1126.闇の掃除人様を、探します!

 衛兵隊のムーニーさんが帰って少しすると、クランメンバーとなった『ヘスティア王国』の第三王女たちが帰って来た。


 俺が『闇の掃除人』として助けた輸送隊の皆も一緒だ。

 衛兵隊から馬を借りたのか、馬車も一緒に来ている。


 しかもムーニーさんが手を回したのか、盗賊を運ぶのに使った馬車を含め八台だ。

 普通の馬車が二台、荷馬車が六台である。

 多分このままクランで使わせるつもりなのだろう。


「ファーネシーさん、お帰りなさい。衛兵隊のムーニーさんから聞きました。輸送隊の皆さん無事だったみたいですね?」


 俺は、そんな声をかけながら出迎えた。


「グリムさん、そうなんです。一人も欠けることなく、無事だったんですよ!」


 ファーネシーさんは、はじけるような笑顔を作った。


 俺は、ツリーハウスの前にあるラウンジに皆さんをお通しした。


 外の方が風も気持ちいいし、いいだろう。


 ファーネシーさんが、簡単に経緯を話してくれた。


 輸送隊の消息の手がかりがないか衛兵隊のムーニーさんに確認していたところ、北門に盗賊が送り付けられて来て、それを運んで来たのが『ヘスティア王国』の輸送隊だという情報が入ったとのだった。

 さっきムーニーさんに聞いた内容だ。


 早速、会いに行ったところ、間違いなく輸送隊で、全員生きていた。


 負傷して動けなくなっていたところを、盗賊たちに捕まり監禁されていたが、『闇の掃除人』が現れて、助けてくれたとのことだ。

 おまけに『闇の掃除人』は、自分たちが運んでいた荷物を持たせてくれて、盗賊のアジトで没収した金貨まで分けてくれた。


 『闇の掃除人』のおかげで、皆無事に助かったし、残っていた荷物も取り返すことができたと、みんな口々に『闇の掃除人』に対する賞賛を口にしていた。


 それを聞かされた俺は……なんだか、こそばゆかった。

 自分のことだからね。


 まるでヒーローの話でもするかのように、かっこいい感じで話してくれていた。


 美化しすぎだと思うんですけど。

 変なお面をつけた正体不明の存在なのになぁ……。


「それにしても、よかったですね」


 俺が声をかけると、いい笑顔で大きく頷いた。


「あの……グリムさん、クランのメンバーとして、これから頑張るつもりですけど……私には、一つやらなければならないことができました」


 ファーネシーさんが、少し言いづらそうに俺を見た。


「やらなければならないことと言うと?」


「はい、なんとしてでも『闇の掃除人』様を探し出して、お礼がしたいのです! 

 『ヘスティア王国』の第三王女として、いえ、一人の人間として、どうしても会ってお礼が言いたいのです! 

 きっと王である父がこのことを知れば、私同様に探そうとするはずです。

 ですから……『闇の掃除人』様を探す時間が欲しいのです。

 どうかお許しいただけないでしょうか?」


 めっちゃ真顔でお願いされてるけど……それ俺なんですけど……。


 まぁそんな事は言えるはずもなく……


「かまいませんよ。クランに所属する冒険者は、いつ迷宮に挑むかの判断も自由だし、迷宮探索以外の時間も何をしても自由ですから。ご自分の判断で行ってください」


「ありがとうございます!」


 ファーネシーさんが、めっちゃ嬉しそうだ。


「でも『闇の掃除人』をどうやって、探されるのですか?」


「それは……分りません。衛兵の方にも聞いたんですが、全く正体不明みたいですので。でも第三王女の矜持にかけて、気合で探してみせますわ!」


 そう言って、めっちゃドヤ顔をした。


 今までは、第三王女を感じさせない普通の冒険者っぽい感じだったのだが、このときばかりは王女っぽい雰囲気になった。


 気合いで探されても困るんですけど……。


「頑張ってください」


 と言うしかないよね……トホホ。



 改めて聞いたところによると、輸送隊の八人は、護衛兵四人、御者二人、輸送担当役人一人、執事一人で構成されていた。


 俺が『闇の掃除人』として助けたときに、代表して話をしていた執事服の人が、見た目通り執事だった。

 ファーネシーさんが小さい時から、仕えていたのだそうだ。


 王女が世話になることを、改めてお願いされた。


 彼は、名前をセバスチャンと言うらしい。


 俺的には……執事のセバスチャンなんて……ドンピシャすぎるんですけど!


 ちなみに『白金牛』のモバスチャンは、ファーネシーさんが付けた名前のようだ。

 セバスチャンのことが好きすぎて、似た名前をつけたらしい。


 驚いたことにセバスチャンさんは、元冒険者で腕利きの執事というか『戦闘執事』というボディーガードを兼ねた存在だった。


 今回、国王に願い出て、迷宮都市でファーネシーさんと共に暮らす許可を得てきたとのことだ。


 黒髪に白髪が混じっていて、五十代だと思うが、今でもかなりの実力があるのだろう。


 護衛兵四人とセバスチャンさんとで、ワニ魔物と戦って何とか生き伸びたらしい。


 完全ではないにしろ『連鎖暴走スタンピード』に巻き込まれながら生き残れたのは、かなり実力があるからだろう。


 ただその時に負った怪我によって、盗賊たちに捕まってしまったわけだけどね。


 おそらく万全な状態だったら、盗賊に捕まるようなことはなかっただろう。


 セバスチャンさんも、クランに入れてほしいとお願いされたので、了承した。


 ただ彼女たちには、立派な家があるから、そっちに住んでも構わないと改めて伝えた。

 無理にツリーハウス屋敷に住む必要は、無いからね。


 だが、やはりクランの『冒険者館』に住みたいというので、了承した。

 まぁ中区から南区の迷宮に通うのが大変だという問題が、解決しないからね。


 セバスチャンさん以外の輸送隊のメンバーは、少し休んだ後に『ヘスティア王国』に帰るとのことだ。



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