1054.魔法の巻物を、活かそう!

 『魔法使い』ポジションは、狸亜人のポルセちゃんだ。


 魔法スキルはまだ覚えていないが、『魔法使い』ポジションを担当してもらう。


 俺が持っている魔法の杖を、当面貸し出そうと思っている。

 いつも『エンペラースライム』のリンちゃんと『ミミックデラックス』のシチミが使っているやつだ。


 ただあの杖は特別な杖なので、今後クランに入ってくる冒険者に、無尽蔵に貸すというわけにもいかない。

 普通には売っていないと思うんだよね。

 俺が、最初にダンジョンマスターになった大森林の『テスター迷宮』の宝物庫で、手に入れたものだからね。

 まぁ似たような杖は売っているかもしれないけど。


 冒険者の『魔法使い』ポジションの人が使っている杖は、普通は魔力の効率を高めたり、魔法の威力を高めるという全般的な機能の杖なのだ。

 特定の攻撃魔法を発射する杖は、少ないと思う。

 ただ、もし売っているなら、買ってあげるという手はある。


 でもやっぱり……それもいい手ではないなぁ。

 いずれにしろ高価な物のはずだから、それを無尽蔵に与えるのは微妙だ。


 俺が作り出せるものなら、結果として多少高価な物になったとしても、あげてもいいかもしれないけどね。

 剣などの武器や防具については、そんな感じになるだろうから。


 そう考えると……攻撃魔法が出せるもので俺が作れるものといえば、魔法の巻物だけなんだよね。


 俺が作れるのは、『秘伝! 魔法の巻物の作り方 初級編』に書いてあった基本的なものだけだが、それなりの威力はある。

 訓練すれば、使えるかもしれない。


 ちなみにこの本は、ピグシード辺境伯領の『マグネの街』で、本屋のブリーさんに、特別に販売してもらったものだ。

 基本的な魔法の巻物の作り方がいくつか書いてあったので、その通りに、前に四種類作ってみたんだよね。


火球ファイヤーボール』『水球ウオーターボール』『氷球アイスボール』『光の灯籠』の四つだ。


 最初の三つは、それぞれの属性の玉を射出し攻撃できる巻物で、『光の灯籠』は、周囲を照らす光を作り出すものだ。


 ちなみに、これらの魔法は、魔法スキルとして発現した場合は、中級魔法になるはずだが、なぜかこの本には巻物として作る場合には、巻物の『階級』が『下級イージー』になると書いてあった。

 この点については、明確に説明されていなかったので不可解なままなのだが……巻物に落とし込んだ場合、威力が落ちて『下級イージー』相当になるとか……そういうことなのかもしれない。


 そんなふうに無理矢理理解したのだが、実際作ってみたら、なぜか『上級ハイ』になっていたんだよね。

 おまけに、品質も『高品質』になっていた。


 まぁそれは、『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが、考えられる理由を説明してくれたんだけどね。

 俺が、魔法陣を書き写したのではなく『波動複写』でコピーして貼り付けたので、綺麗に再現されたことによって『高品質』になり、その際に俺の魔力が注ぎ込まれたので『上級ハイ』になったのではないかとの予想だった。

 実際のところはわからないわけだが、そのお陰で俺の作った魔法の巻物は、それなりの威力がある巻物になっているのだ。


 まだ作っていないが、本には、『風球ウィンドボール』『土球ソイルボール』『岩球ロックボール』なども載っていた。

 これもすぐに作ることができる。


 魔法の巻物は、魔法の巻物と言いつつ本当は、魔術の巻物なのである。


 本にも書いてあったが、この世界には元々魔法があるわけだが、大昔に大賢者と言われる人が、その魔法を解析し体系化して、再構築したものが魔術なのだそうだ。

 魔法を再現するための魔術式や魔法陣を完成させたのである。


 これによって、魔法がスキルとして発現しない者でも、訓練をすれば誰でも魔術としての魔法を使うことができる。

 いわば画期的な発明だったわけだ。


 この技術によって、魔法の巻物を始めとした『魔法道具マジックアイテム』や『魔法の武器マジックウェポン』が作られ、発展していったようだ。


 そして、その到達点と言えるのが、古の魔法機械文明……『マシマグナ帝国』というわけである。

 この文明は栄華を極め、一万年近く続いたと言われているようだが、突然として滅んだとされている。

 詳しい記録が残っていないため、実際のところはわからないようだが。


 その後、魔術は廃れ始めたようだ。


『マシマグナ帝国』が滅んだ後……約三千年後、その後継を名乗る模造品のような魔法機械文明が登場するが、約千年で滅びている。

 その後さらに三千年後に後継を名乗る魔法機械文明が現れては、千年で滅びるというのを繰り返しているわけである。

 それが魔法機械文明『マシマグナ第二帝国』『マシマグナ第三帝国』『マシマグナ第四帝国』なのである。


 ちなみに『マシマグナ第四帝国』滅亡から約三千年経っている現在、歴史の周期からすると新たな魔法機械文明『マシマグナ第五帝国』が登場してもおかしくはない。


 実際、犯罪組織『正義の爪痕』は、魔法機械神を復活させて『マシマグナ第五帝国』を作ることも標榜していた。


 ただこれは、構成員を集めるための方便であって、首領の本当の狙いは人族への復讐、抹殺だった。

 それも影で悪魔が糸を引いていた状態だったわけだが。


 魔法機械文明の歴史から考えると……魔術は、定期的に再興するが、千年で廃れているということもできそうだ。


 今までの魔法機械文明の興亡が、魔術が廃れたことに影響しているのは間違いないだろうが……魔術が内包している問題も大きいだろう。


 魔術は、理論上は誰にでもできるのだが、実際にはかなり難しく、相当な訓練を要するようだ。


 魔法道具等に落とし込んで使う場合はいいのだが、それは非常に高価なものになる。


 魔法スキルのように使う場合には、基本的に詠唱が必要で、この詠唱を覚えるのも大変だし、実際の戦闘では詠唱している暇がないわけである。

 まぁやってやれない事は、ないんだろうが。


 魔法道具などを発動させる際に必要な発動真言コマンドワードだけでも、面倒くさく感じるわけだが……実際の詠唱はもっと長いわけなのだ。

 詠唱短縮や詠唱破棄、無詠唱という技術もあるようだが、その域に達するには、すごい訓練が必要とされ、普通の人にはできなかったようだ。

 こういう習得の難しさや使い勝手の悪さも、廃れる原因になったのは間違いないだろう。


 ただもう一つ考えられるのは…… 現時点ではどうかわからないが、魔術が廃れた最初の頃などには、おそらく……既得権層による意図的なものもあったのかもしれない。


 魔法スキルは貴重で、発現したというだけで、普通の人よりも人生が好転する。

 ところが、魔術で誰でも魔法が使えれば、その魔法スキルの存在価値が薄れる。

 そんな場合……既得権層が画期的な技術を否定したり、抹殺するというのはよくあることだからね。




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