1016.『クラン』という、プライベートギルド。
ツリーハウス屋敷は、子供たちがワイワイ言いながら草取りを行っている。
俺は、農地の整備が大体終わったところだ。
『冒険者ギルド』に行く約束の時間が近づいてきたので、一旦切り上げてメーダマンさんとともに向かうことにした。
引き継ぐことになった『トリドリ商会』の会頭夫人と、改めて契約を交わすことになっているのだ。
物件を確認して問題がなかったので、提示した金額で買い取るつもりだ。
◇
無事に契約を交わし、代金も支払った。
夫人は、かなり喜んでくれていた。
今にして思うと……『トリドリ商会』を引き継いだので、ギルドの酒場への納品を『ヨカイ商会』に切り替えなくてもよかった。
『トリドリ商会』は、俺が買い上げたが、この迷宮都市では冒険者以外の活動は、自重しようと思っているので、メーダマンさんに会頭をお願いした。
『フェアリー商会』の子会社というかグループ商会になった『ヨカイ商会』と『トリドリ商会』は、両方ともメーダマンさんに会頭をお願いするかたちになった。
合併して一つにする選択肢も当然あるし、その方がいろんな面で効率が良いとも言える。
だが、既存のお客さんもあるので、現状を維持した方が良いと判断したのだ。
合併する方が、いろいろと面倒くさい。
それに合併は、いつでもできるからね。
しばらくメーダマンさんが大変だと思うが、人材を育てていけば良いだろう。
今日の契約の時に、会頭夫人が前に有望だと言っていた若い女性スタッフを同行させてくれていた。
確かにすごく優秀そうだったので、いずれ彼女を会頭にしてもいいかもしれない。
契約が終わって、夫人たちはギルド長室を出て行って、俺とメーダマンさんも立ち去ろうとしたのだが、ギルド長に引き止められて、再度腰掛けた。
「悪いが……色々と話しとかなきゃいけないことがある。まず最初に忘れないうちに……ツリーハウスがある物件を買ったじゃろう?」
ギルド長が、含みのある笑みを浮かべた。
「もうご存知でしたか? 情報が早いですね」
友人のメーダマンさんも、意外だったようだ。
「そりゃそうじゃ。あの物件の持ち主は、ワシじゃからな! ワッハッハ」
ギルド長が豪快に笑った。
てか……あの物件、ギルド長のだったのか!
困っているわけでもないだろうに、売却する必要があったのだろうか?
「そうだったんですか。驚きました。購入させてもらってよかったんでしょうか?」
俺は、念のため確認した。
あんな素晴らしいツリーハウス……売却しちゃもったいないと思うんだよね。
「ほんとですよ! ギルド長も人が悪い。言ってくださいよ」
メーダマンさんも、知らなかったようだ。
「まぁ良いではないか。ワシの持ち物と言うと、買いづらくなったり、断りづらくなったりすると思ってのう。シンオベロン卿が気に入って買ってくれたのは、ワシにとっても幸いじゃから、好きに使ったらいい」
ギルド長が、上機嫌だ。
「お気遣いいただいたんですね。ありがとうございます。すごく気に入りました。大事に使わせていただきます」
「気に入ってくれたのが、一番嬉しいわい。
あの家は……ワシが冒険者だった頃、仲間と一緒に住んでいた家でのう。
ワシが引き継いで管理しておったのじゃが、由緒ある家だから変な奴には売りたくなかったのじゃ。
ワシも歳じゃから、しっかり引き継いでくれそうな者に売りたかったのじゃよ。
シンオベロン卿が買ってくれなければ、無理矢理ハートリエルちゃんに引き継いでしまおうかと思っておったところじゃからのう」
「そうだったんですか。むしろハートリエルさんに引き継いだ方が良かったんじゃないですか?」
「いやいや良いのじゃ。
ちらっと話を振った事はあるが……全く興味なさそうだったし、どちらかと言うと迷惑そうだったからのう。
気に入ってくれた者が使ってくれた方が、良いのじゃよ」
「ありがとうございます。ただ……空いてるスペースに新たに大きな屋敷を建てようと思っています。実は保護した子供たちが結構いまして……子供たちの部屋が必要なものですから」
「どんな使い方をしてもかまわんよ。もうおぬしのものじゃからのう。それにしても……子供たちを保護したのかい? どういう経緯で子供たちを保護したんじゃ?」
ギルド長は何かを感じ取ったらしく、ニヤけながら尋ねてきた。
俺は、子供たちを保護した経緯を説明した。
「ワッハッハ、こりゃ呆れたわい。迷宮都市に来て数日で九十九人も浮浪児を保護したのかい。
魔物を倒しまくったり……子供を保護しまくったり……ほんとに面白い男じゃのう。
あのツリーハウスも賑やかになるのう。面白いことになりそうじゃ。ワシも時々遊びにいかせてもらうかのう?」
「ええ、是非いらして下さい」
「それにしても……今後どうするのじゃ? ずっと一緒に住むのかね?」
「実は……『コウリュウド王国』のピグシード辺境伯領で移民を募集してるので、そちらに移住してもらおうかとも思っているのですが……」
「なるほどのう。それはそれで良いと思うが……ただ注意した方がいいかもしれぬな。
誰も気づかないうちに移住してもらうなら良いが、保護して一緒に住むとなると噂はすぐに広まるじゃろう。
特にお前さんのことは、すぐじゃろう。
そうなってから他国に移住させると、国から横槍が入るかも知れん。下手したら国際問題じゃ。
誰も気づいていない今移民させられないのならば、移民はやめたほうがいいかもしれんのう……」
ギルド長が、思案顔でアドバイスしてくれた。
……確かにそうかもしれない。
「そうですね……」
「孤児院にでもするかね?」
「それも選択肢として考えているのですが……」
「私立の孤児院は、許可制では無いから作ろうと思えば作れるが……孤児院というだけで国が横槍を入れてくる可能性があるのう。
まぁこの迷宮都市の太守のムーンリバー伯爵は大丈夫だろうが……公都から直接指示が来たら、厳しいかもしれんのう。
そう考えると……初めから一工夫しといたほうがいいかもしれんのう……」
「一工夫というと、何か妙案があるのでしょうか?」
俺の問いに、ギルド長はニヤリと笑った。
「プライベートギルドを作ったらどうだい?」
「プライベートギルドというと?」
「『冒険者ギルド』や『商業ギルド』などは、公的なギルドになる。
それとは別に、純粋に私的なギルドを『プライベートギルド』と言っておる。
公的ギルドとの区別をはっきりするために、『クラン』と呼ばれることが多い。
最近は、このクランを作るのが流行みたいになっておってのう。
強い冒険者パーティーを中心に、いくつかのパーティーが集まって『クラン』を作っておる。
冒険者の共同体みたいなものじゃな。共同で迷宮攻略に当たったり、その後の処理を効率よくこなしたり……メリットもいろいろあるのじゃ。
一応『冒険者ギルド』でも、『クラン』の登録を受け付けていて、冒険者ランクの評価の際も考慮されたりするのじゃ」
「そうなんですか。全然知りませんでした。でもその『クラン』を作る事が、子供たちと関係あるのでしょうか?」
「ワッハッハ、慌てなさんな。
『クラン』は、冒険者だけに限ったものではなくてのう、大きな『クラン』になると、商人が入っていたり、下働きする者が入っていたりするのじゃ。
場合によっては、ちょっとした商会のような活動をすることもある」
「なるほど……」
「わからんか……鈍い奴じゃのう。
『クラン』を作って、子供たちをメンバーにしてしまえば、孤児院では無いから国は横槍を入れにくくなる。
それに、『冒険者ギルド』に登録すれば『冒険者ギルド』の管轄になるから、国は余程の事がない限り介入しづらい。ワッハッハ、わかったかのう?」
「なるほど! そういうことだったんですね。それはよさそうですね」
「そうじゃろう。『クラン』は何をやっても良い私的な集まりじゃから、簡単な商売のようなこともできるぞ。
それに『商業ギルド』に届け出れば、商会と同じように商売することも可能じゃ。
屋台をやってる連中が作ってる『屋台組合』なども、『クラン』の一種と言えるしのう」
「ありがとうございます! 私の今後の迷宮都市での活動には、『クラン』を作るのがいいみたいですね。素晴らしいアドバイスを、ありがとうございます」
俺が礼を言うと、ギルド長はニヤリと笑った。
なんとなくわかってきた……『クラン』は、冒険者の集まる生協みたいな感じだし、サークルみたいな感じでもあるようだ。
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