1079.買取交渉の、依頼。
中区の『商業ギルド』に着いた。
俺は、この前の取引で担当になってくれたビジネリアさんを呼んで話をした。
さっき屋敷で起きたことの顛末を説明し、屋敷の正面から見て右隣南側の倉庫の持ち主から土地建物を七千五百万ゴルで購入する手続きをお願いしたのだ。
「それはわかりましたけど……ほんとにいいんですか? そんな値段で。
おそらくその倉庫の場合ですと、グリムさんに販売したツリーハウスの土地よりも、安いですよ。
良くて二千万ゴルじゃないでしょうか。そこを七千五百万だと四倍近い感じになっちゃいますけど……」
「大丈夫です。あの隣人とは、二度と絡みたくありませんから。褒められたことではないかもしれませんが、お金の力で解決できるなら、それで構わないのです」
「そうですか……ちょっと待ってくださいね」
ビジネリアさんはそう言って、資料を確認した。
「ああ、あそこは……『ハコモノ商会』の土地です。評判が良くないんですよ。おそらく来たのは会頭さんでしょう」
「そうなんですか。何をやってる商会なんですか?」
「荷車や馬車、木箱なんかを専門に販売している商会です。
商品が商品なので、商人を相手にする取り引きが多いんですけど、結構トラブルが多いんですよ。
販売後すぐに壊れても、全く対応しないとか……そんな感じだったと思います。
内容は忘れましたけど、悪どい商売をやってるっていう噂もありましたね」
なるほど、そうなのか。
確かに……あんな奴が会頭なら、まともな商売をやっているとは思えない。
そして多少なりとも、悪事を働いているはずだ。
よし決まった!
『闇の掃除人』案件だ!
『闇の掃除人』出動だ!
約束通り七千五百万ゴルは、払ってやるけど、徹底調査してやる!
あんな奴をのさばらせておいたら、きっと嫌な思いをする人が今後も出てしまう。
悪事の証拠を見つけて、衛兵に突出してやる。
その前に、一発殴るかな……『闇の掃除人』なら、誰だかわからないから……やっぱ殴ろ!
そうだ!
あいつを俺のスキルの実験台にしよう。
『状態異常付与』で『催眠』を付与して、催眠状態にして、あいつに自らの悪事を全部語らせるか。
よし! それがいいな。
今晩にでも出動だ。
俺はそんな決意をしつつ、ビジネリアさんにもう一つお願いをした。
それは、『ツリーハウス屋敷』がある区画ブロックの他の居住者の物件も、買取交渉してもらえないかという依頼だ。
今回のようなことが起きないように、安心して子供たちに住んでもらうには、一番いいのは区画丸ごと俺の土地にしてしまうことだ。
そうすれば、隣人は道を挟んだ反対側の人たちばかりになる。
早々文句を言われる事はないだろう。
子供たちに、はしゃぐなとか言いたくないし、今後冒険者も集まってくるわけだから、どうしても騒音は出てしまう。
ご近所トラブルを避けるためには、ベストな作戦だと思う。
もちろん地上げ屋みたいな事はやりたくないので、あくまでお願いベースだけどね。
でもかなりの高額な値段を提示すれば、よほど土地に愛着がある人でなければ、交渉に応じてくれるのではないかと思う。
「分りました。できるだけ売っていただけるように、頑張って交渉しますよ。
それにしてもグリムさんて、ほんとに面白い事考えるんですね。区画ブロック丸ごとだなんて……。
そうだ、値段はいくらまで交渉可能ですか?」
「今回のように、相場の三倍までは出すつもりです。できれば二倍ぐらいだと助かりますけどね」
「分りました。あの地域で相場の二倍で販売できるなんて、普通はありえない話ですよ。三倍なんて奇跡の金額です。提案するだけなら、決して悪い話じゃないと思いますので、早速話してみます」
「ありがとうございます。ただ、無理矢理追い出すような事はしたくないので、あくまでお願いというかたちで進めてください」
「はい、もちろんわかってますよ。私の腕の見せ所ですね! お任せ下さい!」
「期待しています」
「はい。ただ……もし買取交渉がうまくいかなかった場合、他の場所で、グリムさんが希望するような区画ブロック丸ごと購入できる場所を、探しますか?」
「それは大丈夫です。あそこから移る気はないので。あのツリーハウスがある場所に、人集めたいと思っているんです」
「やっぱりそうですよね。実は、グリムさんがクランを作るって話は、もう『商業ギルド』にも入ってきてました。
『ツリーハウスクラン』っていう名前ですもんね。あそこがいいですよね」
ビジネリアさんが、少し悪戯っぽく微笑んだ。
てか、昨日の夕方『冒険者ギルド』の掲示板に貼り出されただけだけなのに、もう『商業ギルド』にも情報が入ってるわけ?
「すごいですね。情報、早いですね」
「『商業ギルド』ですもの! 情報に疎いようじゃ、ギルド会員の皆さんのお役に立てませんよ。
それにグリムさんは、この迷宮都市で、今一番脚光を浴びている人ですから。すぐに情報は駆け巡りますよ。多くの人の関心は、『キング殺し』にあると言ってもいいくらいですから」
またもやビジネリアさんが、悪戯な笑みを浮かべた。
俺って……注目浴びちゃってるわけ?
まぁ……色んなキングは倒したけどさぁ。
そして『キング殺し』が確実に広がっているのね……トホホ。
「そうだ! 『商業ギルド』の新ギルド長が、明日にも決まるみたいですけど、今度は変な人にはならないと思いますので、前に言った通りに、グリムさんにお得な物件情報を流しますからね!」
ビジネリアさんが、“特別ですよ”的な感じで言ってくれているのだが……
「ありがとうございます。今のところ、他の場所の土地を活用する予定は無いですが、情報はありがたく頂戴します」
俺は、苦笑いしつつ答えた。
厚意で言ってくれているので、いらないとは言いづらい。
ほんとにこの人は、俺を不動産屋にしようと思ってるのだろうか?
まぁいいけどさ。
それはさておき、うまく買取交渉が進むことを、心から祈りたい。
もうご近所トラブルなんて嫌だからね。
相場より高い金額を出すことで、もし喜んで売っていただけるなら超ラッキーだ。
『ツリーハウス屋敷』は、すでに手狭な感じになってきているからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます