1035.ポカポカを誘発する、受付嬢。

「いつぐらいに戻る予定ですか?」


 迷宮の説明をしてくれたリホリンちゃんに礼を言って受付を出ようとしたら、リホリンちゃんが慌てて尋ねてきた。


「今日は様子見なので、夕方には戻ってこようと思います」


「よかったです。最初から泊まりがけで奥まで行っちゃうのかと思って、心配しました」


「大丈夫です。ほんとに雰囲気だけ味わって、すぐ戻ってきますから」


「わかりました。じゃあ、いってらっしゃい! あ、そうだ! グリムさん、ちょっと待ってください。ナナヨさーんっ」


 リホリンちゃんは、俺を引き止めて誰かを呼んだ。


 受付の奥から来たのは……ギルドに最初に訪れた時に、元冒険者のアイスティルさんと話をしていた青髪の綺麗なお姉さんだった。

 リホリンちゃんが綺麗可愛いのに対し、彼女はセクシー系綺麗なお姉さんなのだ。

 青のロングヘアは、毛先が少しカールしているし、胸のボリュームが凄い。


 ちょっとそう思っただけなのだが……。


 ——ポカポカ、ポカポカ


 やはりニアさんは、見逃してくれなかった。

 『頭ポカポカ攻撃』が炸裂してしまった。


 初対面なのに、恥ずかしいじゃないか……トホホ。


「もうグリムさんったら、どこに見惚れてるんですか!? 私の時と反応が違う気がするんですけど! そりゃぁ大きさは負けてますけど! プンプンッ」


 ナナヨさんの胸に視線を奪われてしまったことを、リホリンちゃんにまで気づかれてしまったみたいだ……トホホ。

 それにしても……怒り方まで可愛い。

 それはそれで、ドキドキしちゃうんですけど。


 あ! 


 ——ポカポカ、ポカポカ


 やっぱね……『頭ポカポカ攻撃』が来ちゃったよ。

 ニアさんは、見逃してくれないよねー……トホホ。


「こんにちはグリムさん。ナナヨと申します。リホリンだけじゃなく、私のことも贔屓にしてくださいね。アイスティルとは友達だから、いろいろ話を聞いてますよ。ふふ」


 ナナヨさんはそう言って、最後に色っぽく含みのある笑みを浮かべた。


 そういう攻撃は、本当にやめて欲しい!

 めっちゃドキドキしちゃうじゃないか!


 ——ポカポカ、ポカポカ


 ほらね、また『頭ポカポカ攻撃』だよ……トホホ。


「グリムさん、ナナヨさんは、今から当番で迷宮入口の受付に行くので、一緒に行ってください」


 リホリンちゃんはそう言うと、ナナヨさんに目配せした。


「それではご案内します」


「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」


「グリムさん、ちなみにナナヨさんは、このギルドの本所で、人気ナンバーワンの受付嬢なんですよ。仕事もできるし、冒険者の皆さんにもすごく顔が広いんです。それにほとんどの男性冒険者は、言いなりといってもいいですし……ふふふ」


 リホリンちゃんが、わざわざ引き止めて、思い出したかのようにそんな話をしてくれた。


「こら、リホリン、それは言い過ぎよ。まったく……」


 ナナヨさんが愉快そうに笑っている。

 この二人も仲が良いようだ。


「ナナヨさんは、副ギルド長のハートリエルさんとも仲が良いですし、私の頼れる先輩なんです。そしてギルドでも幅広い仕事をしていて、たまに迷宮内の調査をしたりすることもあるんですよ。実は元凄腕冒険者なんです」


「そうなんですか。ぜひご指導願います」


 俺がそう言うと、ナナヨさんは少し含みのある感じで、ニコッと微笑んだ。


「グリムさんにご指導することなんて、ないと思いますけど。ただいろんな情報の提供という意味では、お役に立つこともあるかもしれません。ふふふ。改めて、よろしくお願いしますね」


 ナナヨさんはそう言って俺の手を取ると、自分の胸に押し当てた……と言うよりも、当たってしまった感じだ。

 ……何この弾力?

 少し触れただけなのに、幸福感が……


 ——ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ——


 幸福感は一瞬だった。

 そりゃ『頭ポカポカ攻撃』が来るよね。

 しかも、怒涛の連打。

 まぁしょうがないけどさぁ。

 それにしても、凄い連打だった……トホホ。


「ニア様も、これからどうぞよろしくお願いします」


 ナナヨさんは、改めてニアに挨拶をした。


「あなた、なかなか面白そうね。よろしくね」


 何故か……ニアは、ナナヨさんが気に入ったようだ。


 ポカポカを誘発している張本人なのに……。

 普通なら、文句を言ったり、張り合ったり、ドロドロの愛憎劇が始まったり、とかするところじゃないだろうか?

 なぜに気に入ってるわけよ?

 そして、だったら俺に、そんなに『頭ポカポカ攻撃』を発動しなくてもいいじゃないか!


 ……あくまで俺の責任ってことね……トホホ。


「リリイちゃん、チャッピーちゃん、よろしくね」


 ナナヨさんは、しゃがんでリリイとチャッピーをハグしながら、改めて挨拶してくれた。


「ナナヨお姉さんの胸は、すごいのだ! ふわふわで眠くなっちゃうのだ!」


「ほんとにすごいなの〜。柔らかすぎるなの〜」


 二人は無邪気にそんなことを言っているが……


 ——ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ


 何故か俺に、『頭ポカポカ攻撃』が発動されてしまった。

 今ニヤけてなかったと思うんですけど。

 まぁ確かに、少しドキッとしたけどさぁ……トホホ。



 俺たちは、ナナヨさんと一緒にギルド会館を出て、迷宮の入口に向かった。


 歩きながら、少しナナヨに話を聞いたが、普段の業務は受付業務が中心で、ギルド会館二階での受付業務と迷宮入口での受付業務を、ローテーションで行っているとのことだ。


 またリホリンちゃんが言っていたように、ギルド長の指示で迷宮内を調査することもあるそうだ。

 冒険者から迷宮内での異変の報告があったときなどに、行うらしい。


 ギルドの職員の中には、元冒険者が何人かいて、調査に向かうときには、ナナヨさんがリーダーとなって、その人たちを連れて行くらしい。

 ナナヨさんは、冒険者だった時は『斥候』ポジションだったとのことだ。


 元冒険者アイスティルさんと、『フェアリー商会』で働いてくれているサリイさんやジェーンさんが組んでいた冒険者パーティー『麗華れいか』の先輩パーティーに当たるのだそうだ。

 驚くことに、ナナヨさんのパーティーもローレルさん達『炎武えんぶ』に師事していたとのことだ。

 アイスティルさん達の姉弟子といった感じなのだろう。


 そんな驚きの関係性もわかり、もう少し詳しく聞きたかったのだが、迷宮の入口に着いてしまったので、今日のところはここまでとなった。


 今度また時間があるときに、もう少し詳しい話を聞きたい。

 ナナヨさんがどんなパーティーを組んでいたのか、他のパーティーメンバーについても興味あるし。


 ……決して胸の誘惑に負けて、また話がしたいと思ったわけではない。

 そのことだけは、強く言っておきたいのだ。オホン!



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