1056.魔法薬をかける、竹筒水鉄砲。

 『ツリーハウスクラン』の育成冒険者第一号の『希望の枝ブランチオブホープ』の、ポジションの発表の続きだ。


 俺の思考と話が脱線しすぎて、まだ呼ばれていない子が不安げな顔をしているのだ。

 といっても……残っているのはツリッシュちゃんと一緒に、みなしごたちをまとめていたハウジーちゃんだけだけどね。


 彼女には、『ヒーラー』のポジションを担当してもらう。


 『ヒーラー』というポジションは、理想的なパーティー編成の中に組み込まれているが、回復の魔法を使える冒険者が非常に少なく、いないことが多いポジションらしい。

 バランスの取れた実力のあるパーティーでも、いないことの方が普通のようだ。


 実際、Bランク『極上級プライム』の冒険者パーティーだった『炎武えんぶ』にも、『ヒーラー』ポジションの人はいなかったようだしね。


 『炎武えんぶ』は、現役当時三組しかいなかったBランクパーティーの一つで、トップランカーだった。

 そんなパーティーの中にも、確保できなかったポジションなのである。

 まぁ『炎武えんぶ』の皆さんの場合は、他の手段で対応できたから、無理に人を補充する必要はなかったんだろうけどね。


 この迷宮都市に来て改めて思ったのは、ローレルさんをはじとした『炎武えんぶ』の皆さんは、いまだに尊敬を集めているということだ。

 憧れていた冒険者も多いようだし、教えを受けた冒険者も多いようだ。


 そんな多くの冒険者から尊敬を集めるトップランカーだったローレルさん達は、リリイのためにあっさりと冒険者を引退し、『コウリュウド王国』にやって来たんだよね。


 ローレルさんは、リリイの母方の大伯母であり、不可侵領域の家からいなくなったリリイが『コウリュウド王国』にいることを知って、密かに見守るためにやって来たのだった。

 仲間の皆さんも、それに合わせて一緒に来たという固い絆のパーティーでもある。


 今ふと思ったが……現在この迷宮都市のトップランカーであるBランクパーティー二組に、一度会ってみたいなぁ。


 ……いかんいかん、また思考がずれてしまった。



 回復の魔法の使い手が少なくて、ポジションとして設定しづらい『ヒーラー』をあえて設定したのだ。

 もちろんハウジーちゃんは、回復系のスキルを持っていない。


 だが、パーティーの生存率を考えた場合、戦闘しながら、負傷したメンバーを回復するのは、非常に重要なことだ。

 そのためには、治療を専門に行うポジションは絶対にあったほうがいい。


 回復系のスキルがなかったとしても、魔法薬を使って回復することはできる。


 これはもちろん、どこの冒険者パーティーでも行っていることだが、難しいのは戦闘しながら回復することだ。

 戦闘が終わった後に、傷ついたメンバーに回復薬を飲ませるとか、かけてあげることはできるわけだが、戦闘中に飲ませることは難しいし、かけてあげるのもかなり大変である。

 戦闘してる最中に、前衛に近づいて怪我してるところに回復薬をかけるのは、普通は難しいと思う。


 もっとも、俺が作ろうとしている守り主体のパーティーの場合は、壁役が四人もいるから、負傷者を一旦下がらせる運用もできるかもしれない。


 普通のパーティーよりは、回復薬を飲ませたり、かけたりすることが、容易になるはずなのだ。


 ただ……一番いいのは、魔法の杖の回復バージョンあることだけどね。

 もしくは、魔法の巻物で、回復ができる巻物があればいいんだけど。


 俺が手に入れた魔法の巻物の作り方の本には、回復ができる巻物の作り方は載っていなかったのだ。


 そもそも……回復ができる魔法の杖や、魔法の巻物の話は聞いたことがない気がする。


 魔法道具店などで、普通に流通している中には、ないのだろうか?


 ふとそう思い、ニャンムスンさんに尋ねてみた。


 回復ができる魔法道具を持っている冒険者も、数は少ないがいるとの事だった。


 迷宮の宝箱から出たとされるものや、魔法道具店で高額で購入したものなどの話を聞いたことがあるそうだ。


 迷宮都市にある魔法道具店や、武具販売店で売っている可能性もあるから、行ってみたらどうかとアドバイスしてくれた。


 そういえば、せっかく迷宮都市に来たのに、魔法道具屋とか武具屋に行っていなかった。

 一度行ってみたいと思っていたんだよね。


 俺は、早速明日出かけることにした。

 今からめっちゃワクワクする!


 回復に使える魔法道具があることを祈るのみだが、もしも無い場合は何か工夫をしなければいけない。

 というか……よく考えたら、仮にあったとしても、高価なものだろうから、それを無尽蔵に新人冒険者に買い与えるというわけにはいかない。


 やはり新人冒険者が使える何かを考えた方がいい。


 回復の素材自体は魔法薬で充分なわけだから、それを戦闘中に、負傷した仲間にピンポイントでかけれるような道具を作ればいいんだよね。


 ……うーん……魔法薬を発射する水鉄砲みたいな道具ができればいいんだけどなぁ。


『ドワーフ』のミネちゃんに、相談してみようかな。


 水を発射するだけなら、複雑な魔法道具にはならないだろう。

 それなら、多くの新人に配ってもいいかもしれない。


 待てよ……魔法的な回路を使わないで、普通の水鉄砲の強化版が作れないだろうか?


 あ! そうだ!


 『魔竹』を使った竹筒の水鉄砲を作ればいいんじゃないだろうか!


『魔竹』で作れば、魔力を流せるから丈夫になるし、放水距離も伸びるかもしれない。


 回復薬を補充するのが大変な場合は、小型の竹筒水鉄砲を五本セットとかにして、専用のケースに入れて装備しておけばいい。


 これなら戦闘中に、離れた味方に回復薬をかけることができる。

 そして安価にできる。


 将来的には商品として、一般の冒険者に向けて販売してもいいかもしれない。


 ただこのポジションの人は、普段の練習で、水鉄砲の練習をめちゃくちゃしないといけないから……なんとなく微妙な気がするが。

 まぁそれはそれで面白いけどね。

 竹筒水鉄砲の達人とかが、何人も現れるかもしれない。


 うん、面白い。

 この方向で行こう!


 これで、簡易型ヒーラー誕生だ!




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