1034.迷宮上層の、特徴。
『冒険者ギルド』本所の一階の酒場に入っていくと……相変わらず、昼だというのに冒険者でごった返している。
飲んだくれている人も多数だ。
てか、この人たち、迷宮に行かないんだろうか?
まぁ人のことは、どうでも良いのだが。
俺たちが入るなり、めっちゃガン見されている。
なんだか気まずい感じだ。
階段を上って、二階のギルド受付に行く。
「グリムさん、来てくれたんですね! よかったー、訪ねて行こうかと思ってたんですよー」
俺を見つけるなり走り寄って来たのは、俺の担当になってくれている綺麗可愛い狐亜人のリホリンちゃんだ。
「どうかしたんですか?」
「それがですね……グリムさんがクランを作るっていう噂が、結構広まってまして。
まだ掲示板に貼り出してはいないんですけど、問い合わせてくる人が多いんですよ。
このままだと、グリムさんも対応が大変になるんじゃないかと思って。
あらかじめクラン入会の条件みたいのがあったら、一緒に貼り出したほうがいいと思うんです。そんな提案をしようと思っていたんです!」
リホリンちゃんは、必死な感じでまくし立てた。
リホリンちゃんの提案はありがたく、そしてちょうどよかった。
ニャンムスンさんのアドバイスで、条件を作ってあるからね。
そして、その条件をクランの告知と一緒に、貼り出してもらおうと思っていたから、ナイスタイミングなのだ。
「ありがとうございます。実は、その条件を考えていて、クランができたという掲示をするときに、一緒に貼り出してもらえないかと、お願いしようと思っていたんです」
「ほんとですか!? さすがですね。早速見せてください」
俺は、リホリンちゃんに用意した募集要項を渡した。
「ふーん……なんか面白いですね。普通こんな条件、絶対つけないですけど。グリムさんらしくて、なんだか素敵です! 私もクランに遊びに行っていいですか?」
「ええ、もちろんですよ」
「ほんとですか!? ありがとうございます。ギルドの職員なのでクランのメンバーにはなれないですけど……影のメンバーってことで、よ・ろ・し・くです」
リホリンちゃんは、話の途中で、突然俺の耳元で囁いた。
ゾクゾクってするし……めっちゃドキドキしちゃったじゃないか!
そしてそんなドキドキを、あの人は見逃してくれるはずもなく……『頭ポカポカ攻撃』が発動しちゃったじゃないか!
……トホホ。
ここは気を取り直して、本題に入ろう。
「それから、今から迷宮に行ってこようと思うんですけど……何か手続きみたいなものってあるんですか?」
「今から行くんです? なにか……お散歩に行くみたいなノリで言うんですね。まぁグリムさんなら、そんな感覚なんでしょうけど。
外に出ると迷宮の入口が見えると思うんですが、入口を入ったすぐの所に受付があって、何人かのスタッフがいます。
そこでパーティー名と帰還予定日を申告してください。これは強制では無いのですが、ほとんどみんな申告してくれます。
あと迷宮から戻ったら、その申告もしてくださいね。
帰還予定日を過ぎても戻っていない場合は、行方不明扱いとなります。もっとも、行方不明になってもギルドで捜索をするわけではないんですけどね。そんな余裕はないですから」
「分りました」
「あと……迷宮の簡単な構造だけ説明しますね。
『ゲッコウ迷宮』は、入口の受付を過ぎて下に降ると、すぐに広い空間に出ます。
そこには、魔物が出ません。
その大きな広場から東西南北四方向に通路が伸びていて、それぞれ本格的な迷宮のエリアになります。
前にギルド長からも聞いていると思いますが、『ゲッコウ迷宮』はアリの巣構造で、かつ東西南北の四つのエリアに分かれています。
それぞれの一番奥には、『エリアマスター』がいますが、そこまでたどり着くにはかなりの時間がかかります。
それぞれのエリアが広いので、五日から十日程度はかかります。魔物を倒しながら進みますからね。
迷宮は上層、中層、下層の三層に分けて把握されていますが、中層も同じような作りです。
下層は、ほとんど踏み入った記録が残っていないので、詳しくはわかっていません。
上層だけでもかなり広範囲なので、すべての構造は把握できていません。
長い年月の中で、迷宮の構造も微妙に変化していますし、危険なフロアなどは冒険者も近寄らないので、その周辺エリアはあまり探索されていないのです。命あっての物種ですから」
なるほど。
少し驚きだ。
迷宮の長い歴史の中で、上層ですら全てのフロア構造が把握されていないのか。
「あの……迷宮の地図みたいなものは、ないんでしょうか?」
「はい、一応あります。ギルドでは、冒険者の皆さんに簡単な地図を渡しています。
ただ上層の東西南北の各エリアの前半三分の一程度の範囲です。
それ以上奥の構造の地図が欲しい場合は、“地図売り”から買うしかありません。
今説明した魔物が出ない最初の大きな広場には、様々な物売りの人たちが来ています。
独自の地図を作って販売する地図売りも結構いますので、その人たちから買う冒険者もかなりいます。
ただいい加減な地図も売ってますから、注意が必要なんですけどね」
そう言ってリホリンちゃんは、ギルドで配布しているという四つのエリアの地図を渡してくれた。
アリの巣構造を上から見た感じの……フロアの繋がりや道を示す見取り図みたいな感じだ。
「どんな魔物が多く出るとか……危険な場所とか……特徴みたいなものは、記入されていないんでしょうか?」
「ええ、そうなんです。
もちろん大体の特徴はあるんですが……魔物の分布が変わることもありますし、レアな魔物も含めると書き切れないので、記載されていないんです。
地図売りが売ってる地図には、書き込みしてあるものも結構ありますよ。そういうのを売りにして、高い値段を取りますから」
「なるほど……注意は必要だけど、やはり情報量が多い地図が必要な場合は、地図売りから買った方が良いということですね。ちなみに、エリアごとの特徴みたいなものはあるんですか?」
「はい、大体の特徴はありますよ。
東エリアは、動物系の魔物が多いですね。
西エリアは、虫系の魔物が多いです。
南エリアは、水辺のフロアが多くて、魚系、両生類系、爬虫類系の魔物が多いです。
北エリアは、鳥系の魔物が多いです。
北エリアは人気が高いんです。序盤に鶏魔物『イビル・チキン』が多く出ますから。
昨日の騒動では、中区で被害を出しましたけど、『イビル・チキン』は、基本的にレベルが低くて弱い魔物なんです。
駆け出し冒険者でも倒しやすく、換金しても結構いいお金になるので人気があるんです。
ただ……今言った特徴は、あくまでおおまかな特徴で、各エリアに他の系統の魔物が出ないと言うことではありません。
あくまで出現の割合が多いと言うだけです。
例えば、鶏魔物なんかは、どのエリアでも序盤に出ます。北エリアの序盤で数が多く出て、倒しやすいというだけなのです」
「なるほど、そうなんですね。でもエリアごとに大体の特徴があるから、今おっしゃってたみたいに人気のあるエリアとないエリアがあるっていうことなんですよね?」
「そうですね。
駆け出し冒険者に人気があって、人が多いのは北エリアです。
東エリアは、すべての層の冒険者に万遍なく人気があります。
中堅以上の冒険者に人気があるのは、西エリアですね。虫系の魔物は手強いですが、素材がかなり強力で換金性もいいですから。
一番人気がないのは、南エリアでしょう。水辺が多いので戦いにくいですし、特殊な習性を持った魔物も多いですから。
換金性の高い魔物も多いんですけど、フロアを進んでいくと定期的に、ほとんど水辺というフロアが出てきて、戦いにくいんですよ。
だから未探索エリアが一番多いのも、南エリアなんです」
なるほど……エリアごとに人気不人気があるというのは面白い。
はっきり言って、俺の狙い目は、人の少ないエリアだ。
目立ちたくないからね。
まずは、不人気エリアの南エリアに行ってみよう!
「分りました。まずは行ってみます」
「頑張ってください。ちなみに……どのエリアに行くんですか?」
「えーっと……南エリアに行こうかと思います」
「やっぱりそうですか。グリムさんなら、そうすると思ってました」
なんだか俺の思考を読まれているようだ。
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