1066.ツンデレ、いただきました!

「あの、グリムさん、私は、保護した人たちの移送が終わったら、公都に潜入しようと思います。私の冒険者時代の仲間が行商人として公都で情報を集めているので、合流したいんです」


 アイスティルさんが、俺に申し出た。


「分りました。そうしてください。公都の状況を詳しく知りたいので、随時教えてください」


「はい、わかりました」


「私は、レジスタンスの現場を取り仕切っているシュキを、しばらく助けようと思っています。彼女がもし公都に潜入するのであれば、私も同行します。この国全体を回るなら、それに同行します」


 今度は、ブルールさんがそう言った。


「分りました。そちらでも情報収集をお願いします」


「了解です」


「お二人とも、わかっていると思いますが、悪魔の情報を何とか拾いたいので、怪しげな動きがあったらすぐに教えてください」


 俺は、改めてお願いした。

 悪魔が表立って何かをしてくるという事はないだろうが、何かの異変を察知することは非常に重要だからね。


「悪魔が何か大きなことを企んでいるというのは、本当なのですか?」


 ハートリエルさんが、少し問い詰めるような感じで尋ねてきた。


「残念ながら本当です。私がこの国に来た本当の理由は、悪魔の根城を見つけ出して倒すことですから」


「そうですか……分りました。私も情報収集に協力します」


 そう言ってくれたハートリエルさんに、さっきニアと一緒に考察した魔物の『連鎖暴走スタンピード』の原因についての見解を伝えた。


 昨日の迷宮都市への三方向からの魔物の襲撃、今日の迷宮内での『連鎖暴走スタンピード』……これらは、何者かが意図的に起こしていることだろうということ。

 そしてそれは、悪魔ではないかという話をしたのだ。

 一応、『強制ギアス』などの特別なスキルを使って、魔物を操っているのではないかという見解も伝えた。


「確かに、これほどの連続した『連鎖暴走スタンピード』も異常だし、キング種の出現も異常です。ギルド長も過去の文献をいろいろ当たってるみたいです。いずれにしろ、引き続き注意が必要ですね」


 ハートリエルさんは、そう言いながら腕組みをした。

 なかなか厳しい状況だと思うんだよね。

 『冒険者ギルド』としては、危ないから迷宮に入るなと言うことはできないしね。

 ただ何かしらの注意を促すことは、できると思うんだよね。



「ハートリエルさんは、『アルテミナ公国』の出身ではないと思いますが、どうしてレジスタンス活動を始めたのですか?」


 俺は、素朴な疑問をぶつけた。


「確かに私は、この国の出身ではありません。ただこの国に住む者として、酷い現状を放置することができなかったのです。

 それに冒険者としての生活は、私に合っていたので、感覚的には自分の国という感じでもあるのです。

 レジスタンス活動は、私が始めたというわけではないんです。

 いろんなところで国に虐げられた人たちが、抵抗を始めたんですが、皆バラバラだったのです。全く勝ち目のない反抗だったのです。

 そんな状態を見ていられなくて、バラバラだったレジスタンスを組織化したのです」


 ハートリエルさんはそう言うと、少しはにかんだ。


「実際、ハートリエルさんじゃなきゃ無理だったですよ。ほんとにみんなバラバラだったですから。武勇にも長けていて、リーダーシップもあるからできたことです」


 アイスティルさんが、ちょっと茶化すような笑顔で言った。


「素晴らしいことだと思います。私もできる限り協力します」


 俺がそう言うと、ハートリエルさんは少し微笑んでくれた。

 なんか……初めて微笑まれたような気がするが……ちょっと嬉しい。


「そこでなんですけど……グリムさん、ハートリエルさんも、例の仲間に入れてもらえないですか?」


 アイスティルさんは、愛嬌のある視線を俺に向けた。

 何かおねだりしているような感じだ。

 “例の仲間”というのは、おそらく『絆』メンバーのことだろう。


 もちろん俺としては、全く構わない。


「あの……二人から大体の話は聞いています。秘匿事項でしょうから、詳しくは二人も話していませんが、何となくイメージは分かっています。もし私で構わなければ……あなたの仲間になります。あなたへの感謝と……それから今は……信頼の気持ちもあります。あなたのこれからに、私が少しでも力になれるのであれば……この身を、さ、捧げましょう……」


 ハートリエルさんが、少しはにかみながら、そして頬を赤らめながら言った。


 何か……微妙な感じなんですけど。

 二人から大体のことを聞いてイメージはできていると言っていたけど……何か勘違いしてないかなぁ?


 そして、一番最初に会った時のきつい感じを思うと、ギャップがすごい。


「分りました。ぜひお願いします。ただ私の『固有スキル』の特別なメンバーになるということは、家族になるのと同じで強い絆を結ぶということです。いいでしょうか?」


 俺は念押しの確認をしたのだが……なぜかハートリエルさんは、真っ赤になった。


「そ、それは……まぁ、つ、強い殿方なら……、と、とにかく了承しました! 末永くよろしく、お、お願い……します。あ、あなた……」


 なぜがよくわからないが、ハートリエルさんが顔を真っ赤にしたまま、しどろもどろになっている。

 やはり何か……誤解があるような気がするが。

 そして最後の“あなた”って言い方……今まで俺に対して言っていた“あなた”とは違う意味になっているような気がするのは……気のせいだろうか?

 深く考えたら負けだな……スルーしよう。


 それにしても……今のハートリエルさんは、全く以て可愛い感じだ。

 ギャップ萌え100%だ……これがほんとのツンデレなのか?


 それはいいけど……なぜ俺は、今ポカポカされている。

 ニアさんの『頭ポカポカ攻撃』が発動しているのであった……なぜに?


 ということで、俺は『絆』メンバーに解禁している情報をハートリエルさんに伝えて、仲間になってもらった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る