1077.ご近所トラブル、勃発。

 まだ朝と言っていい時間だが……クラン入りを希望する冒険者たちが集まって来たようだ。


 周囲が雑然と騒がしくなってきた。


 俺は、すぐに面接官たちに連絡をして、来てもらった。


 面接官は……三人だ。


 人を見る目が確かな『フェアリー商会』の頼れる総支配人『アメイジングシルキー』のサーヤ。


 大森林の仲間たちを始め多くの仲間たちの母親のような存在『アラクネーロード』のケニー人型分体。


 数多くのチンピラをテイムして更生されている熱血教師……夜回り先生ならぬ下町回り先生……俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビー。


 この三人に任せれば、変な人がクランに入ることはない。


 本当に申し訳ないが……完全に“丸投げ”なのだ。


 三人は、すぐに転移で来てくれた。


 それはいいのだが、なぜか四人だった。


 一人増えているのだ。


 なぜか『コウリュウド王国』第一王女のクリスティアさんが、一緒に来ている。


 彼女は、『強制尋問』スキルを持っている審問官で、尋問の達人である。

 もちろん面接も達人級だろう。


「グリムさん、お忙しそうなので、お手伝いに来ました!」


 クリスティアさんが、めっちゃ嬉しそうに俺の腕を掴んだ。


 この国で、クリストティアさんの顔を知ってる人はいないだろうから、身元がばれる事はないだろうけど。


 てか……コバルト直轄領の領政官として、忙しいはずなんだけど、来て大丈夫なんだろうか?


「あの……直轄領の仕事は、大丈夫なんですか?」


「もちろんです。今では人材も補充されて、私を補佐する特別チームまで出来ています。

 シャリアやミアカーナやエマも手伝ってくれていますし。

 三人とも、急遽グリムさんの応援に行くと言ったら、散々恨み言を言われましたけどね」


 クリスティさんは、なんか……すごく上機嫌だ。


 セイバーン公爵家長女のシャリアさんと、スザリオン公爵家長女のミアカーナさんと、クリスティアさんの護衛官のエマさんが、補佐としてコバルト直轄領の仕事も手伝っているんだよね。


「ありがとうございます。助かります」


「もう水臭いこと言わないでください! 

 それにしてもグリムさん、忘れないうちに言っておきますけど、ひどいじゃないですか! 

 『アルテミナ公国』に行く前は、『竜羽基地』に定期的に戻ってくるって言ってたじゃないですか! 

 毎日戻って来るような感じで言ってたのに、『アルテミナ公国』に旅立ってから、一回も戻ってこないなんて、酷すぎます!」


 クリスティアさんは、珍しくすねるような感じでほっぺを膨らませた。


 なんかめっちゃ可愛いんですけど。

 久しぶりに会ったからかな……。


 てか、まだ四日しか経ってないんですけど。


 確かにマメに『竜羽基地』に戻って、いつものメンバーと情報交換しようと思ってたけどさ。

 いろいろ大変だったんだもん……。



 俺は、改めて面接を担当してくれる四人と、簡単なポイントの打ち合わせをした。


 明らかに問題があると思われる人は、選考外と判定して、その場で伝えて期待を持たせないようにする。


 それ以外の人については、今日は即決せずに、明日の朝に屋敷に張り出すと案内をする。

 字が読めない人には、口頭で合否を伝えてあげる。


 そして面接に来てくれた人全員に、特製のドロップをあげるということにした。

 わざわざ来てくれたので、そのお礼である。


 このドロップは、今後販売しようと思っている箱入りのものを、一箱丸ごとあげるのだ。

 結構な大盤振る舞いだが、別に問題はない。

 実際どのぐらい人が集まるかわからないが、大量に用意してあるのだ。


 昨日の夕方から、『冒険者ギルド』の掲示板にクランの情報が張り出されているわけだが、すぐに『美火美びびび』のメンバーが、打ち合わせ通り噂を流してくれている。


 駆け出し冒険者を優先で取るとか、選考が厳しいからクランに入るのは難しいだろうとか、あまり人が押し寄せないための情報操作だ。


 今日も引き続き、ギルド酒場などでそんな情報を流してくれる予定なのだ。


 あまりに多くの人が押し寄せ、多くの人を採用しないとなると印象が悪いし、余計なところで反感を買いたくないからね。


 面接に来る人が減ってくれた方が、助かるのである。



 ……面接が始まった。


 訪れる冒険者の整理誘導は、ギルドからの応援のリホリンちゃんとナナヨさんが行ってくれている。


 面接は四部屋とって、四人の面接官がそれぞれ行う形式だ。


 『美火美びびび』のメンバーは、二手に分かれて南区のギルド本所と北区の支所に出発してくれた。

 噂広め作戦のためだ。


「グリムさん、すごい数の冒険者が来てますわね。一体どのぐらい採用される予定なのですか?」


 ムーランさんが、驚いている。


「はい。若手の冒険者を中心に支援しようと思っているんですが、特に定員は決めていないんですよね……」


「なんか大変なことになりそうな気がしますが……」


 ムーランさんが、微妙に半笑いしている。

 人の多さに呆れている感じと、心配の気持ちが混じっているようだ。



 少しして……訪れる冒険者が、すごい数になってきた。


 なんかすでに、五十人くらい来ている気がする。

 まだ午前中の早い時間帯なのに。


「おいおいおい! なんだこの騒ぎは!? ここは一体どうなってるんだ!? うるさくて、かなわないんだよ!」


 おや、突然怒鳴りながら屋敷に入って来たおじさんがいる。


 太ったおじさんが大声を張り上げている。

 冒険者には見えないが……。


 口髭を蓄え、髪の毛が……おお、あれは……伝説の……バーコード……頭頂部をサイドの髪でカバーしている。


 まぁそんな事はどうでも良いのだが。


 おじさん……なんか一人で、めっちゃ怒っている。


 俺は、すぐにおじさんに駆け寄った。


「すみません。どうかしましたか?」


「どうかしましたか? ……じゃねーんだよ! なんなんだこの騒ぎは!? お前が責任者なのか?」


 めっちゃ感じ悪!

 そして声がデカい。


「はい。私がここの責任者です。冒険者のグリムといいます。冒険者を含めたクランを作りまして、クランに入りたいという方が、面接に来ているのです」


「なに!? 面接だぁ!? この人数が? ふざけてんじゃねーぞ! それに、なんでこんなに子供がいるんだ!?」


 おじさんは、文句を言いながら、更に怒りのテンションを上げている。


「あの……大変失礼ですが、どちら様でしょうか?」


「俺か、俺は隣の倉庫のものだ。静かだったのに、こんなにうるさくしやがって! 早くなんとかしろ!」


 なんと、隣の倉庫の持ち主か……。

 やばい……ご近所トラブルのようだ。



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