1038.いつもと違う、倒し方。

 『南エリア』の最初の分岐点を左側に入った一つ目のフロアは、草原と池のフロアだが、かなり見晴らしが良く、魔物の気配も多くない。

 無理に戦う必要は無いので、中央の草原を通って奥にある通路を目指す。


 魔物に遭遇しないまま、さっと通り抜けたいと思っていたが、そうもいかなかった。


 草むらの中から、鶏魔物が二体飛び出したのだ。


 昨日迷宮都市の中区を襲った『イビル・チキン』だ。


 もちろん俺たちは、一斉に飛び退いて距離をとった。


 『波動鑑定』によれば、二体ともレベルは12だ。

 かなり弱い。

 まぁ最初のフロアだし、駆け出し冒険者の相手としては、ちょうどいい感じだろう。


 リリイとチャッピーが、俺を見上げているので頷く。

 二人が攻撃の許可を求めていたのだ。


 二人はすぐに駆け出して、ジャンプした——


「リリイィィィィパァァァァンチ!」

「チャッピィィィィキィィィィク!」


 ——バゴッ

 ——ゴスッ


 リリイとチャッピーの攻撃は、それぞれの鶏魔物の脳天に直撃した。

 もちろん瞬殺だ。

 頭がはじけ飛んでいないから……手加減して攻撃したはずだ。


 それはいいのだが……なぜに肉弾戦?


 それに自分の名前を言いながら、技名を叫ぶのはどうして?

 誰が教えたのよ!?

 俺の純真無垢な天使たちに……。


 『ライジングカープ』のキンちゃんと、『先天的覚醒転生者』で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんの顔が、思い浮かんだ。

 もしくは、この二人の情報をもとに、ニアが教え込んだのか……?


 そう思いながらニアさんの様子を窺うと……悪い笑みを浮かべ、満足そうに頷いている。

 やはりこの人が絡んでるわけね。


 てか、何を教えてるわけ!?

 リリイとチャッピーをどうしたいのよ!?

 バイクに乗った変身ヒーローとかにするつもりじゃないよね?


 いつも使っている武器もあるし、他にもいろんなタイプの武器を二人に渡しているのに……肉弾戦かい!

 まぁ弱い魔物だからいいけどさ。


 そして今気づいたが……幼い二人が瞬殺で鶏魔物を倒したのを見て、他の冒険者たちが口をあんぐりと開けて固まっている。


 ……ここはスルーするしかないが。


 俺は、倒した鶏魔物を魔法カバンにしまう体で『波動収納』に回収した。


「ねぇねぇグリム、私、しばらく薬草の回収に集中していい? 『迷宮人参』を探そうと思って、『薬草検知』をかけたら、結構あるのよ!」


 ニアが楽しそうに、そんなことを言ってきた。


 ニアは『ロイヤルピクシー』の時に、『通常スキル』の『薬草検知』を取得しているので、それを使って探したようだ。

 掲示板のところにいた少年が教えてくれた『迷宮人参』を、早速見つけてしまうとは。

 やはりスキルの力は偉大だ!


 このスキルなら、確かに簡単に見つけられるよね。

 この『薬草検知』は『通常スキル』なので、『共有スキル』にセットしてあるから、みんな使えるんだけどね。


 ただニアは飛んで移動できるので、上から探すことができる。

 適任かもしれない。

 もちろん俺たちも『飛行』スキルを使って飛ぶことはできるが、人には見られたくないからね。

 ニアに任せよう!


「じゃあ頼むよ。ただ早く先に進みたいから、近くにあるのだけでいいけどね」


「オッケー、わかったわ」


 ニアは嬉しそうに飛び立った。


 最近薬草を取ることなんてなかったけど、普通の冒険者がなかなか見つけられない薬草を見つけるのって、結構楽しいかもしれない。


 『迷宮人参』は、葉っぱが双葉しかなくて背丈が低いから、こういう草原に生えていたとしても、なかなか見つけられないよね。

 しかも魔物が出るのを警戒しながら探さなきゃいけないから、ただの薬草採取よりも、難易度が上がるのだ。



 俺とリリイとチャッピーは、引き続き見えている出口を目指し、最短距離を進む。


 やはり魔物の数が少ないようで、このまま進めそうな気がする。

 さっきもそう思った途端に、魔物が現れたんだよね。


 やはりフラグを立ててしまったようで……


 ——シュッ


 突然俺たちに向かって、横から物体が飛んできた。


 普通の冒険者だったら危ないところだ。

 だが俺たちにとっては、全く問題ない。

 リリイもチャッピーも、軽く躱している。


 飛んできたのは、カエル魔物だった。

 外皮が茶色くゴツゴツしている。

 結構固そうだ。

 小型犬ぐらいの大きさがあるから、レベルの低い駆け出し冒険者が直撃をくらったら、かなりの脅威かもしれない。

 レベルは12だ。


 弾丸のようにジャンプして攻撃するらしい。


 おおっと!


 また別のカエル魔物が飛んできた。

 群れているのか、次々に飛んでくる。


 俺とリリイとチャッピーは、全て躱している。


 なんとなく……何かのゲームをしているみたいで、ちょっと楽しい。

 だが遊んでいる場合ではないので、倒すことにしよう。


 リホリンちゃんが言っていたが、カエル魔物の肉も鶏魔物の肉に近くて、美味しいらしい。

 そして、まあまあの値段がつくそうだ。

 皮の部分は、水を入れる袋型の水筒にも使えるらしい。


 序盤のフロアで出る魔物の中では、鶏魔物に次いで割のいい魔物なのだそうだ。


 ということなので、なるべく傷つけずに倒したい。


 俺は飛んでくるカエル魔物を捕まえて、心臓の位置をめがけて針を刺した。

 瞬殺である。


 この針は、『魔竹』で作った針だ。

 前に『魔竹』の加工したときに、端材で作っていたのだ。

 ちょっとしたノリで、竹串として作ったんだよね。

 何度も使える丈夫な竹串。

 イメージ的には、バーベキューなどで使うステンレスの串をイメージしたものだ。

 武器として使うつもりはなかったのだが、『魔竹』は魔力を通すと強度が増すので、この程度の魔物を倒すには充分な武器となった。


 針を直接刺して倒すって……なんか独特の感じだ。

 なんとなく……気持ち的には、お金をもらって悪い役人等を始末する“必殺”の技を持った人たちの気分だ。

 俺が元いた世界で好きだった時代劇なのだ。

 糸で相手を吊るして倒すのもいいかもしれない。

 糸をピンッと弾くのをやってみたかったんだよね。

 まぁそんなことはどうでもいいが。


 というか……『アラクネーロード』のケニーだったら、普通にできちゃうよね。

 てか、既にそういう倒し方もしてるのかもしれないけど。

 今度、糸の使い方を教えてもらおうかなぁ。






 

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