1125.報告と、入会。
「やぁー、シンオベロン卿ー、すごいねー、これが君のクランかー」
『ツリーハウス屋敷』の門をくぐり、声をかけてきたのは、衛兵隊独立部隊の隊長ムーニーさんだった。
いつものように、間延びした独特な話し方だ。
彼は、この迷宮都市の太守であるムーンリバー伯爵の次男でもある。
「ムーニーさん、こんにちは。何かありました?」
「いやぁー、一度シンオベロン卿のクランを見ておこうと思ってー。
昨日さぁー、ムーランがすごい勢いで話しててさぁー。
冷静なベニー
ルージュなんて引っ越したいって言っちゃうしー。
……今日も朝から来たでしょー?」
「ええ、今日は午前中で帰られましたけど、来てました」
「さすがに今日は午前中で帰ったみたいだけど、あの勢いだと毎日来るかもよー。さっき昼に寄ったらさぁー、またまくし立てられちゃったよー」
「そうなんですか……」
俺は、苦笑いするしかなかった。
「あーそれでさぁー、シンオベロン卿に報告があるんだよー」
俺に報告……?
なんで俺に?
「報告ですか?」
「今さっきなんだけどさぁー、盗賊団が一つ捕まってねー。
そいつらが使ってた小型馬車がー、昨日クレーター子爵家のボコイが乗ってたやつと一緒だったんだよー。
特注の馬車でねー、それを作った商会も一緒に捕まったのさー」
「そうなんですか。それはよかったですね」
「その商会の倉庫がー、ここの隣なんだよー。知ってたー?」
なんだろう……カマをかけてきてるのかな?
「いえ、それは知りませんでした。ただその倉庫は、昨日『商業ギルド』に頼んで購入させてもらったんです」
「ふーん、そうなんだー。
なんかさー、『闇の掃除人』がまた出ちゃってさぁー、盗賊もろともに、馬車に乗せて送り付けてきたんだよねー」
ムーニーさんが、ニヤニヤしながら俺を見ている。
「そうだったんですか。『闇の掃除人』が……」
ここは、当然とぼけるしかない。
「それからさぁー、君のところに入ったって言う『ヘスティア王国』の第三王女の冒険者パーティーいるだろうー?
輸送隊の行方が分かる情報がないかって聞かれてさぁー、まだ何もなかったから困ってたんだけどさぁー、北門に送り付けられてきた盗賊団と一緒に現れたんだよー。
『闇の掃除人』に運ぶように頼まれたんだってさぁー」
「そうですか、それはよかったです! 彼女たちが心配していたので」
……もちろんとぼけるしかない。
「そんな情報が舞い込んだからさぁー、すぐに北門まで送ってあげたよー。俺は状況だけ確認して、すぐに戻って来たけどねー」
「ありがとうございます。さぞ、ホッとしたことでしょう」
「そうだねー、みんな泣きながら喜んでたよー。輸送隊の中に、ずっと王女に仕えてきた執事がいてねぇー、大泣きしてたよー」
「本当によかったです。ありがとうございます。あの……その盗賊団は、ボコイ氏と関係があるのでしょうか?」
『闇の掃除人』から焦点をずらすためにも、アホ貴族ボコイの事について確認した。
「ほぼ間違いないねー。負傷してた輸送隊の人たちは、盗賊団が奴隷として売り飛ばそうとしていたみたいだけどー、昨日君に引き取ってもらった『白金牛』はー、すぐにボコイに渡されたみたいだからねー」
「じゃあ……?」
「そうだねー、盗賊団の一味ってことで再逮捕だねー。厳罰確定だねー。もう好き勝手に暴れることができできないから、安心してー」
「そうですか、それはよかったです」
「いやー『闇の掃除人』様々だよー」
そう言ってムーニーさんは、ニヤけ顔で俺をずっと見ている。
そして視線を外さない。
俺は、苦笑いして視線をはずす。
「それからさぁー、盗賊たちが乗せられてた馬車があるんだけどさぁー、シンオベロン卿にあげるよー」
「え、どうしてですか?」
「それがさぁー、馬車を引いてた馬たちが忽然と消えちゃってさぁー。馬車だけ残っちゃったんだよー」
「衛兵隊には、馬車はたりてるし使い道がないのさー。このクランは人も多いからさぁー、出かけるときに馬車が何台も必要になるだろうー? だからあげるよー」
「それはムーニーさんの権限で、できるのですか?」
「あー、大丈夫ー。大隊長には言ってあるしー。壊れてて直すの大変だから、適当に処分するーって言っちゃったから、ほぼ嘘なんだけどねー」
ムーニーさんは、そんなことを言いながらニヤニヤしている。
てか、そんなこと言っていいのだろうか?
この人……意図的に俺に持ってきたんじゃないか?
『闇の掃除人』が俺だと思ってるのか?
そして、その戦利品的な感じで渡すってことなのかなぁ……?
まぁそれを確認するわけにはいかないから、考えてもしょうがないけどね。
「そういうことなら、クランでありがたく使わせていただきます」
「それからさぁー、クランの賛助会員ってやつー、俺もなるよー。
もうムーランのやつがうるさくてさぁー。
ベニー
「そうだったんですか。ありがとうございます。でも無理にはお願いできませんので……」
「あーいいのー。別に無理じゃないよー。俺ってばー、結構シンオベロン卿のこと気に入ってるしー。ってことでー、十口入るからー」
「ありがとうございます」
なんとムーニーさんまで十口入ってくれた。
ムーンリバー家で三人目だ。
俺は、お礼の意味も込めて、揚げたてのポテトチップスを折箱に入れて渡した。
ちなみにこの折箱は、屋台で使っている簡易容器と同じ『竹プラスチック』でできている。
ちょっとしたものを人にあげるときに、便利なのだ。
「これ美味しいねー! こんなに貰っていいのー? ラッキーだなぁー。これってルージュとか、ムーニーたちは食べたのー?」
「いえ、さっき作ったばかりなので、食べてないですよ」
「そりゃすごいー! 俺が第一号だってー、自慢できるなぁー」
「もう一箱渡しますので、ルージュちゃんたちにも、あげて下さい」
「ほんとにー! 悪いねー、こんなにもらっちゃってー。でもみんな喜ぶよー」
「賛助会員の方は、いつでも来ていただけるので、手が空いた時にでも寄ってください」
「ありがとうー。ああそれからさぁー小型の馬車を作った商会はさぁー、がっつり盗賊団とか関わってるみたいだからー、取り潰しになると思うよー。
『闇の掃除人』が最初に送りつけてきた奴隷商会とかもそうなんだけどさぁー、取り潰された商会の資産は没収されて競売にかかるからー、シンオベロン卿競り落としちゃえばー?」
「はぁ……でも特には必要としていないので……」
「そうかぁー、つまんないなぁー。
最近じゃぁー、競売物件を落札する人なんてほとんどいないからー、安く買えると思うんだけどねー。
次の競売にはー、結構いろんなものが出ると思うんだよねー。
『闇の掃除人』がいろいろ捕まえてくれたからねぇー」
ムーニーさんは、そんなことを言いいながら去っていった。
最後のは、どういう意味だったんだろう……?
何か掘り出し物でも出るのかな?
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