1059.まるで、握手会。

 ギルド酒場に来た俺に、酒場の外で飲んでいた人たちから『キング殺し』コールが巻き起こっている。


 コール自体が微妙だし、リアクションが取りづらい。


 やっぱり来なきゃよかったかなぁ。

 ずっとコールが続いているけど……これどうすればいいのよ?


 盛り上がりの中に、入っていけない感じなんだよね。


 元の世界にいた時に、飲み会に遅れていくと、既に盛り上がってる雰囲気に入っていけず、微妙に居ずらい感情を味わったことがあるが、その時と同じ感じだ。


「おおっ! 『キング殺し』のシンオベロン卿、……いや、グリム! やっと来たか! 遅いじゃないか! チェストォォッ」


 大声を張り上げて、じいさんが駆け寄ってくる……てか、ギルド長じゃないか!

 もうべろんべろんじゃないか!

 最後の“チェストォォッ”って何よ!?

 必殺技で攻撃されんのかと思って、一瞬焦ったわ……まったく!


 そしてなんで、俺に抱きついているわけ?

 これ、どうすればいいのよ?


「ちょっと、ギルド長!」

「ダメですよ。もう飲み過ぎですよ!」


 お、助け舟が現れた。


 俺の担当の綺麗可愛い受付嬢、狐亜人のリホリンちゃんと、今日お世話になった綺麗セクシーな受付嬢ナナヨさんが来てくれた。

 多分、ギルド長と一緒に飲んでいたのだろう。


 俺に抱きついているギルド長を剥がしてくれた。

 だがその後何故か……二人で俺の両腕をがっちりホールドした。

 そのまま酒場の中に運ばれているんですけど……。

 まるで連行されているような感じ。

 そして、連行されながら、ニアさんに『頭ポカポカ攻撃』を連続発動されているのは、なぜ? ……トホホ。


 俺は、ギルド長たちの席に座らされた。


 それはいいのだが、座るや否や冒険者たちが次々に俺のところにやって来て、声をかけてくれる。


 エールが入ったピッチャーのような容器が置いてあり、それで次々にお酌されている状態だ。

 そして、乾杯を求められる。


 まるで……一昔前の大学の新歓コンパみたいな感じだ。

 めっちゃ飲まされてるんですけど。


 みんな名乗ってくれているんだが……一気に来るから、覚えられないんですけど。


 まぁ……『限界突破ステータス』のお陰で、実は覚えている気がしないでもないが。


 元の世界にいたときに、人の顔と名前を覚えるのが、あまり得意でなかったという感覚が残っているだけかもしれない。


 もちろん俺は、笑顔で対応している。

 一言二言ではあるが、言葉も交わしている。

 でも……とにかく飲まされている。


 『限界突破ステータス』のお陰で、悪酔いはしないけどね。


 ちなみに『限界突破ステータス』でも、お酒に酔うことはできる。

 どうも気持ちの問題みたいで、楽しく酔っ払ってるぞーって感じになると、酔っている感じになる。

 でも、“もう酔ってない”“シャキッとするぞ”と気持ちを切り替えると、さっと酔いがなくなるという感覚なのだ。

 ある意味便利でいいけどね。


 俺に話しに来る人は途切れず……行列みたいな感じになっている。

 中には、握手を求めてくる人がいて、まるでアイドルの握手会みたいなノリになってしまっている。


 途中からリホリンちゃんとナナヨさんが、話の長い人を引き剥がすという剥がし役をやっている。


 そして面白いことに、俺の相棒というか……いや相棒は俺の方だった。とにかく妖精女神として有名になっているニアに対しても、挨拶したい冒険者が列をなしている。


 俺に挨拶に来る冒険者とニアに挨拶に来る冒険者で、二レーンできていて、ほんとにアイドルの握手会みたいだ。


 ニアのところに挨拶に来た人で、話の長い人を引き剥がしているのは、ギルドの買取センターの責任者のドンベンさんだ。


 ドンベンさんは、すっかりニアの虜状態になっていたので、率先して剥がし役をやっているのだ。


 それはいいのだが……相変わらずスキンヘッドで上半身裸だ。

 まぁスキンヘッドはしょうがないにしても、仕事が終わっても上半身裸なんだろうか……?

 そして、頭も上半身も仕事の時と同じようにテカっている。

 もしかしてこの人は……常時テカっているのか?

 別にいいんだけどね。


 ドンベンさんには、子分みたいな冒険者が多いらしく、その人たちがまとまって、ニア親衛隊みたいな感じになっている。

 ……猿軍団の二の舞にならなきゃいいんだけど。

 まぁ猿軍団と違って、好きでやっているからいいんだけどさ。


 でも……ニアの『人軍団』とか絶対やだなぁ……。

 『おっさん軍団」とかも絶対やだし!

 親衛隊ならまだ響きに救われるから……やはり親衛隊と呼ぶことにしよう。

 ……トホホ。



 少しして、やっと俺とニアに対する挨拶の列が終わった。

 だが、ギルド酒場は盛り上がり続け……混沌とした様相になっている。


 俺は、適当なタイミングで切り上げて帰りたいんだけど……。


 ニアさんは、冒険者たちの挨拶を受けている時も、お酒は飲んでいない。

 ニアの場合、飲むとすぐ寝ちゃうから、自重しているようだ。


 ギルド長は、深酒しすぎて既に眠っている。


 リホリンちゃんとナナヨさんが、両脇に座って、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれている。

 なんか夜のお店に来ているみたいで……ちょっと幸せな気分だ。


 だが……そんな俺のささやかな幸せは……当然長くは続かない。

 ニアが飛んできて、『頭ポカポカ』攻撃を発動した。

 しかも今回も長い!

 というか……俺の頭に止まって、まるで太鼓を叩くかのように連続で叩いていますけど。

 夏祭りか!


 しみじみ思うのは……俺に対する制裁要員がニアしかいないことが、不幸中の幸いだ。

 これに、『お尻ツネツネ攻撃』とか『頭突きアッパー』まで毎回炸裂していたら、ほんとに切ないからね。




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