1081.志望、動機。

「改めまして、この『ツリーハウスクラン』のクランマスター、グリム=シンオベロンと申します。よろしくお願いします」


 俺は、『クラン本館』の応接室に通した冒険者パーティー『闘雷武とらいぶ』の皆さんに、改めて挨拶した。


 この人たちは、『冒険者ギルド』で二組しかいないBランクパーティーの一組である。

 『ハンター育成学校』で教鞭をとってくれているローレルさん達『炎武』の皆さんとは旧知の中で、以前二組で『エリアマスター』を討伐するという偉業を成し遂げた、冒険者憧れの存在である。

 俺のクラン入りを希望して、面接に来てくれたのだ。

 最初は信じられなかったが、本気で来てくれているということがわかった。


 だが……むしろ俺が面接される気分だ。


 Bランクというのもあるし、年齢的にも経験を積んだ方たちだしね。

 気分は……ユーフェミア公爵たちに、面接されるみたいな感じだ。

 何かそういう圧というか、威厳のようなものがあるんだよね。


「早速ですが、少し質問させていただきます。

 改めてお伺いします。なぜ皆さんのような方が、このクランに入りたいと希望していただいたのでしょうか?」


 俺は、単刀直入に質問した。


「そりゃ、疑問に思うわな。すまないね、戸惑わしちまって。

 そうだ、まだちゃんと名乗っていなかったね。

 私はアミス、よろしく頼む。

 いかんね、面接を受ける方だから……よろしくお願いしますと言わなきゃだね。ハハハハハ」


 アミスさんは、豪快に笑った。


「アミスさん、よろしくお願いします。言葉遣いなどは、一切気になさらずに、普段通りでお願いします」


「そうかい、すまないね。私ら教養がないもんでね。ハハハハハ」


「それでクラン入りを希望された理由は?」


「そうだったね、さっきも言ったけど、冷やかしで来てるわけじゃないんだ。

 妹分だったローレルたちが世話になったことに恩義を感じていることと、手紙が来たということは、話したけど、他にも理由があるんだよ。

 あんた達の評判を聞いて、興味を持ちまったのさ。ハハハハハハ」


 ほんとに男前な笑い方だ。


「評判と言うと?」


「妖精女神とその相棒の凄腕テイマー、今は……妖精女神とその使徒とともに多くの人々を救う救国の英雄。私らが集めた情報じゃぁ……まるで英雄譚だ。


 ……ピグシード辺境伯領にはおいては、各市町を壊滅させた大量の魔物を殲滅し、その後は人々を救うために商会を立ち上げ、急速な復興の中核となった……


 ……ヘルシング伯爵領では、吸血鬼たちに支配されていた領を取り戻す中心的な役割を果たし、各市町を襲った吸血生物を撃退、しかも死者を一人も出さずに……


 セイバーン公爵領においては、『亜竜 ヒュドラ』や伝説の魔物とされるクラゲ魔物を倒し、犯罪組織『正義の爪痕』を壊滅させた……


 ……コバルト侯爵領では、突如として起こった嫡男による反乱を即座に鎮圧……


 ……そんな男を見てみたかったのさ」


 アミスさんは、ニヤリと笑った。


 話の途中からは、まるで吟遊詩人のような感じで話していた。


 この人も、観劇とかが好きなんだろうか?


「…………」


 とりあえず苦笑いで返すしかない……。


「そんな男が武者修業としてこの迷宮都市を訪れ、最初にやったことは……


 ……三方向から迫りくる大量の魔物の撃退。そして、その中にいたキング魔物四体も瞬殺。

 昨日は、迷宮での『連鎖暴走スタンピード』の鎮圧とカエル魔物のキングを倒した。

 付いた二つ名は……『キング殺し』。

 この迷宮都市に到着してわずか数日……その名を知らぬ者はいない……


 私はねぇ……三十八年冒険者をやってるんだ。それなのに、こんなに面白い男……初めてだよ!

 おまけに、誰も救いの手を差し伸べなかったみなしごたちを集めて、クランを作ったって言うじゃないか。

 これ以上面白い事、あるかい!? ハハハハハハ」


 またもや吟遊詩人のような語り口調で言っている。

 そしてすごく愉快そうだ。


「はあ……」


 なんて返したらいいかわからない。

 苦笑いするしかないんだけど。


「馬鹿にしてるわけじゃないからね。あんたを認めてんのさ。

 私らの冒険者人生も、もう残りわずかだ。どうせなら、面白く終わらせたいじゃないか。

 それで、あんたのクランに入ろうと思ったのさ。

 募集要項も面白かったしね。腹を抱えて笑ったよ。最高の、素晴らしい条件だよ。

 あんな条件見ちまったら、入りたくなっちまうってもんさ。ハハハハハハ」


 何か本当に楽しそうで、それはいいんだけどさぁ。


 そんなに笑える募集要項だったかなぁ?


 募集要項は……


 ————————————————————————

 『募集要項』

 ○以下の項目を守れる人を、選考の上クランのメンバーに迎え入れます。


 一、笑顔で挨拶をする。

 二、感謝の心を持つ。

 三、命を大事にする。

 四、家族仲間を大事にする。

 五、弱いものを守る。

 六、嘘をつかない。

 七、盗みや悪いことをしない。

 八、自分を許し愛する。

 九、差別をしない。

 十、クランの子供たちの面倒を見る。

 十一、炊き出し等の奉仕活動を手伝う。

 十二、若手冒険者や冒険者を目指している人を指導し、助ける。


 ————————————————————————


 ……というものだったのだが。

 そんなに笑える要素はないと思うんだけど。


 ただ冒険者を集める条件としては、だいぶ変わっているのかもしれない。


 クランというのは、できるだけ強い冒険者を集めて、効率の良い冒険者稼業をするためのものというのが、一般的な認識のようだからね。


 なんとなくだが……アミスさん達は、例えて言うなら……「変わった奴がやってる面白そうなサークルがあるから、入ってみようかな」的な感じなのかな?


「なんとなくおっしゃっている事は、わかるような気がしますが……だからといって、私のクランに入るメリットはあるのでしょうか?」


 恐る恐る尋ねてみた。


「メリット……? ハハハハハハ。損得じゃないんだよ! 面白いか面白くないかなんだよ! それにメリットって言うなら、間近であんたの活躍が見れるってのが、立派なメリットさ!」


「はあ……」


 またもや苦笑いするしかないが。

 完全に楽しんでるってこと……?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る