1065.ギルドスタッフの中にも、レジスタンスメンバーが……。

「もう同志みたいなものですから、遠慮しないでください。友人として接してもらえると嬉しいです」


 俺は、俺に対して、ぎこちない話し方になってしまっているハートリエルさんに、改めてそんな声をかけた。


「わ、わかった。いや、わかりました」


 ハートリエルさんは、そう答えた。

 てか、タメ口と丁寧語が入り混じって、より変な感じになってるんですけど。


「かしこまらなくて結構ですよ。タメ口で構いませんから。ところで、一つ尋ねたいことがあるのですが……」


「なんだ、いや、なんですか?」


「国の圧政から保護している人たちの中には、村を失った多くの亜人がいると聞いています。『ウルフリン村』の出身の人はいないでしょうか? クラインさんという三十五歳の女性なんですが……」


 俺は、念のために確認してみた。

 狼亜人のベオさんの奥さんで、エクセちゃんとセレンちゃんの母親のクラインさんがいないかの確認だ。

 レジスタンスで保護している人たちの中にいないか、確認しようと思って事前に奥さんの名前を教えてもらっていたのだ。


「亜人の人たちはかなり多いが……ウルフリン村……いなかったはず……」


「そうですか。私が保護した一家のお母さんだけが、まだ見つかっていないものですから……」


「そうでしたか。あの村も壊滅したんですよね。亜人族の村は、壊滅に追い込まれたところがいくつもあります。狙われているとしか思えません。魔物が襲ってくるといっても、何者かが誘導しているとしか思えない……」


「何者かというのは……?」


「はっきりとはわかりませんが……公国自体が深く関わっているのは間違いないでしょう」


「というと、公王がやらせているということですか?」


「その可能性が高いです。といっても、公王が正気とは思えないから、あなたが考えているように、悪魔の影響を受けているのでしょう」


「やはりそうですか……」


「亜人族の村が危険なのはわかったので、まだ被害を受けてない村は、村ごと避難させたところもあります。魔物に襲われたわけでもないのに、一夜にして村人がいなくなった村がいくつもあるから、国は驚いているでしょう。ただ、それもあって、レジスタンス組織に対する摘発の動きが活発になっているのです」


「そうなんですか。村ごと避難を……。それは大変ですね」


「グリムさんの担当になった受付のリホリンちゃんいるじゃないですか、あの子も亜人の村の出身なんですけど、その村は、村ごと避難したから被害は出てないんです。狐亜人が多い『ルールルル村』というんですけどね。村の人たちが無事だから、リホリンも安心して働けてるんですよ」


 そんな情報をアイスティルさんが付け加えてくれた。


「そうなんですね。それは何よりです。それにしても、なぜ亜人の村ばかり狙われるのでしょうか?」


 俺は疑問を投げかけてみた。

 とても不可解なんだよね。


「それが分からないのです。亜人が人族より基本的な身体能力が高いという特徴はありますが……」


 ハートリエルさんが首をかしげた。


「……亜人族の村は、全て保護できてるんでしょうか?」


「いいえ、まだです。主要な村は魔物の襲撃で壊滅したか、私たちの組織で保護しましたけど。山奥にある小さな村はまだですね」


「保護する必要はないんですか?」


「今のところは大丈夫みたいだし、人族とはあまり交流しない村が多いですから移住には同意しないと思います」


「なるほど。無理に移住を進めるわけにもいかないですからね」


「国中の市町に、国に虐げられた人たちがいますし、あなたが保護したようなみなしごたちもいます。奴隷商人に拐われてしまう子もいるはずですから、そういう人たちの保護を先にしようと思っています」


「そうですね。それがいいでしょうね。みなしごたちを含め希望する人は、随時移住させてあげましょう。受け入れ体制は、整っていますから。密かに行えば国際問題にもならないですし」


「そうですね。レジスタンスのメンバーで、できるだけ多く保護するようにします。今までのように一旦隠れ家に集めて、そこから密かに移住させましょう」


 ハートリエルさんはそう言って、声を弾ませた。


 だいぶ馴染んできた感じだ。

 結局彼女は、タメ口ではなく丁寧語で話すことにしたようだ。


「あの……素朴な疑問なのですが、『冒険者ギルド』の中に、ハートリエルさんがレジスタンスのリーダーだと知っている人はいるんでしょうか? もっと言うとレジスタンスのメンバーがいたりしますか?」


 外部には漏らさない情報だと思うが、俺は思わず訊いてしまった。


 ハートリエルさんが微妙な表情をしている。


 やはり訊かないほうがよかったか……。


「ハートリエルさん、グリムさんなら大丈夫ですよ。むしろ話しておいた方が、何かの時に助けてもらえますよ!」


「ああ、その通りだ。グリムさんなら大丈夫。私が保証する」


 アイスティルさんとブルールさんが、そう言ってくれた。


「そうだな……。あなたのことは……信頼できる。良いでしょう。

 私がレジスタンスリーダーだと知っているのはギルド長と、レジスタンスのメンバーを兼ねているスタッフだけです。

 ギルド長は黙認しているというだけで、レジスタンスのメンバーではありません。巻き込むわけにはいきませんから。

 あなたの担当のリホリンと今日お世話をしたナナヨは、レジスタンスメンバーです。

 それからナナヨと一緒に迷宮調査を行ったりする元冒険者のギルドスタッフ六名も、レジスタンスメンバーです。

 あと、北区にあるギルドの支所であなたの担当になったシーマも、メンバーです。

 支所には、他に三名メンバーがいます。

 ただ、みんなギルド職員としての仕事があるから、情報収集などを中心に陰ながら支援しているという程度です」


「そうなんですか。リホリンちゃんとナナヨさん、シーマさんまでメンバーだったんですね。

 もちろんこの事は、口外しませんのでご安心ください。

 ギルド長が知っていると聞いて、少しホッとしました」


「さすがにギルド長を騙したりはしていません。

 どうしても副ギルド長になってほしいと言われたときに、レジスタンス組織の話もし、その活動のためにギルドの力を利用したいと初めから話しています。

 それでも良いと了承を得たので、副ギルド長を引き受けたのです」


「なるほど。ギルド長に、相当惚れ込まれてますね」


「なぜか私を跡継ぎにしたいようなんですよね。今はそんなことよりも、この国をどうにかしないといけないのに……。国の政治がおかしいので、『冒険者ギルド』にもかなりしわ寄せが来ていますし」


 ハートリエルさんが、苦笑いをしている。


 確かに、ギルドの次期ギルド長云々よりも、悪魔に実質支配されている状態のこの国を、なんとかしなきゃいけないよね。


 ただギルド長が、代々続く『冒険者ギルド』の次期ギルド長を託すという時点で、ハートリエルさんは優秀だし信用のおける人ということだろう。




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