1124.陸を歩く、ボート。
「うわぁ、こりゃまた美味い! この柔らかいパン、シャキッとしたリーフレタス、言わずもがなのポテトサラダ、そしてこの生ハム! なんだ、なんですか、これは!? うまーい! 特に生ハム! 溶ける食感、絶妙の塩加減、ポテトサラダやパンとよく合います!」
ガングロおじさん五人組……Dランクパーティー『黒き飽食』のリーダーニクスキーさんが、感動に打ち震えている。
サンドイッチがお気に召してくれたようだが……なんかテンションがやばくなってる。
大丈夫だろうか……?
心なしか、体がテカってきてる気がするが。
他の四人も、同じように感動していて、やはり体がテカっている気がするが?
感動すると、テカっちゃう体質とかじゃないよね?
「気に入っていただけてよかったです」
「やはりグリムさんは、高名な料理人の方なんですね。でもそれは秘密事項なんでしょう……ワッハッハ。大丈夫です! 私たちは口が堅いですから、ワッハッハ」
ニクスキーさんは、ハイテンションでおかしくなったのか、変な勘違いをしている。
だいたい、口が堅いって言う人ほど信用できないんですけど。
まぁいいけどさ。
「グリムさん、食べさせてもらった『ポテトチップス』と『ポテトサラダ』とこの『サンドイッチ』、これだけでお店ができちゃうと思います。すごい流行ると思いますよ!」
飲食店経験のある四人組……飲食店四人組のリーダーのホールリダさんが、目を輝かせながら言った。
俺に詰め寄るような勢いで、顔をグンと近づけてきた。
まぁ確かにいいかもしれない。
作るのは、そんなに大変じゃないし。
ファストフード店ってことだよね。
サンドイッチ店……サンドイッチなら……屋台でもいいかもしれないなぁ。
お店を出すなら……ハンバーガー屋さんでもいいかもしれない。
そういえば、『フェアリー商会』で未だハンバーガー屋さんは、やってないんだよね。
構想にはあるんだけど……ハンバーグ自体を正式解禁してないからなあ。
そうだ! 迷宮都市というか、このクランでハンバーガーを正式解禁しよう。
子供たちが多いし、きっと大好きになってくれるに違いない。
そしてハンバーグを使って、ハンバーガー屋さんをやるというのもありかもしれない。
最初は手軽なサンドイッチを屋台で提供し、落ち着いたらクランの収入源とするために、ハンバーガー店を作ってもいいかもしれない。
もともと農場に直売場を作って、卵や野菜を売ったり、卵を加工したお菓子を売る予定でいるけど、それを発展させてハンバーガーを提供してもいいかもしれないな。
まぁいずれにしろ、近いうちに子供たちに対して、ハンバーグをリリースしよう。
本当は、カレーライスも食べさせてあげたいんだけど、カレーライスは衝撃が大きすぎて、クランを超えて迷宮都市全体に噂が広まりそうな気がするんだよね。
ビャクライン公爵の手前、今の時点で『アルテミナ公国』で有名になるのは微妙だ。
まぁ文句は言わないだろうけどね。
『コウリュウド王国』のビャクライン公爵家の天才令嬢ハナシルリちゃんが考案した戦士の料理とでも広めれば、上機嫌になって逆に喜ぶかもしれない。
昼食が終わり、俺は改めて炊事チームに集まってもらった。
炊事チームは、飲食店経験のある飲食店四人組と、実力のある冒険者チームの食通のガングロおじさん五人組で構成されている。
炊事チームのリーダーを決めようと思っている。
俺がそんな話をすると、ガングロおじさん五人組のリーダーニクスキーさんが、飲食店四人組のリーダーホールリダさんが適任だと推薦してくれた。
会ってまだわずかな時間しか経っていないが、彼女の適性を見抜いたらしい。
仕事の状況全体を見て、適した指示を出していたと絶賛してくれたのだ。
他の人たちにも、異議は無いようだ。
そこでリーダーを、ホールリダさんに務めてもらうことにした。
彼女は恐縮していたが、引き受けてくれた。
俺としては、年長者のニクスキーさんでも良かったのだが、ホールリダさんの仕切る力も、確かに凄かった。
だから彼女であることに、全く異存はないし、むしろ好ましいと思っている。
そしておそらくだが、ニクスキーさんたちは、若いホールリダさん達がやりやすくなるように、一歩引いてくれたのだと思う。
本当に、気のいいおじさんたちだ。
俺は、先ほどくりぬいた巨大バナナの皮を加工してしまうことにした。
『クラン本館』に作った工作室に、バナナの皮を持ち込んで、子供たちが乗れる乗り物を作るつもりだ。
人形形態にして、『ボタニカルゴーレム』にするのである。
まずは、アヒルの首から上のパーツを作る。
それをボートの先端に取り付ける。
ボートをボディに見立てて、反対側にはしっぽのパーツを取り付ける。
そして、デフォルメした感じのずんぐりとした水かきのある足を、取り付ける。
ボディーに等間隔で、四セット八本取り付けるのだ。
短い足なので、子供たちが乗りやすい高さになる。
これで動くバナナボートというか、アヒルボートができた。
この人形の名前は、『アヒルボート一号』にした。
まぁ陸を歩くわけだから……すでにボートの概念は無視されているけどね。
でも水に入ればボートとしても、機能するはずだ。
取り付けた足には水かきをつけてあるから、ゆっくりとは進めると思うんだよね。
ある意味、水陸両用だ!
早速、子供たちにお披露目する。
俺は、『植物魔法——
……子供たちから歓声が上がる!
一番小さな四歳のイチョウちゃんと、六歳の『雷使い』のラムルちゃんを乗せ、俺も乗り込む。
子供はゆったり乗れるし、大人の俺が乗っても全く問題ない。
何か子供用の遊園地に来て、一緒に乗り物に乗る気分だ。
「ゆっくり動け」
俺が命じると、ゆっくりと動き出す。
うん、適度な揺れがあって、ゆっくり動いているだけでも、結構楽しい!
これは、子供たちも喜ぶだろう。
俺は、具体的な情景をイメージしながら、ゴーレムに対し子供たちが止まれと言ったら止まり、動けと言ったらゆっくり動くように指示を送る。
リリイとチャッピーに指示を試してもらったら、うまく従ってくれた。
これで、子供たちだけでも遊べそうだ。
やはり術者の具体的なイメージが重要なのだろう。
逆に言えば……しっかりイメージできれば、色々とやらせることができそうだ。
どの程度の事までできるのか、検証しておいたほうが良さそうだ。
子供たちに、『止まれ』と『動け』という指示で操作できることを伝え、順番に遊ぶように話をした。
子供たちがワクワク感満載で、遊びだしたが……一度に五人ぐらいが限界だ。
順番待ちが半端ない。
可哀想なので、追加で何体か作ることにした。
『三日月バナナ』は、ニアさんがいっぱい採ってきているので、いくらでも作れるのである。
俺は工房に戻り、早速追加で四体作った。
基本デザインは同じだし、色も一緒で黄色なのだが、アヒルの首の部分に数字を刻んである。
『アヒルボート一号』から五号の数字を刻んで、区別ができるようにしたのだ。
すぐに子供たちのところに持って行って起動させたので、順番待ちもだいぶ緩和された。
ちなみにバナナの中身は、後日使う為に『波動収納』にしまった。
一部は、炊事チームに渡して、ポテトチップスを大量に作ってくれるように指示を出した。
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