1051.人材が増えたら、朝令暮改もあり!
「グリムさん、お待ちしている間に、サーヤさんからクランを作ってみなしごたちを引き取っていると聞きました。私たち親子も、ここに置いていただけないでしょうか? やはり妻の情報も集めたいですし……」
狼亜人の父親ベオさんが、真剣な表情でお願いしてきた。
「そうですね……もともとベオさん達には、この『アルテミナ公国』で生き別れたご家族を探してもらうつもりでいました。ただ状況が分からないと危険なので、我慢してもらっていたわけですが、とりあえず迷宮都市にいる分には大丈夫そうなので、いいでしょう。ここを拠点にして、何とか情報を集める手段を考えましょう」
俺は、快く了承した。
元々、ある程度落ち着いて安全性が確認できたら、呼び寄せてあげようと思っていたからね。
「本当ですか!? ありがとうございます。よろしくお願いします。何でもやりますので言ってください」
ベオさんは声を弾ませ、エクセちゃんとセレンちゃんも花のような笑顔を作った。
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
「グリムさん、私も何でもお手伝いします! 訓練も続けます! リリイちゃんやチャッピーちゃんみたいに強くなります!」
すごくいい笑顔で言ってくれたセレンちゃんの瞳には、決意の輝きがあった。
「私も、がんばります! 強くなりたいです!」
姉のエクセちゃんは、笑顔から一転、真剣な眼差しで宣言する。
セレンちゃんはおとなしい感じの子だし、姉のエクセちゃんもおとなしい雰囲気の子に見える。
でも二人とも、芯は強くしっかりしているようだ。
こういうひたむきな子たちって、応援したくなるよね。
「わかった。いいよ。せっかく迷宮都市にいるんだから、二人とも冒険者を目指したらどうだい?」
そんな言葉をかけてみたら……二人は、お互いの顔を見合わせて、頷いた。
「はい!」
「お願いします!」
二人から元気な大きな声が出た。
大喜びといった感じだ。
そしてやる気に満ちている。
ただ……お父さんのベオさんがいるのに、俺が勝手に冒険者になることを勧めてしまった。
……まずかったかもしれない。
普通の親心としては、危険な冒険者になんか、なってほしくないはずだからね。
「ベオさんすみません。勝手に冒険者になることを勧めてしまって……」
今更ながら俺は、ベオさんに謝った。
「いえいえ、いいんです。普通の状況だったら、いつ命を落とすかわからない冒険者になることを反対したかもしれません。
でも、グリムさんに助けていただいてから、皆さんの強さを目の当たりにしてきました。
グリムさんに面倒みていただけるなら、この子たちが危険な目に会うことも少ないとわかっています。
それに、何よりもこの子たちのことを思えば、強くしてあげることが大切だと思っています。
ですから、逆にありがたい話です。私のように、悔しい思いをさせたくないですし……」
ベオさんがそう言って、賛成してくれた。
魔物の襲撃で村が壊滅し、家族を守ることができなかったという
そんなことを経験すれば、自分も強くなりたいだろうし、子供たちにも、踏みにじられることがないよう強くなってほしいと思うのが、親心というものだ。
「「お父さんありがとう」」
二人は、嬉しそうに声をそろえた。
「二人ともがんばるんだよ。お父さんは、冒険者にはならないけど、それでも強くなるように訓練は続けるつもりだ。二人に負けないように、頑張るよ!」
ベオさんはそう言って、愉快そうに笑った。
エクセちゃんもセレンちゃんも、釣られるように一緒に笑う。
家族っていいね。
あれ……おじさんの目から……冷たいものが……。
やばい、またスイッチが入ってしまったようだ。
ちょっと感動すると、すぐに涙が出てきちゃうんだよね。
俺の“号泣スイッチ”ゆるすぎだわ!
ダメだ……このまま一人で泣き続けると、みんなにドン引きされるから、思考を変えよう。
……ふう……。
それにしても、冒険者になりたいという子が多い。
ここに保護した子供たちも、ほとんどみんなそうだった。
そんなに冒険者って、なりたい職業なんだろうか?
まぁ考えてみれば、この世界では、夢の職業なのかもしれない。
自分の身を守れるくらい強くなれる可能性があるし、お金もしっかり稼げるわけだからね。
大事な人を守る力も身に付くわけだし。
虐げられたり、辛い境遇にいる人は、憧れを抱くのかもしれない。
◇
俺は、バーバラさんやニャンムスンさんなどクランの主要メンバーを呼んで、迷宮で保護して三人と、狼亜人の親子ベオさんとセレンちゃんを紹介した。
もちろん、それに伴う今までの経緯も簡単に説明した。
そして、クランのメンバーになることを告げて、お互いに挨拶してもらった。
二人ではあるが、大人のメンバーが増えてくれたので、クランの役割分担というか体制を少し変更した。
各部門の責任者を少し変えたのだ。
○『ツリーハウスクラン』のギルドマスターというかクランマスターは、変更なく俺である。
○クラン全体の管理をする管理長も、引き続きバーバラさんにお願いする。
副管理長として、クラン全体の総務的な仕事をしてもらうのも、ショムニーさんで変更は無い。
彼は、俺が奴隷商館から保護した初老の男性である。
○子供たちの面倒を見る『養育部門』の長である養育長は、バーバラさんに兼務をお願いしていたが、今回メンバー入りした熊亜人のプップさんにお願いすることにした。
本人は固辞していたが、堅苦しく考えないで、子供と楽しく遊んでもらえばいいと説得して、了承してもらった。
本当に子供が好きみたいだし、子供たちの人気者になるに違いない。
大きな体から、優しさが溢れ出ているのだ。
“気は優しくて力持ち”を地でいっているような人である。
俺の直感が……この人には、養育長がぴったりだと言っているのだ。
○養鶏や野菜の栽培などの農業活動と、直売所の運営や屋台の運営などの商業活動を行う『事業部門』の長である事業長は、人材がいなくて俺が担当することになっていた。
この事業長を、狼亜人のベオさんに任せることにした。
ベオさんは、もともと行商人をしていた人だし、『フェアリー商会』の幹部候補として、短い期間ではあるがサーヤが英才教育をしている。
おまけに歌劇団の団員候補でもあった優秀な人材である。
そんな彼にぴったりの仕事だと判断したのだ。
ベオさんは、快く了承してくれた。
そして、張り切っていた。
この部門の内容は、これから本格的に始まるので、良い人材を配置できて本当に良かった。
○冒険者稼業をする『冒険者部門』の長である冒険長は、引き続き『
朝令暮改的な人事変更になったが、頼れる人材が増えて、兼務が解消されたので、すごく良かったと思う。
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