1078.理不尽な隣人は、金で解決。
突然怒鳴り込んで来た感じの悪いおじさんは、隣の倉庫の持ち主だった。
いわゆる、ご近所トラブルだ。
おじさんはめっちゃ感じ悪いのだが、文句を言われてもしょうがない部分もある。
百人超えの子供たちが、普通に話しているだけでも騒がしいだろうし、今日は多くの冒険者まで集まって来ているからね。
昨日の時点で、バーバラさんがこの『ツリーハウス屋敷』と同じ区画ブロックのご近所さんに、挨拶に行ってくれていた。
子供が外で遊ぶ声が響く可能性があり、事前にしっかり挨拶をしておこうということで出向いてくれたのだ。
バーバラさんの報告では、この『ツリーハウス屋敷』の両隣にある倉庫は、両方とも不在で挨拶ができなかったと言っていたんだよね。
土地の区画ブロックの西側半分を占めているのが、『ツリーハウス屋敷』とその両隣の倉庫なのだ。
区画ブロックの東側半分には、五つの住宅が建っている。
この住宅の人たちには会えたので、しっかり挨拶をしてきたとの報告だった。
バーバラさんの話では、住宅に住んでいる人たちは特に問題があるような印象は受けなかったとのことだった。
その人たちから文句が出てないのに、住んでもいない倉庫の持ち主が、怒鳴り込んで来たというわけだ。
だが、そんな事は言えないし。
「誠に申し訳ありません。子供たちが多いですから、どうしても多少の音は出てしまいますが、この子たちは親のいない子供たちで、ここで暮らすしかないんです。何とかご了承いただけないでしょうか?」
俺は頭を下げて、お願いした。
「そんなの知ったことか! 他でやればいいだろ! なんでここなんだよ! 邪魔なんだよ!」
取り付く島がないくらい怒っている。
倉庫で仕事をするのに、子供の声がそんなに邪魔になるとは思えないんだけどなぁ。
距離は、結構離れてるいるし。
そもそも高級住宅街とは違う下町だし。
住宅があったり、倉庫があったり、工房があったりという場所だから、多少の騒音はお互い様だと思うんだよね。
ただ気に障るってだけだよね……?
ちょっとイラッとしてきた。
こんな奴に、毎回怒鳴り込んで来られたら……ストレスだな。
子供たちに怒鳴りでもしたら、子供たちが可哀想だ。
それにそんなことをされたら……確実に殴ってしまいそうだ。
というか、今も殴りたい。
『コウリュウド王国』と違って、アウェイなこの迷宮都市では、騒ぎを起こさないように我慢するけどさ。
「すみません。なんとかしろと言われましても……ここを立ち退くわけにもいかないものですから。あの……失礼な申し出かもしれませんが、お持ちの倉庫を私に買わせていただけませんでしょうか? 相場の二倍お支払いします」
こんな奴とずっと付き合うなんて、まっぴら御免だ。
金の力で解決できるなら、それが手っ取り早い。
大体こういうことを言ってくる奴は、金に目がない奴に違いない。
「なんだと! 俺をなめてんのか!? 二倍ってなぁ、ここの値段がいくらか、わかって言ってるのか!?」
おじさんは、相変わらず怒鳴っているが……確かにお金に対して反応している。
値段はわからないけど、敷地の広さは『ツリーハウス屋敷』と同じくらいだ。
『ツリーハウス屋敷』の購入価格が二千五百万ゴルだったから、それより高いということはないだろう。
上物が倉庫だからね。
「『商業ギルド』で調べればわかることでしょうけど、どんなに高く見積もっても二千五百万ゴルは超えないと思います。その二倍の五千万ゴル出しますよ」
「な、なんだと……」
明らかに顔色が変わった。
やはりこいつは、金で何とかなりそうだ。
「おい! 金でなんとかできるなんて思ってんじゃねーぞ! 俺をなめてんのか!?」
そう言っているが、明らかに今までのただ怒っていた感じとは違う。
怒鳴ってはいるが、内心では食指が動いてるはずだ。
こんな奴に気を使うのは、やるせないが、ここは自尊心を傷つけずに……
「大変失礼いたしました。私の申し出が失礼でしたら、お詫び致します。ただ子供たちの為にも、ここを離れられませんので、せめてもっと静かな環境のいい場所で広い倉庫を持ちいただければと思ったのです。もし提案を受け入れていただけるなら、誠意を込めて三倍の価格を出します。七千五百万ゴル出しますので、何とかお譲りいただけないでしょうか?」
「な、なにぃ、七千五百万!?」
こいつ、完全に怒りを忘れた感じだ。
いけそうだ。
こんな奴に、相場の三倍も出すのは業腹だが、今後も付き合わなきゃいけないよりは、はるかにいい。
「何とか譲っていただけないでしょうか? 下町エリアでしたら三倍の広さの倉庫を持てると思いますが……」
「ほ、本当に七千五百万出すのか……?」
「もちろんです。もしご了承いただけるなら、即金でお支払いいたします。もちろん手続きは安心できるように、『商業ギルド』を通しておこないますので、騙すようなことはありません」
「ほ、本当なんだな?」
「はい、安心していただけるように、今から『商業ギルド』に行ってきます。そしてギルドの担当者から、連絡するように依頼してきます」
「そ、そうか。それならいいだろう……。信じてやろう……」
「ありがとうございます。助かります。本当にありがとうございます。本当にお優しい方で助かりました。ありがとうございます」
俺は心にもないお礼を言って、おじさんの顔を立て、帰ってもらった。
本当に業腹だが、あいつと関わらなくていいと思うと、結果オーライだ。
あいつの気が変わらないうちに、早くカタをつけてしまおう。
俺は、このまま中区にある『商業ギルド』に向かうことにした。
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