1080.驚きの、入会希望者。

「うげっ……」


 『商業ギルド』から『ツリーハウス屋敷』に戻ってきた俺は、思わず驚きの声を漏らしてしまった。


 冒険者の数が大幅に増えているのだ。


 ……やばい。


 通りに、行列ができている状態だ。


 気の短い冒険者が、文句を言ったりしないだろうか?


 まぁ文句を言うような奴は、その場で終了だけどね。


 ただ、そんな心配は杞憂のようだ。


 屋敷の中に入ると、面接を待っている冒険者が自由にくつろいでいる。


 行列はあくまで受付をするための行列で、受付が終われば面接の順番が来るまで、自由に過ごせるかたちになっている。

 子供たちと遊んでくれている冒険者も多い。


 『冒険者ギルド』から応援に来てくれたリホリンちゃんとナナヨさんが、うまく回してくれている。


 さすがギルドの受付で、クセのある冒険者たちを相手にしているだけある。


 集まっている冒険者たちをざっと確認すると……若い人の割合が多い感じで、そこは狙い通りだ。

 そしてなんとなくだが……女性冒険者の割合が多いような気がする。

 気のせいだろうか?


 俺の姿を確認したリホリンちゃんが、受付業務を一旦中断して走ってきた。


「グリムさん、大変です、大変なんです! すごい人が面接に来ちゃいましたよ!」


 何かわからないが、リホリンちゃんが取り乱している。


「えーっと、すごい人というのは……?」


「今『冒険者ギルド』に二組しかいないBランク『極上級プライムランク』パーティーの一つが来てるんですよ!」


「え、Bランクって……事実上のトップランカーだよね? そんな人たちが、うちのクランに入りたいって来てるんですか?」


「そうなんです! もうびっくりです! 冗談言って、からかってんのかと思ったんですけど、本気みたいでした」


「その人たちは今どこに?」


「今は、面接の順番待ちですけど……ほら、あそこ奥の木にもたれて、子供たちと遊んでるちょっとお年を召した方々……あの人たちです」


 確かに、『養育館』の前の木ところに座って、子供たち遊んでくれている人たちがいる。


「ほんとに入るために、面接に来たんですかね?」


 俺も半信半疑なので、ついリホリンちゃんに再確認してしまった。


「実は私も信じられないんです。あの人たちって、孤高のパーティーとも呼ばれていて、他の冒険者パーティーとあまり深く変わらないんです。弟子入り志願する人なんかも結構いたみたいなんですけど……受けなかったそうです。一時的に教えてあげるとかは、行っていたみたいですけど」


「そうですか、ますますわからないですね……」


「以前『エリアマスター』を討伐したことがあるんですが、普通、『エリアマスター』の討伐は、いくつものパーティーで臨むんですが、二組で達成しちゃったんです。

 その理由が、死人を出したくなかったからって言うことだったみたいなんですけどね。

 ギルド長曰く……“尊敬すべき変わり者”だそうです」


「そうなんですか……やはり実力も凄いんですね」


「そのもう一組っていうのが……グリムさんも知ってるパーティーですよ! 『炎武えんぶ』の皆さんなんですよ。

 『炎武えんぶ』の先輩にあたるパーティーだそうです。

 パーティー名が『闘雷武とらいぶ』と言うんですけどね。女性三人男性二人の実の姉弟パーティーなんですよ」


 なんと、びっくり情報が飛び出した!


 俺がお世話になっているローレルさん率いる『炎武えんぶ』の先輩パーティーなのか。

 いやー驚いた。

 しかも、二組で『エリアマスター』を討伐したのか。


 俺と仲間たちなら、もちろんできるだろうけど……普通はできることじゃないよね。


 今は引退したローレルさん達『炎武えんぶ』も、Bランクパーティーだったということだ。

 ローレルさん達が引退したことによって、Bランクパーティーが三組から二組になってしまったとのことだった。


 それにしても……聞けば聞くほど、なぜクラン入りを希望しているのか全くわからない。


 この迷宮都市に、現在二組しかいないBランクのパーティー……一度会ってみたいと思ってはいたけどさぁ。

 まさかその一組が、面接に来るなんて……。


 やはり直接話を聞くしかないね!


 俺は、リホリンちゃんに、俺が直接面接することを告げ、受付の順番から除外するようにお願いした。



「あの……このクランのマスターをしていますグリムと申します。Bランクの冒険者パーティー『闘雷武とらいぶ』の皆さんだとリホリンちゃんから聞きました。わざわざ来ていただき、ありがとうございます」


 俺は、敬意を持って丁寧に挨拶した。


「あんたがグリムさんかい? すまないねぇ、こんな老いぼれが来てしまって。若手を育てるクランだって言うのにね、ハハハハハハ」


 少し白いものが混じった茶髪女性が、男前な感じで豪快に笑った。


「いえいえ、とんでもありません。本当に私のクランに入ることを、ご希望いただいてるのでしょうか?」


「ああ、もちろんそうだよ。嫌でなければだけどね。あんたんとこに、ローレルたちがいるんだろう?」


「はい。ローレルさんをはじめ『炎武えんぶ』の皆さんには、大変お世話になっています」


「ローレルたちは、私らの後輩パーティーなんだよ。以前一緒に『エリアマスター』を倒したこともある。あの子たちとは、妙に馬が合ってね……」


「つい今し方、リホリンちゃんから、そんな話も聞いたところでした」


「実はね、ローレルから手紙が来ててね。あんたのことを、助けてやって欲しいって書いてあったのさ。

 もっとも、迷宮都市に来て数日で、すごい活躍だからねぇ……助ける必要なんか、どこにもなさそうだけどね。ハハハハハハ」


「そうですか、ローレルさんから手紙が……」


「あの子が色々訳ありなのは知っていたから、引退する時も何も言わなかったんだが……いい第二の人生を送ってるようで、安心したよ。

 それだけでも、あんたに借りがあるようなもんだよ。かわいい妹分が、世話になったんだからね」


「いえ私なんか何も……本当に私が助けてもらっているだけです」


「まぁローレルの手紙のこともあり、他にもいろいろ思うことがあってね。それで面接に来たのさ。だから真剣に面接に臨むつもりだよ。迷惑かな?」


「いえいえ、とんでもありません。それでは、ゆっくりお話を聞かせてください」


 俺は、本格的な面接を始めるために、『クラン本館』の応接室に案内した。


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