1123.ポテサラ、美味い!
「ニクスキーさん、早速で申し訳ないんですけど、もう一品作るので、手伝ってもらえますか?」
俺は、クランで炊事を担当してくれることになったDランク冒険者パーティー『黒き飽食』リーダー、ニクスキーさんに早速仕事をお願いした。
なんとなく……もう少しポテトチップスを食べていたいオーラを出していたが、快く了承してくれた。
まずは、このガングロおじさん五人組を、飲食店四人組に紹介する。
今後、一緒にクランの炊事を担当してもらうのだ。
これで炊事チームの完成だ。
お互い簡単に挨拶してもらった後に、早速、調理を手伝ってもらう。
鍋で大量に茹でているバナナを使うのだ。
もう茹で上がっているので、それを潰してもらう。
そこに、小さくスライスしたニンジンとキュウリを入れる。
そう、俺が作ろうとしているのは、ポテトサラダだ。
まぁ正確には、バナナサラダになるんだが。
『マヨネーズ』という最強兵器があるから、ポテトサラダができてしまうのだ!
俺は、ほぼペースト状になったポテトもといバナナに、マヨネーズを投入する。
かき混ぜ、軽く胡椒を振る。
味見をすると……うん、美味い!
完全にポテトサラダの味だ。
味見した俺のニヤけ顔を、子供たちがポテトチップスを齧りながら凝視している。
早速、皿に取り分けて、子供たちに配る。
「さあ、みんな食べよう。改めて、いただきます」
「「「いただきます!」」」
子供たちが、元気良く声をそろえる。
そして、スプーンを口に放り込む。
あちこちで「わぁ」とか「うまーい」とか、感動の声が広がる。
「うおっ、なんですか、これは!? 我々は、食通を自称していましたが、まだまだでした……。こんな食べ物……迷宮都市のどこにありませんよ。これはほんとに、普通のじゃがいもでも同じように作れるのですか?」
ガングロおじさん五人組のリーダーニクスキーさんが、ハイテンションだ。
料理を手伝ってもらいながら、『三日月バナナ』ではなく、普通のじゃがいもでも作れると、教えてあげていたんだよね。
「ええ、本当ですよ。今度作ってみてください」
「分りました。必ず作ってみます。あの……グリムさんは……もしや高名な料理人の方ですか?」
ニクスキーさんが、そんなことを尋ねきた。
そして完全に真顔だ。
てか、高名な料理人って……?
いくらなんでも、それはないでしょうよ!
一応冒険者で、『キング殺し』という望まない二つ名まであるし。
もっと言うと、『コウリュウド王国』では『救国の英雄』として、まあまあ有名なんですけど……。
俺がそんなことを思いながら、苦笑いしていると……
「まさかグリムさんは……『キング殺し』だけじゃなく『食通殺し』という二つ名も持っているのですか?」
さらにニクスキーさんが、めっちゃ真剣に訊いてきた。
この人は、もしかして天然なのか……?
あまりにも料理に感動しすぎて、混乱しているだけかもしれないけど。
「いえいえ、そんな二つ名はありませんよ。料理は、食べるのが好きだから作るだけです」
俺は、きっぱり否定した。
万が一にも、『食通殺し』なんて二人名まで付いたら困るからね。
「そうですか……でもグリムさんは、どんな食通でも唸らせる、感動させて黙らせる、まさに『食通殺し』だと思うんですけどね!」
ニクスキーさんは、なぜかめっちゃドヤ顔で、そんなことを言った。
てか、ニクスキーさん、わかってないし……。
ニクスキーさん以外のメンバーの皆さんも、同じようなテンションで、俺にいろんな質問をしてくる。
ほんとに食べることが好きみたいだ。
それはいいんだけど……それにしても『食通殺し』って、微妙すぎるネーミングなんだけど。
どうせなら、もっと良い表現はなかったんだろうか?
『感動を運ぶ料理人』とか、何かそういう爽やかなやつにしてほしいんですけど。
「あんたやっぱすごいね! 料理もこれほどとはね」
『ツリーハウスクラン』全体の管理をしてくれる管理長のバーバラさんが、少しあきれ気味に言った。
「いえ、『マヨネーズ』があるおかげですよ」
「その『マヨネーズ』だって、あんたが作ったんじゃないか」
「まぁそうなんですけどね」
「ちょうどお昼だけど、今日の昼食はこれでいいかね? 改めて肉も焼くかい?」
バーバラさんが、確認してくれた。
確かに判断が微妙だな。
これで終わりというのは、多少物足りない感じもするし。
「そうですね……このポテトサラダを活かして、もう一品作りますので、それで終わりにしましょう」
「まだなにか作れるのかい? こりゃ、まいったね。でも楽しみだよ」
バーバラさんは、楽しそうに笑った。
バーバラさんは、俺専属の奴隷商人となってくれた人だが、俺の頼みを意気に感じて、必死で頑張ってくれている。
だがそんな感じは、俺の前では見せず、どちらかと言うと、ぶっきらぼうな対応なのだ。
だが、今日は、すごくいい笑顔だ。
やはり美味しいものを食べると、どうしても笑みがこぼれちゃうんだよね。
そしてバーバラさんもある意味……ツンデレなんだよね。
俺は、『フェアリー商会』で作っている『やわらかパン』を取り出した。
このポテトサラダを使ったサンドイッチを作ろうと思う。
普通なら焼いた肉を挟むところだが、今回は生ハムを使うことにする。
前にコボルトの里を訪れたときに、すごい美味しい生ハムを食べて感動した。
だが、今日使うのは、その極上生ハムではなく、新商品の生ハムだ!
『フェアリー商会』で作った生ハムなのだ。
良い生ハムを作るには、熟成期間が必要なので、普通はそんな簡単には作れない。
ところが、俺たちには強力な熟成のスペシャリストがいる。
今回は、そのお方の力をお借りしたのだ。
その方とは……ツボの付喪神ツボンちゃんである。
ツボンちゃんの能力で、熟成を早めたり遅くしたりできるのだ。
そこで、生ハム用の肉のブロックを、いくつもツボンちゃんに渡し、ツボの中で熟成を早めてもらったのである。
これによって、『フェアリー商会』ではすでに、生ハムを販売しだしているのだ。
その商品も、俺も『波動収納』にストックしていたと言うわけである。
結構あるから、ここにいる人数分は十分ある。
俺は、魔法カバン経由で『波動収納』から生ハムのブロックを取り出した。
そして、薄くスライスする。
『やわらかパン』は、コッペパンなので縦に切れ目を入れる。
そこに、リーフレタス、ポテトサラダ、生ハムをセットする。
これで、生ハムポテサラサンドイッチの完成だ!
この手順を炊事チームに教えて、全員分を作る。
よし、改めてみんなで食べよう!
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