1017.エリアマスター攻略を、目標に。
「いやぁ……本当によかったです。実は私も、グリムさんに提案しようかと思っていたんです。ただギルド長のように、子供たちを『クラン』のメンバーにするという発想はありませんでしたが」
俺が『クラン』を作る決意をしたのを受けて、メーダマンさんも喜んでくれた。
「『クラン』を作ることを、提案しようと思ってくれていたのですか?」
「はい、冒険者として活動する上で、グリムさんくらいの方だったら『クラン』を作った方がいいと思っていたのです。
息子のキィティロウや『
他の冒険者も、『クラン』に入れてほしいと言ってくると思ういますよ。
昨日の魔物退治の活躍で……『キング殺し』という二つ名とともに、すっかり有名人ですからね」
「そうかも知れんのう。ある程度自立できている冒険者パーティーでも、良い『クラン』があれば入りたいと思っておるじゃろ。
良い『クラン』は、幾つかあるのじゃが……入会条件が厳しくて、なかなか入れんからのう。
それに、変な『クラン』に入ってしまえば、こき使われたり、搾取されたりしてしまうしのう」
ギルド長が、思案顔で言った。
「『クラン』と言うのは、そんなに人気があるのですか?」
「……ここ数年で、増えてきただけじゃが、いくつかの『クラン』が実績を上げて有名になって、それにあやかろうと『クラン』を作る者が増えたのじゃ」
「やはり迷宮を攻略する上でも、有利なんですか?」
「考え方一つじゃのう。
もともと『エリアマスター』などを攻略するときは、単独パーティーでは難しいから、パーティーを集めて集団で攻略するのが一般的なのじゃ。
それが発展したというか……臨時ではなく、いつも集まっているのが、『クラン』だと言うこともできる。
寄せ集めの集団で攻略するよりも、みんな気心が知れているし、連携も取れるから成功率も高くなる。
『エリアマスター』を攻略すれば、それこそ一攫千金じゃから、大人数で分けてもかなりの取り分になるのじゃ。レアな素材やアイテムも手に入るしのう。冒険者の夢じゃな」
なるほど……。
『ゲッコウ迷宮』には『エリアマスター』がいて、それを討伐するのが冒険者の夢というか、大きな目標になっているわけか。
それを成し遂げるために、『クラン』を作って精進するのが良いということなのだろう。
それにしても、レアな素材やアイテムが手に入るのか……早く迷宮に入りたいなぁ。
肝心の迷宮に、まだ行けてないからね……トホホ。
「『エリアマスター』というのは、階層のボスということなんでしょうか?」
「まぁそんなようなものじゃな。
もっとも『エリアマスター』がいるのは、この南区にある『ゲッコウ迷宮』だけで、北区にある『セイチョウ迷宮』には出ないがな。
現在確認されているのは、上層エリアでは四体じゃ。
アリの巣構造の迷宮なのじゃが、東西南北の四つのエリアに分けることができる。
それぞれの一番奥の広大なフロアに、『エリアマスター』がおるのじゃ。
中層にも同様に、東西南北の『エリアマスター』がいると言われておる。
ただ、ここ数百年は中層の『エリアマスター』を倒したという記録は無いがのう。
下層は踏み入れること自体が少ないから、記録には残っていないのじゃ」
「やはり『エリアマスター』を倒すのは、大変なんですか?」
「そりゃそうじゃ。かなりの準備をして、それなりの人数であたらないと、まず不可能じゃのう。
レベルは最低でも50はあるからのう。
だがお主なら、かなり可能性があるだろう。
『エリアマスター』を倒すことを目標にして、迷宮に挑むのが、武者修行としては一番良いじゃろうのう」
「『エリアマスター』は、一度倒せばいなくなるわけではないのですか?」
「それが迷宮の不思議なところでのう。一定期間が経つと、新たに『エリアマスター』が登場するのじゃよ。
同じ種族であることもあれば、全く違う種族が『エリアマスター』として登場することもある。
ああそれから……言い忘れたが、『エリアマスター』の手前の部屋で、『サブマスター』との戦いがあるのじゃ。この『サブマスター』に勝てるパーティーもなかなかおらん。
『サブマスター』を攻略しただけでも、迷宮都市は大騒ぎじゃよ」
「そうなんですか。じゃぁもし『エリアマスター』を倒したら……もっと大事になるのでしょうか?」
「そりゃそうじゃ。迷宮都市を挙げての祭りじゃよ!」
なるほど……『エリアマスター』には挑んでみたいけど、大騒ぎになっちゃうのはちょっとヤダなあ。
「おぬし……大騒ぎは面倒くさいみたいなことを今考えたじゃろう? ギルド会員には、迷宮で特殊な魔物を倒したり、『サブマスター』や『エリアマスター』を倒した場合、報告する義務がある。誤魔化す事は、規則違反になるぞい」
俺の心の内を見透かしたかのように、ギルド長がニヤけ顔で言った。
俺は苦笑いするしかなかった。
「『サブマスター』や『エリアマスター』を討伐した冒険者が出れば、迷宮都市を挙げての祝賀行事を行うのが何百年も伝わる伝統じゃからのう。
この都市の人間は、それを楽しみに生きていると言っても良いくらいじゃよ。
だから今回のおぬしの『キング殺し』という二つ名がつくほどの活躍は、本来ならお祭り騒ぎをするほどのことなのじゃ。
だが……残念ながら都市に被害が出ておるからのう。お祭り騒ぎはできんがな……」
ニヤニヤしながら、ギルド長が俺を見た。
俺は、再び苦笑いするしかなかった。
そんな俺の反応を見て、ギルド長が悪い笑みを浮かべた。
「『キング殺し』という二つ名を変えたければ……『エリアマスター』でも倒すしかないのう。
しかも……四体とも。
もっとも、そうなったら……『エリアマスター殺し』という二つ名になるかもしれんがのう。ワッハッハ」
ギルド長が、楽しそうに笑っている。
なんとなくだが……ギルド長って、俺の存在で楽しんでいるが気がするんだけど……まぁいいけどさ。
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