1024.クランの、メンバー、その二。

 ○それからクランのメンバーには、悪徳奴隷商人の商館から救出した初老の男性ショムニーさんと四人の少年も入っている。


 ショムニーさんは、五十六歳とのことだ。

 小柄で物静かで、人柄の良さが雰囲気に出ている。

 この迷宮都市『ゲッコウ市』に住んでいる貴族に、長年使えていたのだそうだ。

 奴隷として購入され三十年以上支えたが、年齢を理由に奴隷商人に売られたとのことだ。


 まったく酷い話だ。

 聞いただけでも頭にくる。

 その貴族の名前は、ツカイステナ騎士爵というらしいので、ギャフンと言わせてやりたいと思っている。

 きっと調べれば、悪いことの一つや二つしていると思うので、『闇の掃除人』として出動して、懲らしめる予定だ。


 四人の少年は、全員十五歳で、成人したのを機に『公都アルテミナ』から、冒険者になる為に迷宮都市を目指していた。

 その道中で、盗賊に捕まって奴隷商人に売られたという事情だった。


 彼らは、元々冒険者を目指していたので、俺のクランに入れて喜んでいた。

 というか、泣いていたけどね。

 そして、『ツリーハウスクラン』の育成冒険者第一号となった。


 ちなみに彼らは、全員レベル12だ。

 基本的な戦闘術を身に付け、ある程度の装備で初心者用の迷宮で着実にレベルを上げをしないと、すぐに命を落としてしまうレベルである。


 レイくん、アマダくん、ウラキくん、ビダンくんと言う名前で、皆同じ位の背の高さで、髪色はそれぞれ、赤、黒、黒、緑となっている。


 この子たちから、パーティーの名前をつけてほしいと頼まれたので、頑張ってつけた。

 『ツリーハウスクラン』の育成冒険者第一号なので、みんなの希望になってくれるように…… 『希望の枝ブランチオブホープ』とした。

 名づけセンスのない俺としては、まぁまぁじゃないかと自負している。

 恐る恐るニアさんのほう見たら……奇跡的にジト目を使われなかった。

 なんか、本当に奇跡を起こした気分だ! エヘン!



 改めて思うが、迷宮に挑戦しようという若手の駆け出し冒険者は、みんな彼らと同じようなレベルだと思うし、お金がないから装備も充実していないはずだ。

 命を落とす者が多いというのも、頷ける。


 命を落とさずに適度なレベルの魔物を倒して、着実にレベルを上げていく事は、普通に考えたら難しいことだろう。

 やはり迷宮に挑む上での知識や、ある程度の戦闘力、そして最低限の装備がないと厳しいと思う。


 それはわかっていたとしても……『冒険者ギルド』では、数多い駆け出し冒険者に手厚いフォローはできないようだ。

 まぁ自己責任と言ってしまえば、それまでなんだろうけどね。

 ただギルド長も憂慮しているようで、クランが少しでも駆け出し冒険者を応援する役割を果たしてくれることを期待すると言っていたんだよね。


 ギルド長によれば、ここ最近は『アルテミナ公国』の政情不安によって、力のある冒険者が国を離れることが多くなっているが、冒険者になろうと迷宮都市にやってくる新人は、ほとんど減っていないとのことだ。

 他国からも相変わらずやって来るし、国内でも政情不安であるがゆえに、逆に一攫千金を夢見て冒険者を目指す者がいて、冒険者登録をする新人の数は減っていないのだそうだ。


 また最近、初心者でもいけるような上層の弱い魔物のエリアで、突然宝箱が発見されたることが増えているらしい。

 金貨や装飾品など、まさに一攫千金を手にした冒険者が結構出ているのだそうだ。

 そんな話も広がっていて、冒険者になろうとやって来る者が、実は増えてきているようだ。


 最近増えているという、上層の弱い魔物のエリアで高価な中身が入った宝箱が発見される事例は、過去にはあまり例がないことらしい。

 “キング級の魔物の多発”とは違って、喜ばしいことなのだが、不可解な現象であることは間違いないとのことだ。


 何かあるのだろうか……?

 悪魔が関係してるのか……?

 だが、冒険者にわざわざ宝物を与える意味がわからない。

 いずれにしろ、気には留めておこう。



 ○それからクランメンバーの主役とも言える、みなしご達九十九人だ。


 最年長がツリッシュくんの十三歳で、最年少が六歳だ。


 早速リーダーのツリッシュくんとサブリーダー的な役割を果たしているハウジーちゃんが、自分たちも冒険者になりたいと申し出てきた。


 保護した四人の少年が冒険者になるという話を聞いて、自分たちも冒険者になりたいと志願したのだ。


 ちなみにツリッシュくんは、実はツリッシュちゃんなんだよね。男装している女の子なのだ。

 そのことに気づいていることは、まだ本人にも言っていない。

 水色の短髪で男の子の口調で話していたので、『波動鑑定』するまでは、完全に男の子だと思っていたのだ。

 美少年顔だと思っていたが……美少女顔だったというわけである。


 ハウジーちゃんは、かわいい感じの顔立ちをしている。

 薄緑の髪が肩まで伸びている。

 二人とも、かなりガリガリだ。


 ツリッシュくんは十三歳だし、ハウジーちゃんも十二歳だから、今冒険者にならなくても、ゆっくりでいいと思うのだが……。

 ただ、うちのリリイとチャッピーが、八歳で冒険者になってしまっているから、年齢を理由にあきらめさせるのは筋が通らないよね。


「二人は、どうして冒険者になりたいんだい?」


 まずは、二人の気持ちを確認することにした。


「強くなりたいからだよ。悪い奴らから、みんなを守れるようになりたい。それに強い冒険者になれば、お金も稼げるから、みんなにひもじい思いをさせないですむ」


 ツリッシュくんが、語気を強めて答えた。

 リーダー気質のツリッシュくんらしい理由だ。


「私も強くなりたいです。ここにいるみんなを守りたいし……グリムさんに、恩返しできるようになりたいんです」


 ハウジーちゃんも、決意のほどがわかる眼差しを俺に向けている。 


 二人とも本気のようだ。

 リリイやチャッピーを始め……今まで出会ってきた子供たちもそうだったが、こういう眼差しには弱いんだよね。

 それに危険が多いこの世界では、子供たちの為を思えばこそ危険を遠ざけるんじゃなくて、鍛えてあげるべきなんだよね。




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