1050.涙の、再会。

「エクセッ!」

「お姉ちゃぁぁぁん」


「お父さん! セレン!」


 扉を開けるなり、待ち焦がれていた父親のベオさんと妹のセレンちゃんが、エクセちゃんに飛びついた。

 ……抱きしめ合っている。


 涙のご対面だ。

 本当によかった。


 三人は……お互いに強く抱きしめ合い、ただただ泣いている。

 言葉はいらないよね。


 『闇オークション』でベオさんとセレンちゃんを保護した時に聞いた話では、村が壊滅したので、生き別れた奥さんと上の娘さんは生きていないだろうと悲観していた。

 でも諦めきれずに、『アルテミナ公国』に探しに行きたいとも言っていた。

 そのために強くなりたいと、今まで訓練していたのだ。


 まだ奥さんは見つかっていないが、エクセちゃんだけでも見つかって本当によかった。



 涙の再会を見ていた俺は……当然のごとく、涙と鼻水が洪水状態だ。

 おじさんは、こういうのに弱いのです。

 特に親子の再会だからねぇ……もう本当におじさんは号泣しています。


 ニア、リリイ、チャッピー、サーヤも泣いているけど、しゃくりあげるように泣いているのは、おじさんの心を持った俺だけのようだ。

 だって止められないんだもん……しょうがないよね。


 今思い出したけど、元いた世界でも、ドラマとかでこういうシーンがあると100%号泣していたんだよね。

 テーブルに積まれたティッシュの山が、リアルに思い出された。

 今は、タオルを何枚もびちゃびちゃにしているけどね。



 俺たちは、しばらく親子水入らずにしてあげるため、部屋を出た。



 ◇



 隣の部屋に移って、一緒に来ている熊亜人のプップさんと狸亜人のポルセちゃんに、お茶を出してあげた。


「二人は今後どうしたいですか? ご希望はありますか?」


 俺は、今後のことを決めるために二人に尋ねた。

 奴隷契約も解消されて自由だから、やりたいことがあるなら応援してあげようと思っている。


「私はもともと行商人ですが……、あ、あの……できればグリムさんのもとで、何か私にできる仕事はありませんか? 給金は要りません。命を救っていただいた恩返しがしたいのです」


 プップさんは、少し思案顔になった後に、俺に向けて頭を下げた。


「そうですね……もしお願いできるのであれば、私が作ったクランで子供たちの面倒を見たり、畑仕事をしたりする仕事があります。人手が足りないので、お願いできれば助かります。もちろん給金はしっかり払います」


「ほ、ほんとですか!? ぜひお願いします! 私、子供が大好きなので、子供の面倒を見るのは全く苦になりません。戦闘は強くありませんが、力仕事はできますから、畑仕事も大丈夫です。それに給金は本当に結構です」


「お願いできるなら助かります。ただし一つだけ条件があるんです。それは……ちゃんと仕事に見合った分の給金をもらっていただくことです。いいですね?」


 俺は、微笑みながらそう言った。


 プップさんは、俺の意図を察してくれたようで、「はい」と言って大きく頷いた。


 俺は、プップさんと固い握手を交わした。


「あの……私も一緒に働かせてください」


 今度は、狸亜人のポルセちゃんが少し言いづらそうに申し出た。


「君もいいの? ここで働くってことで?」


「はい。村はもうありませんし……」


 そうだった。

 この子の村も、魔物の襲撃で壊滅したのだった。


 おそらく、もう家族もいないのだろう。

 そこについては、敢えて訊かなかった。

 悲しい思い出を、甦らせたくなかったのだ。


「わかった。じゃぁお願いするよ。何かやりたい仕事とかある?」


「何でもやります。ただ……私、強くなりたいです。悪い大人とも戦えるようになりたいです! 魔物も倒したいです!」


 ポルセちゃんは、おとなしい感じの子だが、思うところがあるようで、だんだんと語気が強くなった。


「そうなんだ。俺のクランに入れば大丈夫! 強くなれると思うよ。子供たちにも自分の身を守れるように、護身術とかを習わせてあげるつもりだし、希望する子には冒険者になる応援もしているんだ」


 俺の言葉に、ポルセちゃんは、目を輝かせ立ち上がった。


「冒険者!? 私、冒険者になりたいです!」


 ……強い決意がにじみ出ている。


「迷宮で荷運び人をさせられて、怖い思いをしただろうに、ほんとに冒険者になりたいの?」


「はい! 強くなりたいんです! グリムさん達みたいに! お願いします! 私の大切な人たちが魔物に襲われても、私が守れるようになりたいんです!」


 やはりすごい決意だ。

 その気持ちは本物だろう。

 おそらく……魔物に村を壊滅させられたことも影響しているのだろう。

 もちろん、その後に受けた酷い扱いもだろうが。


「わかった。じゃぁ冒険者になることについても、応援するよ」


「ありがとうございます!」


 ポルセちゃんは、破顔した。


 俺は、ポルセちゃんとも握手を交わした。



 ——コン、コン


 ドアをノックする音だ。

 ベオさん達かな?


「どうぞ」


 やはり入ってきたのは、やはりベオさん親子だった。


「グリムさん、本当に、本当にありがとうございます。私たちのみならずエクセまで助けていただいて。このご恩は、一生かけて必ずお返しいたします!」


 ベオさんが、そう言って深く頭を下げてくれた。

 一緒にいるエクセちゃんとセレンちゃんも、一緒に頭を下げてくれている。


「いやいや、いいんですよ。偶然助けた人たちの一人が、ベオさんの娘さんだと知ったときには、本当に驚きましたけどね。リリイとチャッピーが、セレンちゃんに似てるって気づいてくれたんですよ」


 俺がそう言うと、ベオさん一家がリリイとチャッピーにお礼を言ったり、抱きしめたりしていた。


 リリイとチャッピーは、照れ臭そうに体をクネクネさせていた。


 めっちゃ可愛いんですけど!


「プップさん、ポルセちゃん、エクセから聞きました。二人がいつも助けてくれたと。本当にありがとうございます」


 ベオさんは、エクセちゃんと今まで一緒にいた二人にも、感謝し頭を下げた。


 確かに奴隷として引き取られた先に、この二人がいたことは、エクセちゃんにとっては幸運だっただろう。

 いろいろと助けてくれていたようだ。


 今回の『連鎖暴走スタンピード』の時だって、最初にプップさんがエクセちゃんとポルセちゃんを抱えて走ってくれたのだ。

 もしそうしていなければ、エクセちゃんたちが大怪我していたかもしれないんだよね。

 最悪の場合、命を落としていたかもしれない。


 プップさんとポルセちゃんは、改めてベオさん親子と挨拶をし、お互いに握手を交わしていた。




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