1037.地図を、お試し購入。

 俺は、迷宮入口奥の広場で、販売されているものを物色している。

 物売りが多く出ていて、これから迷宮に挑む冒険者たちで賑わっている。

 この広場は、『スターティングサークル』とも呼ばれているらしい。


「兄ちゃん兄ちゃん、今日はどこのエリアに行くんだい? いい地図があるんだよ」


 若いチャラい感じの男が、声をかけてきた。

 地図を売りつけるつもり満々だ。


「『南エリア』に行こうと思っているけど……」


「そりゃ珍しいね。不人気エリアに行くのかい? 

 まぁでもいい地図があるよ。ギルドで配ってる面白くもない地図とは大違いだぜ! 

 前半三分の一のエリアの地図は、フロア毎に多く出る魔物が記入してある。過去にレアな魔物が出た情報や、珍しい薬草の情報なんかも書き込んであるんだ。

 どうだい面白いだろう? 

 それに『南エリア』の中盤と後半の地図もあるぜ!」


 チャラ男氏が、ドヤ顔で言った。


 売ってる人間がチャラすぎて、怪しさ全開だが。


 言ってることが本当なら面白そうだ。

 地図売りの地図は、あまり信用できないとリホリンちゃんが言っていたが、中にはちゃんとした地図もあるはずだ。

 このチャラ男は信用できない感じだが、ものは試しで買ってみようかな。


「いくらだい?」


「エリア前半の出やすい魔物が書き込んである地図は、一万ゴルでいいよ。それから中盤の地図は五万ゴル、後半の地図は十万ゴルだ」


 なかなかのぼったくり値段な気がするが……。

 中盤と後半の地図も興味あるけど……とりあえずは、前半の地図でいいだろう。


「じゃぁ前半の地図を一つもらうよ」


「毎度あり! 中盤と後半の地図もどうだい? 見たところ、金はありそうだから買っといたほうがいいと思うぞ。俺もいつもここにいるわけじゃないからなあ。

 実は……この二つは、我が家に代々伝わる特別な地図なんだ。過去に『エリアマスター』を倒したすごい冒険者と一緒に作ったものなんだ」


 チャラ男氏は、ドヤ顔で売り込んできた。

 カモと思われたようだ。

 秘伝の地図みたいなこと言ってるけど……過去に作ったものって、情報が古いと言っているようなものだと思うんだけど。


「それって、昔の情報の地図ってことだよね?」


「まぁ多少は変わってるところもあると思うが、大きくは変わらないさ。それに抜け道の書き込みとか、宝箱があった場所の書き込みなんかもあるんだよ。レアな魔物の情報もだ」


「だとしても、高すぎるよ」


「は、なんだよ、しょうがねぇなぁ……特別に安くしといてやるよ。二つで十万ゴルにしてやるよ。もってけ泥棒!」


 チャラ男氏は、渋々という顔をしているが、演技だと思う。


「いや、やめとくよ。それでも高い。……まぁ五万ゴルなら出してもいいけど。それ以上は出すつもりないから。それじゃあ」


 俺はそう言って、立ち去ろうとした。


「待った、待った。わかった、わかった、もういいよ。五万ゴルで売ってやるよ。特別だぞ、他の奴に言うんじゃねーぞ!」


 チャラ男氏は、俺を逃さないように慌てている。

 どうしても売りつけたいようだ。

 まぁ、ものは試しで買ってみるか。


「わかった。じゃあ買うよ」


「毎度あり! また地図が欲しくなったら、声かけてくれよ。うちの地図は、きっと役立つぞ!」


 チャラ男氏は、満足そうに笑った。


 俺は、別に地図を必要としているわけではないが、抜け道の情報が本当だったら儲けもんだからね。



 いつまでもこの『スターティングサークル』で油を売っているわけにはいかないので、切り上げて出発することにした。


 『南エリア』へと続く広い通路を進む。


 すると最初の分かれ道が出てきた。

 三又に分かれている。


 さっき購入した地図によると……左側を行ったほうが良さそうだ。


 左側に入って、五つ目のフロアに、『貝殻提灯アンコウ』の魔物が出ると記載されている。

 この情報が本当だったとしたら、チャラ男氏の地図は、結構使えるということになる。


 左側の通路を進むと、広い空間が現れた。

 最初のフロアに入ったのだ。

 おそらく、一般的なドーム球場くらいの広さがある。


 俺がダンジョンマスターをしている『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮の一フロアの大きさと同じくらいだと思う。


 楕円形の空間だ。

 中央の辺りが草原のようになっていて、両サイドに池がある。

 大きな木が生えていていないので、見晴らしは良い。

 これなら魔物が出てきても、すぐわかるだろう。


 まぁ上層の最初のフロアなので、難易度は高くないよね。


 人気のない『南エリア』と言っても、このフロアには他に二組の冒険者パーティーがいる。


 リホリンちゃんが迷宮での心得として教えてくれたが、魔物だけでなく他の冒険者パーティーにも、気をつけるべきだとの事だった。

 酷い冒険者パーティーがいて、他の冒険者を襲ったりすることがあるようなのだ。

 特に駆け出しの冒険者は、狙われやすいらしい。

 優しい言葉で近づいて、装備を巻き上げたり、最悪の場合命を奪ったりするとのことだ。

 だから迷宮の中では、他の冒険者パーティーには気を許さず、距離感のある対応をとることが大切なのだそうだ。


 無闇に近づいてもいけないらしい。


 親切心で近づく場合でも、警戒され、場合によっては攻撃されるそうだ。


 なんか……世知辛い世の中って感じで、切ない気持ちになるが、それが現実なのだろう。


 ということなので、他の冒険者パーティーはスルーすることにした。

 お互いに気づいても、関わらないのが正しい姿ということだ。


 この最初のフロアは、魔物は多くない感じだ。

 なんとなく……魔物に遭遇しないまま最短距離を進んで、次のフロアに繋がる出口に行けちゃいそうな気もする。


 さっき買った地図によると、多く出る魔物は、カエル魔物、イモリ魔物、鶏魔物となっているけどね。





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