1040.『登録品回収』したら、すごい数が……。

「あそこ、タニシいるなの〜」

「本当なのだ! タニシは火に弱いから、燃しちゃうのだ!」


 ——ボンッ

 ——ボンッ

 ——ボンッ

 ——ボンッ


 リリイとチャッピーが、池の土手のところにいるタニシ魔物を発見した。

 そしてすぐさまリリイが、『火魔法——火弾ファイアショット』を連射した。


 さっきみんなで地図を確認したときに、火に弱いという情報を確認していたので、ナイス判断だ。


 それはいいのだが……なんかすごい数のタニシが浮かんでいる。

 なぜタニシが沈まずに、浮かんでいるのかが謎だが。

 まぁそれはいいとして、二十体くらい倒しちゃったんじゃないかな。


 全然レアな魔物じゃないと思うんだけど。

 地図が間違っているのか、俺たちの攻撃がめちゃくちゃなのか。


 大きさは……バスケットボールぐらいある感じだ。

 それにしてもカラフルな色だ。

 パステルカラーな感じの明るい薄い色だ。

 グリーン、イエロー、ブルーなど、どれもすごく綺麗だ。


 とりあえず見える範囲のタニシ魔物を『波動収納』の『目視回収』コマンドを使って回収した。

 池の底に沈んでいるタニシ魔物の死体は、『目視回収』では回収できないが……水の中に入ってまで回収する気はないんだよね。

 そうだ! そういえば『波動収納』に『登録品回収』というコマンドがある。


 このタニシ魔物の死骸は、今『波動収納』に入っているから、その波動情報がある。

 『登録品回収』コマンドを使えば、自動で回収できるかもしれない。


 このコマンドの効果範囲については、まだしっかり検証していないが、このフロアの範囲くらいは、回収できるだろう。

 もしダメでも、少なくとも今リリイが攻撃を打ち込んだ範囲ぐらいは、絶対回収できるはずだ。


 まず最初は、このフロア全体をイメージして……コマンドを発動する——


 ……………………お、え、ええ、えぇぇぇぇぇ!


 なにこれ!?


 すごい数が『波動収納』に回収されていく。

 脳内に表示される個数が、どんどん上がっていく!


 こんなに倒してないと思うんだけど?


 あれ………もしかしたら、このフロアで過去に死んだタニシ魔物で貝殻を、全て回収しているのか!?


 貝殻の部分は強固だから、池の底に堆積してずっと残っていたのだろう。

 そうは言っても、あまりにも古いものは朽ちているだろうけどね。


 それにしても……先に回収したタニシ魔物の死体は、貝殻部分だけじゃなくて、本体部分もあった。

 それも含めてタニシ魔物の死骸だと思うのだが。

 なぜ貝殻部分だけになった死骸でも回収できたのだろう?

 解せない……。

 まぁ俺にとっては、都合がいいことなんだけどね。


 登録品の認定が、意外とファジーなのかもしれない。

 そもそも厳密に考えれば、魔物の死体は大きさなど個体差があるから、一体を『波動収納』に入れて登録品になったからと言って、一律に回収できるのはおかしいはずなんだよね。


 それができるのは、基本的な特徴が一致していて、波動情報の核となる部分が同じだからということなのだろう。


 もしかしたら……同一性を判定する波動情報の核となる部分が、貝殻の部分なのかもしれない。


 いや……でもおかしいなぁ。貝殻だけと、本体があるのでは、全く違うと思うんだけどなぁ……。


 何か特別な機能が働いたのかな?


 改めて確認してみると……『イビル・リバースネイルの死骸……8895』と表示されている。


 なにこれ!?

 すごい数、回収しちゃってるけど。


 一応……その表示に焦点を当てて……詳細表示と念じてみる。


 おお!

 すごい!

 なんと、内訳表示が出ている!


『イビル・リバースネイルの死骸……29』『イビル・リバースネイルの死骸(主要残骸)……8866』と表示される。


 ということは……波動情報的には、完全には一致しないと認識しつつも、貝殻という主要なパーツが一致しているから、一応回収した的なこと?

 なんかすごい!

 杓子定規に判断しないで、頭を使ってくれた的な感じなんですけど!


 『波動収納』って、めっちゃ頭いいんですけど!


 なんか……『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーみたいに、独立した人格とか持っちゃいそうな感じですらある。

 とにかく俺としては、ほんとに助かる機能だ。

 ありがとう! 波動収納!


 やっぱり俺は……『波動収納』だけを見ても、まだまだ使いこなせていなかった。


 『登録品回収』コマンドって、冷静に考えると恐ろしい機能なんだよね。


 使い方によっては、泥棒とかできちゃうからね。

 もちろん、そんなことをするつもりないけど。


 効果の及ぶ範囲が検証できてないから、どの程度広範囲にできるかわからないけど、その範囲によっては、またいろんな使い方が考えられる。


 どうせなら……一つだけ検証しちゃおうかなぁ。

 いつも大事な検証を後回しにして、忘れちゃうからね。


 俺は、このフロア……一般的なドーム球場くらいの広さに範囲をイメージして、もう一度、『登録品回収』コマンドを使った。

 今度は、金貨をイメージした。


 ここに訪れた冒険者で、命を落とした人が、お金も落としているかもしれない。

 それが回収できないかと考えたのだ。

 テストするには、良い素材だと思う。


 今このフロアには俺たちしかいないから、他の冒険者の金貨を盗んでしまうことはない。


 もっとも、人が持っているお金を『登録品回収』コマンドによって奪うことができるかは、試したことがないけどね。


 普通に考えれば……金貨を持っている時点で、その人の所有物になっているので、それを勝手に奪うことはできないと思うんだけどね。

 あくまで落とし物としての金貨、いわゆる占有離脱物だけが回収できるのではないかと思うのだが。


 ただ、それは俺の元の世界での知識と道徳観からの考えかもしれない。

 このスキルに、そんな観点は関係なかったとしたら、強奪できちゃうってことになるだろう。

 完璧に、大泥棒になっちゃうね。


 怖くて試す気持ちにはなれない。


 おおっと……そんな思考を巡らせているうちに、『波動収納』の中に、金貨が三枚回収された。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る