1074.お友達が、遊びに来た。

「私たちは、何をすればいいですか?」

「何でも言ってください」


 ギルド長の指示で、『ツリーハウスクラン』の面接の手伝いに来てくれたギルドスタッフのリホリンちゃんとナナヨさんが、声を弾ませた。


「まだ冒険者は来ていませんから、子供たちと一緒に朝ごはんを食べてください。あと……もしほんとに多くの冒険者が来てくれたら、整理と誘導をお願いします」


「分りました!」

「かしこまりました」


 あ! そうだ!

 一つ大事なことを思い出した。


「そういえば、昨日のギルド酒場の支払いをしないといけないんですけど……金額とか、わからないですよね?」


 ダメ元で訊いてみた。


「はい、わかりますよ。お支払いはですね……三百二十万ゴルになります。支配人が値引いて、切りのいい数字にしてくれたみたいです」


 リホリンちゃんが、紙を取り出して教えてくれた。


 さすが気が利く、会計書というか請求書のようなものを持ってきてくれたみたいだ。


 それにしても……三百万超えかぁ。


 かなり行ったなぁ……。


 百五十人以上はいたしなぁ……そしてあの勢いで食べてたら、行くわな。


 単価の安いギルド酒場で、一人当たり二万ゴル計算だけど……まぁお腹いっぱい食べてもらえたなら、奢った甲斐があったというものだ。


「ありがとうございます。値引きしていただいたんですね。支配人にお礼を言っておいて下さい」


「はい、わかりました。伝えておきます」

「支配人や酒場のスタッフも、お客さんがほんとに楽しそうだったと言って、みんな喜んでましたよ」


 リホリンちゃんに続いて、ナナヨさんも笑顔作った。


 喜んでもらえて、本当によかった。

 何かあったら、またやってもいいかもね。


「あの……もしよければ、今払っても大丈夫ですか?」


「いいですよ。ナナヨさんが魔法カバンを持ってきてますから」


 リホリンちゃんがそう言うと、ナナヨさんが肩から下げているバックをポンポンと叩いた。


 俺は、早速支払った。

 案件が一つ処理できてよかった。

 やれるときに、やっちゃわないと忘れちゃう可能性があるからね。



 俺は、リホリンちゃんとナナヨさんをクランメンバーに紹介した。


 二人は、子供たちの多さに改めて驚いていた。



 そんなところに……今度は屋敷の入り口に、豪華な馬車が止まった。


 そして馬車から降りた女の子が駆けてくる。


 あれは……ルージュちゃん?


「あ! ルージュなのだ!」

「ルージュが来たなの〜」


 目ざとく見つけたリリイとチャッピーが、走って来た。


 やはりルージュちゃんだ。

 この迷宮都市の太守であるムーンリバー伯爵の孫娘のルージュちゃんだった。


 ルージュちゃんの後に、馬車を降りて来たのは……母親のベニーさんと叔母のムーランさんだ。


「リリイ、チャッピー、遊びに来たの! やっと来れたの!」


 ルージュちゃんは、はち切れんばかりの笑顔でリリイとチャッピーに抱きついた。


「遊びに来てくれて嬉しいのだ!」

「また会えて嬉しいなの〜」


 リリイとチャッピーも大喜びで、三人で円陣を組むような感じで飛び跳ねている。


「おはようございます。グリムさん」

「朝からお邪魔して、申し訳ございません」


 ベニーさんと、ムーランさんがゆっくり歩いて来て、挨拶してくれた。


「おはようございます。こんな遠いところまで、何かありましたか?」


「朝早くからすみません。ルージュがどうしてもリリイちゃんとチャッピーちゃんに会いたいって、せがむもんですから」


 ベニーさんが、少し困り顔で言った。


「そうだったんですか。私どもは構いませんよ。それにしても、よくここがわかりましたね?」


「ええ、昨日メーダマンさんに聞いておりましたので」


 ムーランさんが答えた。


 彼女が取り仕切っている『フェファニーレストラン』への納入の件で、メーダマンさんと打ち合わせをしたのかな?

 その時に聞いたのだろう。


「そうだったんですね。よければ、ゆっくりしていってください」


「ありがとうございます」

「変わったお屋敷ですのね。すごく斬新というか……心が温かくなるようなお屋敷ですわ」


 ムーランさんはツリーハウスを見て、そして俺が作った高級ビレッジ風の建物を見て、しみじみと言った。


「それにしても……この子供たちはいったい?」

「すごい数の子供たちですわね。どういう子供たちなんでしょう?」


 クランの子供たちの多さに驚いた二人が、興味津々という顔で俺を見た。


 そこで俺は、子供たちを保護した経緯と、子供たちのためにクランを作ってメンバーにしたことを説明した。


「そうなんですね。これだけの子供たちを……」

「みんな路上で暮らしていた子供たちなんですね……」


 二人は、驚きを隠せないでいる。

 みんな綺麗で小洒落た洋服を着ているので、まさか路上生活というか……林で隠れて暮らしていたり、奴隷商人に捕まっていた子供たちだとは、夢にも思わなかったようだ。


「子を持つ親として……本当に感動いたしました。ほんとに素晴らしいですわ。そして、迷宮都市の太守の家の者として、お恥ずかしい限りです……」


 ベニーさんが、目に涙を浮かべながら言った。


「私も……この子たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。この迷宮都市には孤児院がいくつかあって、経営の苦しい孤児院には、ムーンリバー家として個別に支援していたのですが、まさかこれほど多くの子供たちが、家もなく暮らしていたとは……」


 ムーランさんは、沈痛な表情になっている。


 現実をよく分かっていなかったようだ。

 まぁ太守の家の人間だからといって、全てに目が届くわけではないし、普段の生活ルートの中では、みなしご達を見かけなかっただろうからね。


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