1036.オススメ、クエスト。
迷宮の入口を入ると、広めの空間になっていて、すぐ右側に受付カウンターがあった。
ギルドのスタッフが立っている。
迷宮に挑むときには、ここのスタッフに申告をして行くのが通例とのことだ。
ナナヨさんが、受付名簿に記入してくれた。
字の読み書きができない冒険者も結構いるので、名簿に自分で記入するのではなく、スタッフが記入してくれるのだそうだ。
そして、受付カウンターの隣には、ギルド会館にあったのと同じ掲示板があって、同じ情報が張り出されている。
その横には椅子が置いてあり、十歳くらいの男の子が座っている。
不思議に思ってナナヨさんに尋ねると、ギルドが雇ってあげている子供なのだそうだ。
字が読めない冒険者のために、掲示されている内容を読み上げるスタッフとして働いてもらっているらしい。
近くの孤児院の子供たちで、字が読める子が交代で来るのだそうだ。
ギルドは、その報酬という意味で孤児院にいくばくかの援助をしてあげて、子供たちにもお駄賃をあげているのだそうだ。
ギルド長の計らいで始まったらしいが、良いことだと思う。
ナナヨさんによれば、ここに来る子供たちは優秀で、割のいい依頼やお勧めの依頼なども把握して、冒険者に教えてあげたりしているのだそうだ。
小さいながらに、この仕事にプライドを持って取り組んでいるらしい。
素晴らしい話だ。
俺も応援したくなってくる。
「やぁ、何か面白い依頼とか、割りのいい依頼ってあるのかな?」
俺は、ぽつんと座っている読み上げ係りの少年に声をかけた。
もちろん字が読めるから自分で探しても良いのだが、結構な数の依頼があるから目を通すだけでも大変なんだよね。
ぜひオススメを聞いてみたい。
少年は、さっと椅子から立ち上がり、二パッと笑って嬉しうそうに話し出した。
「そうだね……お兄さん、初めて見るから、冒険者になったばかりでしょう?
難しい依頼はできないと思うから……『迷宮人参』がいいと思うよ。薬草として人気があるんだ。
東西南北どのエリアでも、生えているしね。
ただ、見つけること自体、結構大変だけど。
葉っぱの部分が双葉しかなくて見つけにくいんだ。
でも植物が生えているエリアだったら、どこでも採れる可能性がある。
見つけることができたら、結構いいお金になるよ。
依頼書に書いてあるこの『迷宮人参』の姿を覚えていって」
すごい!
その人に合わせた提案ができている。
そしてやはり依頼内容を、全て把握しているに違いない。
素晴らしいプロ意識だ。
『フェアリー商会』に欲しい人材だなぁ。
「なるほどね。頑張って探してみるよ。ほかに……強い冒険者の人たちならできる面白い依頼とかあるの?」
「そうだね……人気の無い『南エリア』にいる魚型の魔物なんだけど……『貝殻提灯アンコウ』の魔物がいるんだよ。
その提灯の先に付いている貝の中に、綺麗な宝石が入ってるんだけど、それはすごく高く売れるんだ。
時々強い冒険者の人たちが、狩ってくるけどね」
「そうなんだ。その魔物は倒すのは難しいのかな?」
「結構強いみたいだし、そもそも出会うことがあまりないんだよ。いるのは『南エリア』だけだし。『南エリア』に行く冒険者は少ないしね」
「そうか、ありがとう」
俺は礼を言って、少年にドロップを一つあげた。
「え、いいの……?」
「もちろん。噛まないで、口の中で舐めて溶かすんだよ」
「うん、わかった」
少年は、すぐに口に放り込んで……めっちゃ幸せそうな顔になっている。
「お兄さん、ありがとう。また良い情報があったら教えるよ」
「ああ、よろしくね」
「そうだ、君は近くの孤児院の子なのかい?」
「そうだよ。ミトー孤児院」
「子供たちは、何人いるの?」
「僕を入れて、十七人だよ」
「じゃあ……これを子供たちに一箱ずつあげて」
俺はそう言って、箱入りのドロップを十七箱取り出して渡した。
「え、なにこれ?」
「今あげたドロップという飴が入ってるんだ。君の素晴らしい仕事ぶりに対して、プレゼントしたくなったんだ。子供たちに分けてあげて」
「ほんとにいいの?」
「もちろん」
「ありがとう、みんな喜ぶよ。お兄さん名前は?」
「俺はグリムだよ」
「俺はゴヤ、改めてよろしく」
「こちらこそよろしくね。ゴヤくん」
何度も何度もお礼を言ってくれるゴヤくんに、手を振りながら、俺たちは迷宮の中へと進んだ。
それにしても……結構面白い情報が手に入った。
この世界には、『貝殻提灯アンコウ』という生物がいるらしい。
そしてその魔物がいるってことなのだ。
面白そうだ。
その宝石欲しいなぁ。
ちょうど『南エリア』に行こうと思っていたところだし、運がよければ出会えるかもしれない。
ナナヨさんの話では、今紹介してもらった二つの依頼は、事前に依頼を受ける届け出をしなくてもいい依頼なのだそうだ。
通年出されている依頼で、その素材を持ってくれば買い上げることができるとのことだ。
依頼の中には、事前に申請をしないと受けられない依頼もあるが、この二つは大丈夫なのだそうだ。
せっかくなので、どちらかは見つけたい。
迷宮入口の受付を出て、下に向かう通路を下っていくと、少しして大きな広い空間に出た。
聞いていた通りに、結構な人がいる。
これから迷宮に入って行こうとしている冒険者たちもいるし、物売りも結構いる。
敷物を敷いて、色んな物を販売している。
さすがに屋台はないけどね。
冒険者資格を持って、迷宮攻略をしないでここで商売してる人も、それなりにいるようだ。
まぁ冒険者は、登録すれば基本的に誰でもなれるからね。
迷宮の中の空間は、すごく明るい。
この迷宮もどういう仕組みかわからないが、外の光を迷宮内に転送しているようで、昼は明るく夜は暗くなるらしい。
だから、夜に迷宮に挑む冒険者は少ないとのことだ。
もちろんエリアの奥を目指して進むには、迷宮内で野営をする必要もあるので、夜にもそれなりの数の冒険者はいるようだけどね。
それにしても、外の光を取り込むというのは、迷宮の不思議機能だよね。
どんなに奥のエリアに行っても、同じように光が取り込まれているらしいから。
もっとも……特別なフロアがあって、昼でも暗い所とか夜でも明るいところがあったりするらしい。
こんな情報も、さっきの説明の時にリホリンちゃんが教えてくれたのだ。
この広場は大きな楕円形で、物売りは、その壁際に沿うような形で陣取っている。
敷物を引いて座って、箱に入れた商品などを売っているのだ。
リホリンちゃんが言っていたように、迷宮内の地図を売っている人も結構いる。
あとは薬草や回復薬も売られている。
最低限の物は、迷宮に入る直前のここでも補充できる感じだ。
食べ物も売っているが、迷宮に持ち込める保存が効くものが多い。
干し肉やリンゴなどが多い。
パンも売っている。
武器を売っている人もいる。
迷宮に挑む直前で、武器を補充する人っているのだろうか?
だがよく見ると、本格的な武器というよりは、補充用の矢や投擲用のダガーみたいな小剣が多い。
これなら、直前に補充するっていうのもアリかもしれない。
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