1025.クラン入りの、条件。

「わかった。じゃぁ特別に、二人が冒険者になることを認めてあげるよ」


 みなしごたちのリーダーであるツリッシュくんとサブリーダーのハウジーちゃんの本気の決意を確認した俺は、二人の気持ちに応えてあげることにした。


「ほ、ほんとに……いいの?」

「ありがとうございます!」


 ツリッシュくんはガッツポーズをし、ハウジーちゃんは飛び跳ねた。

 すんなり俺がオーケーを出したので、逆に驚いた感じになっていたが、すぐに喜びに変わったようだ。


「どうせなら……レイくんたちと一緒に、六人でパーティーを組んだらいいよ」


 俺がそう提案すると、二人は少し不安そうな表情になった。

 だが、一緒にいたレイくん、アマダくん、ウラキくん、ビダンくんの四人がさっと集まって、手を差し伸べた。


「リーダーシップがある君たちとやれるなら嬉しいよ! よろしく!」

「四人じゃ心もとないと思ってたんだ。ありがたいよ。一緒にやろう!」

「これで冒険者デビューもより早まった感じだよ!よろしく!」

「君たちなら大歓迎だよ。ともに頑張ろう!」


 そんな優しい声をかけてくれた。

 この子たちは純粋というか……性格がすごくいい感じで助かる。

 それを受けてツリッシュくんとハウジーちゃんは、破顔した。


「よ、よろしく……お願いします」

「ありがとうございます。これから仲良くして下さいね」


 これで『ツリーハウスクラン』の育成冒険者第一号の『希望の枝ブランチオブホープ』は、六人になった。


 二人は、本当に嬉しそうだ。


 そんな様子を見ていた他の子供たちが、自分も冒険者になると一斉に手をあげた。


 おおっと、これは困った。

 この子たちについても、まだ小さいからという理由で一律に断るのは可哀想だが……どうするか。


「はいはい、わかった。まずはリーダーのツリッシュくんとサブリーダーのハウジーちゃんが挑戦するけど、みんなもいずれ挑戦しよう! でもまずはいっぱい食べて元気になって、体力をつけないといけない。そして、戦う力も身に付けないとね。そのために、これからみんなには護身術などを勉強してもらうから、冒険者になりたい人は、まずそれを頑張ること、いいね!?」


 俺は子供たちの気持ちを受け入れつつ、今すぐではなく、ちゃんと準備をしてからという展開にした。


「「「はーい」」」


 俺の言葉に、みんな素直に返事をしてくれた。

 聞き分けが良くて助かった。


 なんか先生になった気分で、ちょっと気持ちいいね。


 実際問題……この子たち全員が、冒険者になる道を歩む可能性もある。

 まぁそれはそれで良いだろう。

 ただ俺としては、他の可能性というか選択肢も与えてあげたいので、文字の読み書きを始め、農業やものづくりなど色んなことを体験させてあげたいと思っている。


 育成冒険者第一号のツリッシュくんたちも、すぐに迷宮に行くのは危険だから、当分は様々な訓練をしてからだけどね。

 セイバーン公爵領『セイセイの街』で、衛兵になりたいと言っていた犬耳の少年バロンくんを訓練してあげたように、まずは護身柔術からしっかり学んでもらわないとだね。


 護身柔術の先生はリリイとチャッピーに努めてもらい、『希望の枝ブランチオブホープ』のメンバーだけでなく、子供たち全員に教えてもらおうと思っている。

 まず最初は、護身柔術体操からだし。


 冒険者としての心得や武器の扱い方は、『美火美びびび』のメンバーに教えてもらうことにした。


 そんな話の中で、冒険者部門の長になってくれたニャンムスンさんが、一つの提案というかアドバイスをしてくれた。


 それは、俺がクランを作ることが、今日の夜にでも『冒険者ギルド』の掲示板に貼り出されるだろうから、そのタイミングで募集要項のようなものも載せてもらった方がいいというアドバイスだった。


 ニャンムスンさんの見立てでも、かなりの数の冒険者たちがクランに入りたいと尋ねて来るだろうとのことだ。


 今ある冒険者クランに入ることもなかなか難しいから、入会を断っても直ちに悪意を持たれないが、それでもすごい数の人たちを断っていたら、逆恨みされる可能性もあるのではないかと心配してくれているのだ。

 それなら、訪ねてくる冒険者が絞られるように、最初から選考条件を明示した方が良いというのだ。


 ニャンムスンさんの話では、一番簡単なのはFランクすなわち『初級ビギナーランク』に限定することだ。

 確かにこれなら一気に絞れるし、駆け出しの冒険者を支援するというクランの目的にも合致している。


 ただ……Eランク『下級イージーランク』の冒険者も、駆け出しの冒険者と言えるから、支援した方が良いだろうとのことだ。

 もっとも、Eランクの冒険者はかなりいるようので、該当させるとそもそもランクで絞り込んだ意味はなくなるとのことだが。

 やはりランクという形式的な条件ではなく、実質的な絞り込み条件を明示した方が良いだろう。


 また、Dランク『中級ミドルランク』の冒険者でも、有望なパーティーはクランに入れた方が、クランのためになるだろうとニャンムスンさんはアドバイスしてくれた。

 そして、自分たちよりも強いパーティーが、クラン入りを希望する可能性もあるから、自分たちに遠慮しないで入れて欲しいとも言っていた。


 やはり具体的ないくつかの項目を明示して、それでも良いという人だけが来る絞り込みを、しっかりかけなければならない。


 そこで俺は、いくつかのシンプルな条件を作った。

 それは、仲間として一緒に活動できるかという観点から作ったものだ。

 実は、俺の分身……『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが作った『残念B組! ナビ八先生』の『ナビー先生との八つの約束』をベースにして作った。


 これを、『冒険者ギルド』に頼んで、『ツリーハウスクラン』が設立されたという告知を掲示板に貼るときに、一緒に貼ってもらうことにした。


 ————————————————————————

 『募集要項』

 ○以下の項目を守れる人を、選考の上、クランのメンバーに迎え入れます。


 一、笑顔で挨拶をする。

 二、感謝の心を持つ。

 三、命を大事にする。

 四、家族仲間を大事にする。

 五、弱いものを守る。

 六、嘘をつかない。

 七、盗みや悪いことをしない。

 八、自分を許し愛する。

 九、差別をしない。

 十、クランの子供たちの面倒を見る。

 十一、炊き出し等の奉仕活動を手伝う。

 十二、若手冒険者や冒険者を目指している人を指導し、助ける。


 ————————————————————————


 これでどこまで絞り込めるかわからないが、この条件で行こうと思う。


 結構突飛な条件かなとも思っていたのだが……ニャンムスンさんの反応は意外と良かった。


 ニャンムスンさん曰く、子供たちの面倒を見なきゃならないとか、奉仕活動をしなきゃならないという項目があるから、そういうのを馬鹿にしている冒険者は、来なくなるだろうとのことだ。

 また、若手冒険者の指導もしなければならないので、実利だけを求める中堅冒険者も来なくなるだろうとのことだ。


 そう考えると、結構良い条件付けだったかもしれない。


 これに合わせて、ニャンムスンさん達が噂を流してくれることになった。

「『ツリーハウスクラン』は、基本若手冒険者を支援する為のクランなので、EランクやFランクの冒険者を優先する。

 優秀な中堅の冒険者も受け入れるが、若手の指導をしなければならない。

 迷宮攻略に専念したい場合は向いてないだろう」という噂を流してくれるとの事だ。


 クラン入り希望者の面接は、一応俺がすることにした。

 ただはっきり言って面倒くさいので……『舎弟ズ』で若者の取り扱いに慣れているナビーさんに、丸投げしようかと思っている。

 この俺の脳内思考もナビーには筒抜けだが、特に文句を言ってこないので、やってくれるつもりなのだろう。


 あとは……採用面接のプロと言える『アメイジングシルキー』のサーヤに頼むという手もあるんだけどね。




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