1084.魔法道具店で、テンション上がる!

「グリムさん、魔法道具屋に行きます?」


 屋敷の庭に出た俺に声をかけたのは、ニャンムスンさんだ。


 そういえば、今日、魔法道具屋に行こうと思っていたのだ。


 彼女は、俺を案内するために、一旦帰ってきてくれたようだ。


 クランに応募者が押し寄せないように、若手中心の採用だとか、そもそも入るのは難しく採用されないのが普通だ、というような噂を広げる活動してくれていたんだけどね。


「そうですね。いきましょう!」


 まだ応募の冒険者がたくさんいて、採用面接中なのに申し訳ない気がするが……まぁいいだろう。


 何も遊びに行くわけではない。

 クランのメンバーや俺の仲間たちのために、役立つ魔法道具がないか見に行くのだ。

 あくまで仕事なのだ!

 決して遊びに行くわけではないのだ……。


 俺は、ニアを連れてニャンムスンさんと屋敷を出た。


 ちなみにリリイとチャッピーは、迷宮都市の太守ムーンリバー伯爵の孫娘ルージュちゃんと、走り回って遊んでいる。

 もちろんクランの子供たちも一緒だ。


 てか、ルージュちゃん達……まだいるんだよね。

 なんとなく、お昼も食べていくつもりのような気がする。

 別にいいんだけどさ。


 そういえば、朝まで飲んだくれていたオカリナさんとブルールさんとハートリエルさんの元攻略者トリオは、さすがに起きたようだ。


 オカリナさんは、冒険者の面接の手伝いをしてくれていた。

 ブルールさんは、アイスティルさんと一緒に出かけたようだ。

 ハートリエルさんも、ギルドに行ったらしい。


 副ギルド長なのに、完全に遅刻だと思うが……。

 まぁ彼女の場合は、基本いつも自由に行動らしいので、一人フレックス制なのかもしれない。





 ◇





 魔法道具店に着いた。


 ここはギルド本部や俺の『ツリーハウス屋敷』がある南区の『西ブロック』とは反対側の『東ブロック』の『中級エリア』にある。


 ニャンムスンさんの話では、冒険者の間で評判の優良店だそうだ。

 ニャンムスンさんは、ここまでの案内だけで、「噂を広める仕事に戻ります!」と言って戻っていった。



「いらっしゃいませ!」


 出迎えてくれたのは、気立ての良い感じの女性店員だ。


 俺たちは軽く会釈をして入る。


「どうぞ、ご自由に見てください。わからないことがあったら、声をかけてくださいね」


 そう言うと店員さんは、奥に行ってしまった。


 ゆっくり見れる感じだ。

 俺の好きな接客スタイルだ。

 がっちり横につかれると、結構辛いものがあるんだよね。


 お店は、まあまあ広い。

 綺麗に商品が並べられている。


 魔法道具屋というと……俺の中の勝手なイメージでは、雑然としていて、掘り出し物が埋もれているという感じだったのだが、そんな気配は全くない。


 店内が清潔だし、商品ごとのコーナーがしっかり作ってある。ポップのような説明書きまで貼ってあるのだ。


 さっと店内を見回す。


 魔法の杖がかなり置いてある。

 やはり冒険者が多いから、魔法の杖の需要が多いのだろう。


 各種の魔法薬も販売している。

 冒険者に合わせてだろう……品揃えが充実している。


 品質表示もしっかりされている。

 『下級イージー』の魔法薬の『低品質』な物も、明示して販売している。

 おそらく……お金のない駆け出し冒険者が買える商品として、置いてあるのだろう。


 品質表示がしっかりしてあるので、誠実さを感じる。

 さすが優良店だ。


 迷宮内で使える光を灯す系統の魔法道具も、何種類か置いてある。


 それから魔法の水筒も、数多く置いてある。

 やはり迷宮ではあったほうがいいよね。


 ある程度お金がある冒険者なら、欲しいアイテムだろう。


 そしてもちろん魔法カバンも販売していて、充実している感じだ。


 なんか……この店楽しい!


 何時間でもいれそうな気がする!

 やばい、テンションが上がってきたぁぁぁ!


 そしてそれはニアさんも同じようで……さっきからしきりに飛び回っている。


 いやーどこから見るか迷うなぁ……


 まずは……忘れないうちに、目当てのものがあるかどうか、店員さんに確認してしまおう。


「すみません」


「はーい、何かお探しですか?」


「回復魔法が出せる魔法の杖とか魔法の巻物とか、売ってないでしょうか?」


「回復魔法ですか……残念ながら置いてません。たまに同じようなことを、聞かれたりするんですけど……そういう商品は出回っていないと思います。

 作るのが難しいそうなんです。

 うちのおじいちゃんも、ある程度の魔法道具が作れるんですけど、回復魔法については、魔術式や魔法陣がわからないみたいなんですよ……」


 めっちゃ明るく、感じよく、そんなことを教えてくれた。


 てか、おじいさんが魔法道具職人なの!?


 人族の魔法道具職人なんて、初めてだ。

 もちろん魔法道具職人と言えば、『ドワーフ』のミネちゃんがいるわけだけどね。


「そうなんですか。おじいさまは、魔法道具職人さんなんですか?」


 はやる気持ちを抑えて、一応確認する。


「ええ、そうです。この店の店主でもあります。どうぞこちらにお越し下さい」


 店員さんは、ここの店主の孫娘だったようだ。


 てか……会えるのかな……?


 俺は誘導されるままついていった。


 店の奥にある工房に、白髪白髭のちょっと魔法使いっぽい感じのおじいさんがいた。


「おじいちゃんっ」


「なんだい、お客さんかい?」


 工房から出てきてくれた。


「回復魔法が出せる杖とか巻物を探してるって言われたんだけど、やっぱりないよね? それに代わるものとかも?」


「何度も言ったじゃろ。無いし、今後も入荷する事は無いじゃろう。もし作れる者がおったらとっくに流通しておるはずじゃ。

 だいたい、回復するなら魔法薬で充分じゃからの。

 それに何度も使える魔法の杖や魔法の巻物が出れば、魔法薬が売れなくなる。

 薬師が困るじゃろうて。作れる者がおったとしても、あえて作らんのじゃないか」


 店主のおじいさんは、少し呆れたように言った。


 なるほど……そういうことか。

 それはあるかもしれない。


 魔法の杖や魔法の巻物で回復できたら、魔法薬をほとんど買う必要は無い。

 まぁ杖や巻物は高いだろうから、誰でも買えるってわけではないだろうけど。

 それでも、薬師は困っちゃうかもね。


 これは諦めたほうがよさそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る