1048.我ながら、太っ腹。
俺が助けた亜人の三人を、自分たちのパーティーの奴隷だと言って取り戻しに来た四人組は、副ギルド長のハートリエルさんのおかげで撃退された。
その酷い行いについて尋問するために、拘束されたのだ。
そして亜人の三人は、俺に任せてもらえることになった。
それからハートリエルさんが教えてくれたのだが、奴隷は財産と考えられているので、主人が死んだとしてもその相続人がいれば、奴隷は相続財産として引き継がれるらしい。
ただ冒険者パーティーのリーダーだった男に、相続人がいるとは思えないとのことだ。
厳密に探せば出身地などにいるかもしれないが、今回のような場合は相続人なしとみなされるのが一般的らしい。
仮に、さっきのようにパーティーメンバーが相続を主張してきたとしても、放置して逃げ出した時点で、その権利は失われていると解釈できるとのことだ。
仮に正当な理屈で相続を主張する者が現れたとしても、迷宮内で命を落とすところを俺が助けているので、俺の持ち物とみなされると主張できるそうだ。
言い方は悪いが、例えて言うなら、迷宮で落ちていた剣を拾った場合、それは拾った人のものとみなされる。
それと同じ考え方だと言うことだった。
ハートリエルさんなりに、この三人が今後困ったことにならないように、気を回してアドバイスしてくれたようだ。
ありがたいことである。
「ここの調査は我々でやるから、もう帰っていい。改めて事情聴取をする場合はあるが」
ハートリエルさんがそう言ってくれたので、引き上げることにした。
「ありがとうございます。ここの魔物の死骸は、このままで大丈夫でしょうか? もし回収が大変なようでしたら、私の特別な魔法カバンで回収しますが」
一応これは確認しておかないとね。
普通に回収したんじゃ大変そうだからね。
「うーん……回収してください。もちろんあなたの戦利品として、ギルドで買い取りますが、ギルド長が、またちょっと待って欲しいというかもしれない……」
「それはわかってますから、大丈夫です。とりあえずここにある死骸の数の報告と、『魔芯核』を早めに取り出す段取りをしておきますと伝えてください」
「分りました。助かりまます」
ハートリエルさんは、そう言って俺に頭を下げてくれた。
最初に会った時よりは、だいぶ対応が良くなった。
まぁ副ギルド長として、当然の対応かもしれないけど。
少しホッとしている。
早くゆっくり腹を割って話して、ハートリエルさんとも仲良くなりたいんだけどなぁ。
なんとなく……早くそうしないと、ハートリエルさんが、『アルテミナ公国』でのユーフェミア公爵ポジションというか……俺に“ダメな子供を見るような目で向ける人”ポジションになりそうで怖いんだよね。
俺は、倒した魔物の死骸を、一体づつ魔法カバンにしまう体で『波動収納』に回収した。
ここに集まっている冒険者たちがみんな見ているから、普通の人と同じように地道な作業をするしかないのだ。
数が多いから……結構大変である。
もっとも、こんな数の魔物を回収できる魔法カバンなんて、ほとんどないだろうから、見ている冒険者たちは驚いて口をあんぐりさせている。
俺にとっては地道な作業だが……普通の冒険者から見たら、すごい高性能な魔法カバンを持って、サクサク回収していくという感じに映っているのだろう。
巨大なカエル魔物のキングを回収した時なんか、「おおっ」という歓声があがっていた。
またもや悪目立ち感が半端ないんですけど……トホホ。
「グリムさん、ギルドの調査部門の他の職員が来たので、私はグリムさんと同行します。ギルド長にも報告を上げないといけませんので」
魔物の死骸を回収し終えた俺に、ナナヨさんがそんな声をかけてきた。
そして最後に、ハートリエルに同意を促すように視線を向けた。
ハートリエルさんは、無言で頷いた。
ということで、ナナヨさんと一緒に戻ることになった。
迷宮から戻ったときの受付での手続きもあるから、俺としては助かるけどね。
それを見越して、ナナヨさんは申し出てくれたのかもしれない。
ここに集まっている冒険者の皆さんも戻るようで、なぜか俺たちが行く露払いのような感じで、前を先導してくれている。
俺たちがいたのは、『南エリア』の最初の分岐の真ん中ルートを進んだ四つめのフロアだったが、『スターティングサークル』に戻るため、三つ目二つ目一つ目と、フロアを遡った。
この帰り道の三つのフロアは、魔物が全滅しているわけではないので、歩いていればある程度の頻度で魔物が襲ってくる。
だが、その魔物たちは先導してくれている冒険者の皆さんが、全て倒してくれた。
本当に露払い的な感じになっている。
三つのフロアは、四つ目のフロアと同じように、陸地の部分が広く、かつ草原になっていた。
比較的戦いやすいフロアだった。
当然三つとも水辺はあったが、それほど大きくはなかった。
出てくる魔物も鶏魔物、蛙魔物、イモリ魔物がほとんどだった。
クセのある『南エリア』のフロアの中でも、この序盤の真ん中ルートの四つ目のフロアまでは、戦いやすいと言える。
駆け出し冒険者で、『南エリア』に挑むならこの四フロアがいいだろう。
『スターティングサークル』まで戻って来た。
もう日暮れ時になっているので、ほとんどの冒険者は俺たち同様、このまま迷宮を出るので、同じ方向なのだが、一応、ここで一区切りつけることにした。
俺は、救援に来てくれた冒険者の皆さんに改めてお礼をすることにしたのだ。
「皆さん、救援に来ていただき、本当にありがとうございました。
たまたま我々だけで倒せましたが、運が良かっただけです。
ですので、今後また迷宮でこんな事態が発生したら、今日のように勇気あるご助力をお願いします!
私からのせめてものお礼として、ギルド酒場で今晩おごらせてください!
私は遅くなると思いますので、ご自由に飲んでいて下さい。
会計は全て負担しますので、ここにいる皆さんは、遠慮なく飲食してください!」
俺は、そんな挨拶をした。
彼らの行動へのお礼の気持ちを、形として表したかったのだ。
ギルド酒場には、他のお客さんもくるし、ここにいる人たちだけに奢るのは無理があるだろう。
便乗する人もいるだろうしね。
気持ち的には、ギルド酒場に訪れる全てのお客さんの代金を払う覚悟でいるから、別にいいのだ。
俺の……我ながら太っ腹な挨拶に、飲食大好きな冒険者の皆さんは、当然喜んでくれて、大歓声が上がった!
『スターティングサークル』にいる状況が分かっていない他の冒険者や物売りの人たちは、何が起きたのかという表情で驚いていた。
なんとなく話が広がって……ここにいる関係ない人たちも、飲みに行っちゃうような気がしないでもないが。
冒険者たちは、大酒飲みで大食らいの人が多いから、一体いくらの会計になるのか想像すると怖いものがあるが、今晩ぐらいいいだろう。
『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます