1046.厄介さで記録に残っていた、カエル魔物のキング。

 魔物の『連鎖暴走スタンピード』から保護した三人の中の一人、狼亜人の女の子エクセちゃんが、俺が以前『闇オークション』で保護した狼亜人の親子ベオさんとセレンちゃんの家族であることがわかった。


 奇跡の巡り合わせだ。


 この事実を知ったエクセちゃんは、まだ泣き続けている。


 エクセちゃんが泣きやんだところで、今までの経緯を簡単に聞き取りした。


 それによると、村が魔物に襲われたときに、家族とはぐれ重傷を負って死にかけていたところを、奴隷商人に捕まったらしい。

 捕まった時は、一人だったとのことだ。


 そしてその奴隷商人が取引をしている冒険者のクランに連れて行かれ、その中の一つの冒険者パーティーのリーダーに購入されたとのことだ。

 それが、今回迷宮の中で死んだリーダーらしい。


 その時には既に、熊亜人のプップさんと狸亜人のポルセちゃんはパーティーにいて、荷物運び人をやらされていたとのことだ。


 プップさんは、行商人をしていて旅の途中に盗賊に襲われて、奴隷商人に売られたのだそうだ。

 ポルセちゃんも、亜人の村に住んでいたが、やはり魔物の襲撃にあって村が壊滅してしまったらしい。

 その時に何とか逃げ延びたが、奴隷商人に捕まったとのことだ。


 なんとなくだが……奴隷商人は、まるで亜人の村が襲われるのを知っていたかのように感じる。

 いろんな村の近くで、逃げた人を捕まえて奴隷にしている感じなんだよなぁ。

 まぁ奴隷商人に魔物を操れるわけがないし、偶然だとは思うのだが。



 三人の身の上話を聞き終えた俺たちは、迷宮を出ることにした。

 早くツリーハウス屋敷に帰って、エクセちゃんをベオさんとセレンちゃんに対面させてあげたいのだ。

 『アメイジングシルキー』のサーヤに念話を入れて連れ来るように頼んだから、俺たちより先にツリーハウス屋敷に着いていると思うんだよね。


 みんなに、このフロアを出ようと声をかけようと思ったそんな時だ……向かう先の通路の方から、騒がしい気配がしてきた。


 ……魔物ではない。

 ……人だ、人が大勢走ってくる気配だ。


 やっぱりそうだ。


 先頭にいるのは、ギルドの綺麗セクシーな受付嬢ナナヨさんだ。


 その後を、多くの冒険者パーティーがついて来ている。


「グリムさん、大丈夫ですか!? 魔物の『連鎖暴走スタンピード』があったと報告を受けたんですが」


 ナナヨさんが、息を切らしながら尋ねてきた。

 彼女は元凄腕の冒険者で、迷宮の調査なども行うと言っていたから、自ら確認のために来てくれたのだろう。


「はい。大丈夫です。すごい数の魔物が襲ってきました。『連鎖暴走スタンピード』で間違いありません」


「大丈夫なんですか?」


「はい、何とかみんなで倒しました」


 俺がそう言うと、ナナヨさんはホッと一息吐いて、視線を奥に向けた。


「あんなに……? あれだけの数を、このメンバーで倒したんですか?」


「なんとか」


「さすがですね。まぁ昨日の活躍からすれば、当然かもしれないですけど。でも改めて直視すると、やっぱり驚きです。しかも……あの大きなカエルの魔物……まさか、キングじゃないですよね!?」


 ナナヨさんは、自分を納得させるように、呟くように声を漏らしていたが、カエル魔物のキングを見て声を張り上げた。


「残念ながら、そのまさかです。カエル魔物のキングでした」


 俺がそう言うと、ナナヨさんは一瞬驚きの表情を浮かべ、その後なぜか半笑い状態になっていた。


「カエル魔物のキングって……。確か『南エリア』の『エリアマスター』として登場したという記録が残っていたはず。特殊な攻撃を使うために、何組もの凄腕冒険者が挑んだけど倒せなかったと伝えられている魔物ですよ。それと同じ種族の魔物が現れて……それを倒しちゃったんですか?」


 ナナヨさんが独り言を言うように呟いているけど……大丈夫かな?


 それにしても、ギルドの過去の記憶に残っていて、かつ倒すのが大変な魔物と記録されている魔物だったわけだ。

 まぁそれも納得だ。

 あいつ厄介な奴だったからな。

 普通は苦戦するよね。

 ニアたちだって、危うい感じだったからね。

 まぁでも、多分俺がいなかったとしても、ニアさんのことだから、何か滅茶苦茶な戦法で勝っていたとは思うけどね。

 リリイとチャッピーは、天才児だし。


 ナナヨさんの話しぶりからすると、どのぐらい前の記録なのかはわからないけど、それでも頑張って倒した冒険者がいたってことだよね。

 いや、結局倒せなかった可能性もあるか。


 それはいいとして……今の『エリアマスター』という言い方はしていなかった。

 今の『エリアマスター』は、別なんだよね。きっと……。


「ちなみに、今の『南エリア』の『エリアマスター』は、どんな魔物なんですか?」


 俺は、興味が抑えられず尋ねてしまった。


「それは、はっきりとはわかっていないのです。『南エリア』は難所が多いので、討伐対象に選ばれないんですよ。『エリアマスター』を攻略しようという実力がある冒険者パーティーでも、『南エリア』は選ばないんです。だから情報がないんです。でもまさか『エリアマスター』が、最終フロアを離れて『連鎖暴走スタンピード』を引き起こすなんて考えられないので、このカエル魔物が『エリアマスター』ってことはないと思いますけどね」


「そうですか。難所が多いから、挑む者が少なくて、情報がないわけなんですね」


「そうなんです。それにしても……凄い数ですね。百数十体はいますね……」


 最後の方に倒した魔物の死骸は、まだ回収していなかったんだよね。

 そのお陰で『連鎖暴走スタンピード』の状況が、見て理解してもらえたから良かったんだが。


 ただ、今転がっている魔物の死骸は、あくまで最後のほうの戦いで倒した魔物だ。

 その前に倒した魔物は、『波動収納』に回収してあるのだ。

 はっきり言って、ここに残っている数の二倍以上ある。

 多分全部出したら、合計で四百体以上になるんじゃないかと思う。四倍くらいな感じになっちゃうね。


 でもまともに報告すると、変人扱いされそうだから……とりあえずこのままにしておこう。

 俺が『波動収納』に回収してある分は、スルーだ。

 尋ねられたら、嘘はつきたくないので答えるけど、この感じからすれば、今転がっている死骸が全部だと思い込んでいる。

 だから、尋ねられることはないだろう。

 このまま誤魔化せそうだ。


 百数十体で既に驚いているし、何よりもキングの衝撃が強くて、他にも魔物がいたかと尋ねる発想にはならないだろう。




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