1045.奇跡の、巡り合わせ。

「この人たちは大丈夫そうだね?」


 俺は、助けた冒険者たちの様子を確認した。


「うん、この熊亜人のおじさんは、かなりの重傷でギリギリだったけどね。もう大丈夫よ。抱えて逃げていた女の子たちも、傷だらけだけど治療したわ」


 ニアが、そんな報告を上げてくれた。


 重傷の大柄な熊亜人のおじさんを、女の子二人で引きずるように走って逃げていた。

 普通はできないことだと思うけど……“火事場の馬鹿力”的な感じだったのかもしれない。

 よく見捨てずに助けたものだ。

 感心な子たちだ。


 女の子は二人とも十代前半くらいで、一人は狼亜人で、もう一人は狸亜人だ。


 熊亜人のおじさんは、気を失っている。


「あの……助けていただいて、あ、ありがとうございます」

「魔物は……全部倒しちゃったんですか……?」


 狼亜人の子と狸亜人の子が、不安げな表情をしている。


「もう大丈夫だよ。何があったのか話してくれるかい?」


「ん、……そ、それは……私からお話しいたします……」


 熊亜人のおじさんが目を覚ました。

 まだ辛いだろうに、体を起こす——


「大丈夫ですか?」


「はい、助けていただき、ありがとうございます。ほ、本当に……ありがとうございます」


 彼は何度もお礼を言った後、事の次第を話してくれた。


 それによると、彼とこの女の子二人は、冒険者ではなくて、荷運び人として冒険者パーティーに同行していたのだそうだ。

 同行といっても、冒険者パーティーのリーダーの奴隷になっていて、強制的に連れて来られたとのことだ。


 換金性の高いレアな魔物を求めて、人気の無い『南エリア』に来ていたらしい。


 ところが、突然カエル魔物が集団で襲いかかってきて、先頭にいた『斥候』ポジションのリーダーが、命を落としたのだそうだ。


 それを見た他のメンバーは、一目散に逃げ出し、荷運び人だった彼らは見捨てられたとのことこだ。

 しかも奴隷であるために、主人から逃げないように命令をかけられていて、ある程度の距離までしか離れられなかったらしい。

 主人であるリーダーの男が、即死ではなかったらしく少し息があったようだ。

 だがほどなくリーダーが死んだようで、奴隷契約が解消され、逃げることができたとのことだ。


 最初は、熊亜人の男性が女の子二人を抱えて、守るようにして走っていたが、攻撃を受け重傷を負ったらしい。

 その後は、女の子たちが両脇から抱きかかえて逃げて来たというわけだ。


 そして俺たちが最初に会った四人の男たちが、その見捨てて逃げた奴らだったらしい。

 ほんとにひどい奴らだ。

 戦闘能力がない荷運び人を見捨てて、自分たちだけ逃げるなんて……。


 熊亜人のおじさんの話によれば、荷運び人は“使い捨て”と考えられていて、見捨てられて命を落とす者が多いのだそうだ。


 最近は『冒険者ギルド』が、使い捨ての駒として一時的に荷運び人を雇うことを戒めているし、荷運びの仕事を求める貧しい人たちが極端に減ったので、奴隷を購入して荷運びに使うパティーが増えているらしい。


 そういう場合でも、荷運び人も正規のパーティーメンバーとして扱って、見捨てないようにギルドが指導しているらしいのだが、ほとんど実効性は無いとのことだ。


 実際に荷運び人が死んでも、生き残った冒険者が、見捨てたわけではないと言えば、証拠もないからそのまま通ってしまうのだそうだ。


 まったくひどい話だ。


 まぁギルドとしても、奴隷をパーティーメンバーに入れることを禁止できるわけではないし、パーティーメンバーとして扱っていたけど残念ながら助けられなかったと言われれば、それまでだもんね。


 俺は、奴隷契約が確実に消えていることを確認するためにも、密かに『波動鑑定』をさせてもらった。


 確かに三人とも『状態』表示には、奴隷の表示がないから奴隷契約は解消されている。

 不幸中の幸いというか……ある意味良かったかもしれない。自由の身になったわけだからね。


 熊亜人のおじさんは、プップさんといい、三十五歳でレベルが19だ。

 狼亜人の女の子は、エクセちゃんといい、十二歳でレベルが13だ。

 狸亜人の女の子は、ポルセちゃんいい、十二歳で、レベルが14だ。


 それにしても、三人とも防具も何もなく汚れたボロボロの衣服を着ているだけだ。


 こんな状態で迷宮に連れてくるなんて……本当に酷い扱いだ。



 俺たちは、改めて名を名乗りながら挨拶をした。

 それを受けた三人も、しっかり名前を名乗って挨拶をし、再度お礼を言ってくれた。


「エクセちゃんは、セレンちゃんに似てるのだ!」

「チャッピーもそう思うなの〜」


 リリイとチャッピーが、俺を見上げながら突然そんなこと言った。


 セレンちゃんというのは、俺が『闇オークション』で保護した狼亜人の親子の娘さんのことだ。


 確かに言われてみれば……顔つきが似ている気がする。

 セレンちゃんとお父さんのベオさんは黒髪だったが、この子は銀髪だ。

 でも顔つきは、似ている。


 ベオさんから聞いたところによれば……村が魔物に襲われてほぼ全滅し、奥さんと上の娘さんは行方知れずになっているとのことだった。

 もしかして……?


「え! セレン!? ……セレンを知ってるの?」


 リリイとチャッピーの話が聞こえていたようで、エクセちゃんが恐る恐る尋ねてきた。


「君はもしかして……セレンちゃんのお姉ちゃん? お父さんの名前はベオさんじゃない?」


 俺がそう問いかけた途端、彼女は大きく頷き、無言で何度も頷きながら涙をこぼした。


「……う、……うう、……お、お父さんとセレンを知ってるんですか?」


 エクセちゃんは、泣きながらも必死で声を絞り出した。


「ああ、知ってるよ。二人は奴隷にされて、売られていたんだけど、俺が保護したんだ。今は『コウリュウド王国』の俺の商会で働きながら、元気に暮らしているよ。離れ離れになった奥さんと上の娘さんを探すために、『アルテミナ公国』に戻りたいと言って、鍛えているんだ。今『アルテミナ公国』は、亜人にとって危険だから我慢してもらっているけど、いずれ呼ぼうと思っていたんだよ」


「……お、お父さん、セレン、よかった……うう」


 エクセちゃんは、ホッとしたように言った後、しゃくりあげるように泣いた。


 リリイとチャッピーが、両側から優しく抱きしめている。

 狸亜人のポルセちゃんも、もらい泣きしながら手を握っている。


 よかった……ベオさんのもう一人の娘さんが見つかった。

 これを伝えたら、どんなに喜ぶだろう?

 まさに奇跡だ!  

 これは……奇跡の出会いだ。

 俺は、心の中で神に感謝した。

 世界には、さまざまな神がいるようだが……すべての神様ありがとう!



 俺は、すぐに『アメイジングシルキー』のサーヤに念話を入れて、ベオさんとセレンちゃんをツリーハウス屋敷に連れて来てくれるように頼んだ。

 この後すぐに、引き合わせてあげよう!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る