1047.非道な冒険者には、罰を。

 ナナヨさんを追うようにして駆けつけてくれた多くの冒険者たちも、魔物の死骸の数と、キングの大きさに驚いている。


 そして……必死で戦うつもりで来たのに、全ての魔物が倒されているから、拍子抜けしたような感じで呆然としている人も多い。


 多分『スターティングサークル』のところにいた冒険者たちが来てくれたんだと思う。

 『連鎖暴走スタンピード』に立ち向かうなんて危険なことなのに、心意気で来てくれた勇気ある人たちだ。


 若干申し訳ない気持ちだ。

 見せ場ゼロって感じになってしまったからね。


 そして……冒険者の人たちが、呆然とした状態から我に帰った後は、俺たちのことをめっちゃジロジロ見ている。


 カエル魔物のキング以外は、みんな弱い魔物なのだが、いかんせん数が多いから、めっちゃ無双した感が出ちゃってるんだよね。

 変な視覚効果が出てしまっているのだ。


「こんな数……この人数でどうやって倒したんだ?」

「いくら弱い魔物でも、一体も逃さず全滅させたなんて……」

「あのどデカいカエルが、キングらしいぞ」

「さすが“キング殺し”だなぁ」

「まったくだ。でも助かったぜ。あんなのが相手だったら、下手したら全滅だったな」

「そうだな。ありがたいこった」

「この魔物たちが、まともに『スターティングサークル』まで来てたら、大惨事だったぜ」

「おうよ。……考えただけで、ちびりそうだぜ」


 あちこちから、冒険者たちの会話が聞こえてきた。


 不本意ながら……また悪目立ちしてしまったみたいだ。

 まぁしょうがないよね。

 ほっとけないからね。

 それにしても……“キング殺し”という二つ名に拍車がかかってしまった……トホホ。

 なんかこの二つ名が定着してしまいそうで……辛い。


 そんな俺のやるせない気持ちにはお構いなく、冒険者はあちこちで盛り上がって話しだしている。


 そして、そんなところに……猛烈なスピードで駆けてくる人が。


 あれは、副ギルド長のハートリエルさんだ。


 そういえば、まだハートリエルさんとしっかり話ができていないんだよね。

 と思いつつ軽く会釈をすると……彼女は俺を見るなり、ため息を吐いて呆れ顔をした。


 なんとなく……ユーフェミア公爵とマリナ騎士団長が、俺に向ける“ダメな子供を見るような目”に似た感じがあるんだけど。


「まったく……またあなたなのね。自重無しなわけね。あの後、ブルールとアイスティルから散々あなたの話を聞かされたけどさぁ。またキングを倒しちゃったわけね。もう言葉がないわ……」


 ハートリエルさんが、腕組みしながら言った。

 俺は、呆れられているらしい。


「たまたま居合わせまして……」


 そう言って、苦笑いするしかないよね。


「とりあえず副ギルド長として礼を言うわ。あなたが止めてくれなかったら、大惨事になっていたものね」


「いえいえ、何とか倒せて良かったです。ところで、迷宮でも『連鎖暴走スタンピード』が起きる事はあるんですか?」


 俺は、いたたまれない空気を変えるためにも、質問をしてみた。


「多くは無いけど、迷宮ではたまにあるわ。ただこんな上層の序盤で起きるっていうのは、極稀ね。『スターティングサークル』はおろか、迷宮外に魔物が溢れ出す危険がある状態だったわ」


「そうなんですね」


「それよりも異常なのはキングよ! いかに迷宮と言えど、キングと名のつく上位クラスの魔物が出ることは多くないの。『エリアマスター』や『サブマスター』クラスの強さだからね。特にこのカエル魔物のキングなんて……」


 ハートリエルさんは、また呆れ顔になった。

 というか……俺に対して呆れているような感じの態度は、おかしいと思うんだけど。

 迷宮に対して呆れて欲しいわ!

 抗議したい……トホホ。



「お前たち、生きてたんだな。さぁ行くぞ!」


 俺とハートリエルさんの話が落ち着いたのを見計らったように、四人の男が進み出てきた。


 そして、荷運び人をしていた亜人の三人に声をかけた。


 こいつらは、『連鎖暴走スタンピード』の時に、最初に逃げてきた奴……プップさん達を見捨てて逃げ出した奴らだ。


 一応、『連鎖暴走スタンピード』が起きていることをギルドに通報する義務は果たしたようだが、今更連れ戻そうとするとは。


 こいつらは今着いた感じだから、後から様子を見に来たのだろう。

 騒ぎが収まっているのを知って近づいたら、三人が生き残っていたから、連れ戻す気になったといったところだろう。


 ふざけた奴らだ。


「ちょっと待った! お前たちがこの人たちを連れて行く権利はないぞ!」


 俺はかなりムッとしているので、強い口調で言った。


 四人は一瞬体が硬直していたが、すぐに気を取り直して、俺に絡んできた。


「おいおい、部外者が口挟んでんじゃねーよ!」

「こいつらはなぁ、俺たちパーティーの奴隷なんだよ!」 

「お前に、とやかく言う権利はねぇんだよ!」

「さっさと引き渡せ!」


「この人たちは、もう奴隷じゃない。主人だったリーダーが死んだんだろう? もう奴隷契約は解消されている。だから自由だ。お前たちが引っ込め!」


 俺は、何とか感情を抑えて奴らに忠告した。


「ふざけんな! そんな理屈が通用するか! こいつらは俺たちの所有物なんだよ!」

「そうだ、なめてんじゃねーぞ!」

「さっさとよこせ!」

「そうだ、そうだ」


「武器も防具もない荷運び人を置き去りにして、一目散に逃げたくせに、生きていたら自分のものだと言うのか!?」


 俺は、ここに集まっている全ての冒険者たちに聞こえるように、大きな声を張り上げた。


「おいお前ら、荷運び人を見捨てて逃げたのか?」


 話を聞いていたハートリエルさんが、男たちを問い詰めた。


「俺たちは見捨てちゃいねーよ」

「そうだ、助けを呼びに行っただけだ」

「心配してたんだ」

「そうだ、そうだ」


 男たちは問い詰められて、少しバツの悪そうな顔をしながら、適当なことを言っている。

 本当にふざけた奴らだ。


「あなたたちは、この者たちに見捨てられたのですか?」


 ハートリエルさんが、プップさん達に問いかけた。


「そうです。こいつらは、私たちの事などお構いなしで逃げました。私たちは見捨てられたんです。グリムさん達がいなければ、三人とも死んでいました」


 その返事を聞いて、ハートリエルさんが少しニヤけた。


「しっかり証言が取れた。知っての通り、今のギルドは、荷運び人を使い捨てにする非道を禁じている。こうやって、はっきり証言が取れた以上、お前たちの冒険証は剥奪させてもらう。副ギルド長の私の権限でな」


 おおすごい、ハートリエルさんが悪徳冒険者を裁いた。


「何なんだと! ふざけんな!」

「おい、嘘だろ!」

「なんでそうなるんだよ!」

「そうだ、そうだ」


「お前たちには、詳しく聞き取りをさせてもらう。一旦ギルドで拘束する!」


 ハートリエルさんはそう言うと、素早く動いて四人の鳩尾みぞおちにパンチを入れた。


 四人は、うずくまって悶絶している。


 そこをナナヨさんが、縄で縛っている。


「ふ、ふざけるなよ……」

「俺たちは……ドクロベルクランだぞ……」

「た、ただで済むと思うなよ……」

「そうだ……そうだ……」


 四人は、悶絶しながらも捨て台詞を吐いた。


「またドクロベルクランか。まったく……」


 ハートリエルさんが、吐き捨てた。


 どうやら、この冒険者たちが所属しているドクロベルというクランは、問題があるクランのようだ。


「この荷運び人だった人たちは、あなたに任せます。奴隷契約が解消されている以上、もう自由ですから。ここにいる皆が証人です」


 ハートリエルさんは俺にそう声をかけて、周りの冒険者たちに賛同を促した。


 冒険者たちは、口々に「そうだ」とか「おうよ」と言って、賛同してくれた。


 そして何故かそれが広がるうちに……熱狂みたいな感じになって、盛り上がってしまった。

「わぁぁぁ」とか「おっしゃぁぁぁ」とか「しゃぁぁぁ」とか叫んでいる冒険者もいて、なんだか『連鎖暴走スタンピード』を防いだ勝鬨みたいな状態になっている。

 ……まぁいいけどさ。




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