。


 三口だと毎月九千ゴルになるから、一般の職員にとっては大変な金額じゃないかと思ったのだが、心配ないとの事だった。


「美味しいものも、食べれそうですし」と、期待を膨らませた目もしていた。


 買取センターのドンベンさんは、ここにはいないが、事前に言付かっていたのだそうだ。


「そういえばのう、買取センターのドンベンが子分のようにしとる冒険者たちがいるじゃろう?

 ニア様のファンになってる奴らじゃよ。

 みんな賛助会員になりたがっとるようじゃぞ。

 クランの面接に行って採用されなかったが、賛助会員になる資格を得た者もおるのじゃが、大半は面接そのものに行かなかったようじゃ。

 兄貴と慕うドンベンがクランに入れないのに、自分たちが面接に行くのは申し訳ないと考えたようじゃ。

 でも、賛助会員ならドンベンもなれるから、他の奴らも喜んどったそうじゃ。

 そやつらが、押し寄せるかも知れんのう……ワッハッハ」


 ギルド長が、なぜか楽しそうに笑った。

 なんかこの人……ほんとに楽しんでるけど。


 あの『残念親衛隊』がみんな来ちゃうわけね。

 まぁいいけどさ。


「そうなんですか……」


 俺はそう言いながら、ニアを見た。


「まぁしょうがないわね。

 お金払ってまでクランに関わりたいって言うなら、入れてあげればいいんじゃない。

 あいつら、ちょっとウザいけど、悪い奴らじゃないし。

 役立つこともあるでしょ!」


 ニアさんは、お気楽に言っている。


 そして自分を信奉してくれている冒険者たちを、“あいつら”呼ばわりだし……。

 なんか『残念親衛隊』のみんなが、不憫に思えてきた。


 確かに、気のいい奴らって感じの人たちばっかりだった。

 賛助会員ならいいだろう。

 まぁクランに入れてあげてもいいんだけどね。

 ただ見た感じ、みんな中堅冒険者って感じだったから、メインの対象からは、外れちゃうんだよね。


「それからグリムさん、ギルドの職員の中にも、賛助会員になりたいって言う人がいると思うんですけど……希望すれば入れますか?」


 リホリンちゃんが、思い出したように尋ねてきたのだが……どうするかなぁ?


 変な人じゃなきゃいいんだけど……


「リホリンちゃん、わかってると思うけど、変な人はダメよ。確実に人柄を保障できるって人ならオッケー。ここにいる四人が問題ないって言うなら、オッケーよ。ね、グリム?」


 一瞬躊躇した俺を見て、ニアが代わりに答えてくれた。


「そうですね。皆さんが推薦する人なら、大丈夫でしょう」


「ありがとうございます! まずは確実な人だけ声をかけますから!」


 リホリンちゃんが、目を輝かせた。


「あの……リホリンちゃん、賛助会員については、大々的には公表しないつもりでいるんです。

 グランの正式メンバーには採用しなかったけど基準を満たしている中堅冒険者とか、知り合いだけに限定しようと思っているんです。

 だから、広がりすぎないようにだけ、気をつけてください」


 俺は、一応念押しした。


 広まっちゃって、大量に押し寄せたら困るからね。


「はい、わかってまーす! お任せ下さい!」


 リホリンちゃんは、軽く返事をしているけど……ほんとに大丈夫かな……?


 一抹の不安を感じるが……。


 まぁここは、我が担当者を信じるしかない……。



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