1122.ドデかい、チップス。
子供たちが遊んでいる間に、ニアにもう一本『三日月バナナ』を出してもらった。
さっきと同様に、反りの内側の皮だけを切除する。
さっき取り出した中身は、煮ているところなのだが、それとは別に一品作ろうと思っている。
俺は、庭にテーブルをセットし、その上に魔法道具店『魔具ネット』で購入した魔法の巻物『アイトエッチコンロ』をセットする。
火が発生しないのに、物を温められるというIHコンロのような巻物なのだ。
巻物を最大限に広げ、大鍋をセットする。
巻物はかなり伸びるので、大鍋でもセットできるのだ。
そして鍋に、オリーヴオイルをたっぷり入れる。
巻物を発動し、加熱する。
鍋は、巻物から大きくはみ出ている部分があるが、問題なく熱くなってきている。
次に俺は、輪切りにした巨大バナナを、更に薄く切る。
薄く切るのは難しいが……できれば最初は、この輪切りを活かした大きなものを作りたい。
何を作るのかと言えば、ポテトチップスだ。
顔より大きなポテトチップスに、齧りついてみたい!
まぁ実際には、バナナチップスだけどね。
普通は縦切りでスライスすると思うのだが、いかんせん大きさが半端ない。
薄く切ったら、途中で折れちゃうかもしれない。
そこで、輪切りバナナを、横からスライスした。
何とか薄い輪切りができた。
直径六十センチ以上あるので、大鍋でも一枚しか揚げられない感じだ。
でも、いいだろう。
早速、揚げる。
……高温だから、わりと早く揚がる。
本当は、低温でじっくり揚げた方が、よりパリッと仕上がるのだが、この魔法の巻物は温度調整まではできない。
まぁ贅沢を言ってもしょうがないので、これで良しとしよう。
巻物は、小火、中火、強火みたいな調整はできるから、うまく調整すれば適した温度にできるのかもしれないけど、面倒くさいからいいだろう。
おお、揚がった、ドデかいポテチ! 正確にはバナチ!
気をつけないと、割れてしまいそうだ。
塩を振って完成だ!
子供たちが待ち切れない顔しているが……ここはまず味を確かめなければ。
——パリッ
いい音だ!
……うまい!
これは間違いない。ポテチだ!
よし、どんどん揚げよう。
子供たちには申し訳ないが、少し待つように言って、一気に揚げてしまう。
待ち切れない子供たちのために、さっきの大きい輪切り一枚ではなく、それをさらに切って普通のポテトチップスくらいのサイズにする。
それを、どんどん揚げていく。
四角い感じのポテトチップスが揚がる。
……子供たちに行き渡るくらいの量ができた。
子供たちは、もう待ちきれない感じで凝視している。
よだれを垂らしている子もいる。
「みんなお待たせ、できたよ! いっぱいあるから、ゆっくり食べて」
俺はそう声をかけ、早速食べてもらった。
あちこちで、パリッといういい音が聞こえ、“美味しい”の声が上がる。
「これは、最高なのだ! おやつのキングなのだ! リリイも『キング殺し』になるのだ!」
「美味しいなの〜、毎日食べたいなの〜!」
「おいしいです。心が軽くなります」
「おいしい! ここにいないみんなにも、食べさせたい」
「……お、おいしい……です」
リリイとチャッピーに続き、『ホムンクルス』のニコちゃんも『雷使い』のラムルちゃん、四歳のイチョウちゃんも、頬を緩めた。
イチョウちゃんに至っては……美味しすぎたのか、固まっている感じになっていた。
そしてリリイは、微妙なことを言っている。
別に『キング殺し』を目指さなくていいと思うんだけど……。
てか、目指さないでほしい!
もっと可愛い二つ名を目指して欲しいんですけど……。
他の子供たちも、みんな笑顔だ。
美味しい笑顔が、どんどん広がっている。
「グリムさん、これ美味しいですよ! こんな食べ方があったんですね!」
『三日月バナナ』の情報を教えてくれたバナボさんが、美味しさに感動してくれた。
こうやってみんなで楽しく食べられるのも、バナボさんが教えてくれたからだ。
俺は改めて礼を言った。
ポテトチップスでみんなで盛り上がっているところに、ちょうどクランの炊事担当として採用した飲食店四人組が来た。
飲食店で、調理場とホールの経験がある女子四人組である。
彼女たちは、住み込みを希望していたが、早速引っ越して来たようだ。
荷物を持っている。
俺はすぐに呼んで、ポテトチップスをご馳走した。
そして早速で申し訳ないが、手伝ってほしいとお願いした。
彼女たちは、張り切った感じで了承してくれた。
「これ、本当に美味しいです!」
「こんな美味しいものなんですね。『三日月バナナ』って」「驚きです! グリムさんって……凄いんですね」
「こんな美味しいもの食べたら、いくらでも働けちゃいます! 何からやりますか?」
四人は、なぜか目をうるうるさせて、俺を見つめて感想を言ってくれた。
一部『三日月バナナ』だから、美味しいみたいな感想だけど……普通のじゃがいもで作っても美味しいからね。
俺は、四人にポテトチップスの作り方を教え、早速揚げてもらうことにした。
まだまだ材料があるので、どんどん作って子供たちにお腹いっぱい食べてもらおう。
おお、今度は、ガングロのおじさんが五人近づいて来た。
クランの炊事係をやってくれるというDランクの冒険者パーティーに違いない。
ガングロおじさん五人組は、中堅冒険者パーティーだが、引退を考えているとのことで、クランで炊事係をやってもいいと言ってくれていた人たちだ。
「楽しそうですね。何を作ってるんですか?」
リーダーとおぼしきがっちりとしたおじさんが、声をかけてきた。
「冒険者パーティー『黒き飽食』の皆さんですね。私は、このクランのマスターのグリムです。よろしくお願いします」
俺がそう挨拶すると、彼らはそれぞれ名乗って、挨拶をしてくれた。
「どうぞ、一緒に食べてください」
食通らしいから、早速ポテトチップスを食べてもらうことにした。
「うおっ、これは美味い! この薄さ……すごいなぁ。サクッとした食感と香ばしさ……初めて食べました。いやー驚きです! このクランに入って、よかったですわい!」
リーダーのニクスキーさんが、そんな感想を述べてくれた。
他の皆さんも、みんな驚き、そして感動している。
そして、めっちゃ嬉しそうだ。
この人たちは、気のいいおじさんたちって感じだ。
そして食通を唸らせることができて、嬉しい!
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