1076.孤児院の、評判。
「グリムさん、大人のスタッフが少なくて大変でしょう? 私たちも手伝いに来れる時には、お邪魔しますわ」
「そうです。協力させてください」
ルージュちゃんの母親のベニーさんと叔母のムーランさんが、そんな申し出をしてくれた。
非常にありがたい申し出なのだが、太守の一族が一クランに肩入れしていいんだろうか?
「大変ありがたいお話ですが、私などに肩入れというか……お手伝いしていたいただいて、問題にはならないのでしょうか?」
二人は、顔を見合わせて微笑んだ。
「ほんとにあなたは、真面目な方なのですね」
「グリムさん、全く問題ありませんわ。私たちに賄賂を渡して、何かを要求するなんて気持ちは、ないでしょう?」
ベニーさんは少し呆れたように、ムーランさんは少し悪戯っぽく答えた。
「もちろんありません。その逆で、私が厚意を受け取っていいのかとお伺いしたのです」
「ふふ、全く問題ありませんわ。それにこのクランは、冒険者だけを集めて形成されているのではなくて、様々な人が集まっています。そして迷宮都市で誰も見向きもしなかったみなしごの子供たちをメンバーにしています。そんなクランを支援するのは、貴族として当然です」
「そうです。伯爵家の矜持のようなものです。誰にも文句は言わせませんわ!」
ベニーさんとムーランさんが断言した。
「そうですか。それでは、ありがたくご厚意を受けいたします」
俺が礼を言うと、二人は安心したように、大きく頷いた。
「ここは孤児院ではありませんが、実質孤児院のような機能を果たしてくれています。先ほども少し言いましたが、ムーンリバー家では、私的に孤児院を支援しているのです。これからは、こちらに対しても支援をさせていただきます」
「もし何か助けが必要な場合は、遠慮なく言って下さい」
ありがたい話だが……金銭的な支援は、特別必要とはしていない。
それよりは、既存の孤児院を充実させたほうがいいんじゃないだろうか?
前にメーダマンさんが、孤児院は信用できないと言っていた。
せっかくの機会だから少し尋ねてみよう。
俺は、この迷宮都市にある孤児院の現状について、いくつか質問した。
それによれば……
国の施設である公立の孤児院は、南区中区北区にそれぞれ一つずつあって、合計三か所あるとのことだ。
そして『月光教会』に付属する孤児院が、南区に一つ、北区に一つの合計二つあるとのことだ。
それ以外に、私立の孤児院が南区に二つ、中区に一つ、北区に一つ合計四つあるとのことだ。
これを全部合わせると、九つの孤児院があることになる。
結構数があると思うが、如何せんこの迷宮都市は人口が多い。
人口比で考えると、それ程多くないのかもしれない。
各孤児院は、定員が二十名から三十名との事だから、キャパが足りていない状態のようだ。
孤児院の運営で、何か問題はないのかと尋ねてみた。
少し失礼かとは思ったが、「悪い評判を耳にしたので」と説明した。
「悪い評判ですか……? どのような評判でしょう?」
ムーランさんが、表情を曇らせた。
「いや私も耳に挟んだ程度なので、具体的にはわからないのですが、あまり信用できないと言う人がいまして……」
そう答えたところで、ちょうどメーダマンさんがやって来た。
息子のキティロウさんたち『
ちなみにメーダマンさん自身も、ここに一緒に住みたいようなのだが、自分の家をずっと留守にするわけにもいかず、自重したようだ。
「おはようございます。メーダマンさん」
「おはようございます。グリムさん」
「ちょうどいいところに来てくれました。少しお訊きしたいことがあるんです」
「はい、なんでしょう?」
そう言ったメーダマンさんは、ベニーさんとムーランさんに気づいて挨拶をした。
俺はメーダマンさんに、孤児院の話をしていたことを伝え、以前俺に孤児院が信用できないと言った件について、改めて教えてほしいとお願いした。
「これは我々商人の中で噂になっていることですが、孤児院の子供達が何人も行方不明になっているみたいなんです。噂じゃぁ奴隷商人に売り飛ばしているとも言われているのです」
「本当ですか!?」
「まさかそんなことが!?」
ベニーさんとムーランさんは、寝耳に水といった感じで衝撃を受けている。
「あくまで噂ですので……。ただ、たまに孤児院の子たちを見かけるのですが、いつも服装はボロボロで、やせ細っています。しょうがないのかもしれませんが……」
「え、少なくとも公立の孤児院は、国の予算もありますし、足りない分は我が家から出しています」
「他の孤児院だって、多めに運営費を寄付しているはずですが……」
「私が見る限り……公立の孤児院も私立の孤児院も大差ないように感じますが。すべての孤児院ではないでしょうけどね。あと『月光教会』の孤児院は、大丈夫みたいです。あそこは同じ制服を着ているのでわかりやすいのですが、やせ細っているという感じではありません」
「そうですか。メーダマンさん、貴重な情報ありがとうございます」
「もし今の話が事実なら由々しき事態です。調査してみます」
二人は、憤っている。
表情に現れているのだ。
自分たちが支援していたはずなのに、もしも酷い運営状態だったとしたら、怒りがこみ上げてきちゃうよね。
オレも、憤ってるからね。
せっかく孤児院に入っているのに、不幸な状態に置かれているのだとしたら、何とかしてあげたい。
これは『闇の掃除人』出動案件だな。
自分のクランの子供たちが幸せならいいという気にはなれない。
さすがに全世界の子供を救えるとは思っていないが、同じ迷宮都市にいる子供ぐらいは、救いたい。
せっかくチート状態でこの世界にいるんだから、できる範囲では救いたいのだ。
ムーランさんは、孤児院に関する調査を改めて約束してくれた。
それから、『フェファニーレストラン』への納品の件でいくつか話したいと言われたので、メーダマンさんとともに打ち合わせに入った。
すぐにでも納品を始めてくれという話がメインだったけどね。
メーダマンさんが、冷や汗をかいていた。
まぁ商売繁盛でいいことじゃないだろうか。
少しして、朝食と後片付けを終えた子供たちは、体操を始めている。
『護身柔術体操』だ。
今日から本格的に、勉強や訓練を始めるのだが、まずは体操からなのだ。
本当は、朝食の前にやった方が良いのだが、それは明日からでいいだろう。
ルージュちゃんも参加している。
母親のベニーさんとムーランさんも、最初は躊躇していたようだが、一緒に体を動かしている。
『護身柔術体操』を教えているのは……リリイ先生とチャッピー先生だ。
二人がいつものように、可愛く指導している。
育成冒険者パーティー第一号『
……少し周囲が騒がしくなってきた。
俺は確認のため、門から通りを覗いた。
……どうやら冒険者が集まって来たようだ。
結構な数が来てる感じだ。
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