1039.薬草採取を、楽しむニア。

 襲ってきたカエル魔物を倒した俺たちは、そのままフロアの出口に向かって進んだ。


 次に襲ってきたのは、イモリ魔物だ。


 といっても、大きさは二メートルくらいあるので、ワニみたいな感じだ。


 だがレベルは15で、俺たちにとっては敵ではない。

 駆け出し冒険者にとっても、意外と戦いやすい相手ではないだろうか。

 デカいから力はあるかもしれないが、的は大きい。

 それに、素早さはあまりない感じだからね。


 ただ……まともに肉弾戦をすると、ビチャビチャになりそうだ。

 表面に粘膜を纏っていて、黒光りしている。


 さすがにリリイとチャッピーも、こいつに対しては素手で攻撃するつもりはないようだ。


 チャッピーが魔法カバンから石礫を出して、手首のスナップだけで投げた。


 ——ボスッ


 見事脳天直撃で、お陀仏だ。


 あの“チャラ男地図売り”から買った地図にある出現頻度が高い三種類の魔物が、すべて現れた。

 意外と、まともな地図なのかもしれない。


 もっとも最初のフロアだから、ある程度の冒険者ならみんな知ってることだろうけどね。


「ねぇねぇ、結構見つけたわよ!」


 『迷宮人参』の採取をしていたニアが、ドヤ顔で戻って来た。


「どのぐらい採れたの?」


「とりあえず二十一本ね。もっとある感じだけど、もうこのフロア出ちゃうでしょう?」


 げ、この短時間にそんなに採ったの!?

 てか……そもそもそんなにあったの?

 見つけにくい薬草なはずなんだけど。


「やっぱ普通の冒険者じゃ見つけにくいところにあった?」


「そうね。じっくり探せなかったら難しいでしょうね。背が低いから、他の草に紛れてるし。それに魔物の巣になってるところの近くだったし」


「じゃあ魔物が襲ってきた?」


「そりゃそうよ。一捻りにしてやったけどね!」


 ニアはそう言って、魔法カバンから、イモリ魔物の死骸を五つ出した。


 やっぱり迷宮の中じゃぁ、薬草だけ採るってわけにはいかないよね。

 今回もニアだから、簡単に採れたわけだ。

 魔物の巣の近くに生えてるなら、駆け出し冒険者じゃ採れないし、中堅以上の冒険者は薬草採取はあまりやらないだろうからね。

 無理して薬草採取するよりも、魔物を倒した方が稼げるはずだ。


 俺は、ニアが倒したイモリ魔物の死骸を『波動収納』に回収した。


 そしてこの一つ目のフロアを出て、次のフロアに進んだ。




 ◇




 俺たちは今、三つ目のフロアを出るところだ。


 南エリアの最初の分岐を左に入ったが、このルートは一つ目のフロアから五つ目のフロアまでは一本道なのだ。

 三つ目までのフロアまでは、一つ目のフロアと同じような魔物の構成だった。

 俺たちは、一つ目のフロアと同様に、邪魔になる魔物を倒しながら最短距離を進んだ。

 ニアさんも同様に、『迷宮人参』の採取を楽しんでいた。

 かなり採取して、現時点で七十一本もある。

 なんか……採りすぎなような気もするが。

 まぁこの程度では、相場を崩すとか、そんなことにはならないだろうから、いいだろう。

 ニアがいつになく楽しそうだからね。



 これから入る四つ目のフロアは、ちょっとクセのあるフロアだ。


 ほとんどが水没エリアで、普通に歩けるのは真ん中の道のようになっている部分だけだ。

 五メートルくらいの幅で、道というか橋がかかっているような感じとも言える。


 ただこの道の奥には、出口が見える。

 まっすぐ行けばいいわけだ。

 というか、まっすぐ行く以外にないんだよね。

 わざわざ水に入るなんてできないし。


 足の速い冒険者だったら、駆け抜ければ魔物に襲われないで抜けられるかもしれない。


 ただ普通に考えると、魔物もここを通る人間を待ち構えて狙うだろうから、逃げ切るのは大変だろう。

 ある程度倒しながら、走り抜けるしかないんじゃないだろうか。


 こういう癖のあるフロアが序盤から出てくるあたり……『南エリア』が不人気だというのがよくわかる。

 話によれば、ここのように、ほぼ水辺というフロアが、定期的に出てくるらしい。

 水の中に引きずり込まれたら、詰んじゃうよね。


 地図の書き込みによれば、このエリアは、ドジョウ魔物とメダカ魔物が多いようだ。

 レアな魔物としては、タニシの魔物が出る可能性があると書いてある。

 防御力が高くて倒すのが大変だが、換金性が良いので見つけたら倒すべしと書いてある。

 火の攻撃に弱いとも書いてある。


 この地図は、気まぐれに、突っ込んだ情報が書いてあるんだよね。

 まぁ、それはそれでありがたいんだけどさ。


 俺たちのスピードなら、駆け抜けて魔物と遭遇しないこともできるが、せっかくなので、どんな魔物か見て、倒しながら進むことにする。


 道を進むと……すぐに狙いすましたかのように、魚が飛び込んできた。


 体当たりして、水に落とすつもりなのだろう。


 突っ込んできたのは、メダカ魔物だ。

 とはいっても、大きさは五十センチくらいあるけどね。


 俺、リリイ、チャッピーは、投擲用の槍を二本ずつ取り出して、飛んでくるメダカ魔物をサクサク突き刺していった。

 これが漁業だったら、楽に大漁状態なんだけど。


 そんな感じで、襲ってくる魔物を突き刺していただけだが、少し進んだ間に、三十五体も倒してしまった。


 今度は水辺から、放水攻撃が放たれた。


 ドジョウ魔物が、水を放射してきたのだ。


 水圧で水の中に落として、襲うつもりなのだろう。


 ドジョウ魔物は、水面から顔を出して放水すると、すぐに潜って、場所を変えてまた攻撃してくる。

 ヒット&アウェイみたいな感じで、慎重に攻撃してくる感じだ。


 俺は、魔法の鞭を取り出し、ドジョウ魔物が水面から顔を出した瞬間、放った!


 ——ビュウンッ、グシャ


 手加減したつもりだが……頭を吹き飛ばしてしまった。

 残りの体を回収すると、二メートルくらいの長さがあった。

 めっちゃデカいというか……もう蛇みたいな感じだ。

 そして、こいつも体がヌメヌメして気持ち悪い。


 ただもしかしたら……食べたら、うなぎみたいな感じで美味しいのかもしれない。


 メダカ魔物もドジョウ魔物も、一度食べてみるかな。




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