1085.妖精女神から、愛と武勇の女神……?
「ありゃま! 羽妖精様ではないか! これはこれは……なんとお美しい……」
魔法道具店の店主のおじいさんは、ニアに目を止めて驚きの声を上げた。
そして、目を細めた。
「ニアよ、よろしくね。なんか面白い魔法道具とかない?」
ニアさんは、いつもの軽いノリだ。
「面白い魔法道具ですか? ……言いにくいのですが、羽妖精様のサイズで使える魔法道具は……」
「あー、わかってるわかってる。私のサイズの道具がないのはわかってるから。そういうの関係なしで、面白い道具とか、駆け出し冒険者に役立つ道具はない?」
「ほほほほほ、いろいろありますぞ! そちらのお兄さんとパーティーを組んでいるのですか?」
おじさんはそう言うと、チラリと俺を見た。
「そうよ」
「グリムと申します。よろしくお願いします」
「私は、長年この迷宮都市で魔法道具屋をやっておりますマドグです。ぜひご贔屓に」
「グリムさん……? グリムさんて……シンオベロン卿ですか?」
俺の名前を聞いて、店員さんが、首を傾げている。
「はい、グリム=シンオベロンと申します」
「あれ……羽妖精様も一緒だし……もしかして! “キング殺し”ですか!?」
孫娘店員さんが、途中からテンションを上げた。
「はははは……。そういう風に呼ばれているのは、知っていますが……」
苦笑いするしかないよね。
「はい、キング殺しです」とは認めたくないのである。
「まぁすごい! ご挨拶が遅れました私はアイムと申します。よろしくお願いします。今後とも、ご贔屓にお願いします!」
アイムさんは、90度以上曲げて頭を下げてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「私の事は、アイムちゃんと気軽に呼んでください。常連さんは、みんなそう呼びますから」
確かに十代後半って感じだから、アイムちゃんの方がしっくりくるかもしれない。
「そうですか、では遠慮なくアイムちゃんと呼ばせていただきます」
「ねえねえおじいちゃん、話したでしょう? この人“キング殺し”よ。一昨日の襲撃の時に、この迷宮都市を救った『キング殺しのシンオベロン卿』よ!」
「おお、言っておったのう。そうだったのですか。ということは……ニア様が、多くの人を治療してくださった『癒しの女神様』ですな! 空を舞う鶏魔物も一掃したとか! さすが『愛と武勇の女神』様です!」
マドグさんは、そう言うと、指を組んで祈るようなポーズをした。
完全にニアが神格化されてますけど……。
妖精女神から『愛と武勇の女神』になっちゃってますけど……。
まさか……ニアの二つ名になっちゃったりしないよね……?
そしてマドグさんは、相当羽妖精が好きなようだ。
ニアについて話すときのが音量が、俺のときの二倍くらいになっている。
ニアは、超ドヤ顔をしている。
「そうよ。だからさぁ……普通のお客さんには出さないような掘り出し物とか……ないわけ?」
ニアが調子こいて、そんな要求をした。
この人って……女神と呼ばれる威厳が、ゼロだと思うんですけど。
いつも思うけど、なぜみんな気がつかないんだろう……?
「そうですなぁ……掘り出し物ですか? ちょっと探してます。お待ちください……」
マドグさんはそう言うと、工房のさらに奥にある部屋に入って行った。
「まずは、店頭の商品をゆっくり見ててください」
アイムちゃんに促され、俺たちは店内の商品を見ることにした。
さて……何から見るかなぁ。
まずは、魔法の杖から見るか!
様々なサイズ、デザインの杖が展示してある。
ただやはり……魔力効率を高めたり、魔法の威力を高めるための補助的な機能を果たす魔法の杖ばかりだ。
俺が持っているような魔法を直接発射するものは、置いていない。
一番小さい杖は、オーケストラの指揮者の指揮棒のようなサイズだ。
というか……有名魔法少年の映画に出てくるような魔法の杖だ。
思わず欲しくなっちゃう。
空飛ぶ箒とか売ってないかなぁ……。
この杖は、小さいだけに、効果も高くないようだが、初心者用の杖で、魔法道具にしては安い。
五万ゴルと表示されている。
なんとなくだが……魔術式とか……魔法陣は埋め込まれていないんじゃないかなぁ。
素材が特別なだけという感じがする。
「すみませーん」
アイムちゃんに訊いてみよう。
「はい、どうしました?」
「これって、魔法道具としてはかなり安いと思うんですけど……魔術式とか魔法陣って、埋め込まれているんですか?」
「いえ、魔力効率が良い特別な素材で作っているだけですよ」
やはり俺の予想は、当たっていたようだ。
何の素材なのか、めっちゃ知りたい!
「どんな素材なんですか?」
「『魔アカザ』という植物の茎を使って、加工するみたいです」
おお、すんなり教えてくれた!
きっと、重要な秘密とかではないのだろう。
それにしても……『魔アカザ』という植物があるのか。
もしかしたら……アカザの異世界補正というか……魔素を大量に浴びたアカザなのかもしれない。
俺の元いた世界では、アカザの茎を使って杖を作っていたと言う話を聞いたことがある。
「希少な植物なんですか?」
「『冒険者ギルド』のクエストに、常時出てますよ。たまに迷宮でも採れるんです」
「迷宮でも採れるんですか?」
「時々、突然にして生えてるみたいなんですよね。見つけた冒険者は、結構稼げると思います。群生してますから。茎が直立していて二メートル以上ありますから、あればすぐわかると思います」
「そうなんですか」
「この杖は……『マジックタクト』と言われているものなんですけど、誰でも作れるものではないんです。職人の技量で出来が違っちゃうんですよ」
「『魔アカザ』の茎を削ればいいんじゃないの?」
ニアが、お気楽に軽く失礼な質問をした。
「乾燥させて加工するんですけど、その塩梅が難しいみたいです。あと持ち手の太さと先端の細さのバランスも大事みたいです」
「もしかして、マドグさんも作ったりするんですか?」
「ええ、おじいちゃんの腕はピカイチなので、ここに置いてあるのは、オススメです!」
アイムちゃんは、親指を吐き出した。
なかなか良い情報を聞くことができた。
迷宮に行ったときに、気をつけて見てみよう。
そして、できれば俺も作ってみたいな……。
今ふと思ったけど……植物素材なわけだし、『魔アカザ』で人形を作って、『植物魔法——
『魔アカザ』を手に入れたら、試してみよう!
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